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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1980/2319

1910話 変幻たる力

 厄介な相手だ。と。

 悠然とした表情を崩さぬままに、テミスは胸の内で歯噛みをした。

 こうして相対している間も、アイシュはただ構えを取っているだけで微動だにせず、ただこちらの様子を窺っているだけ。

 それは、テミスが攻撃を加えたあの瞬間も全く同じで。

 だというのに、反撃に繰り出された闇色の刃は恐ろしく迅く、何よりも予備動作らしき動きが一切見当たらないせいで、繰り出されるタイミングが酷く読みづらいのだ。

 だが、唯一の救いなのは、恐らく射程距離が狭いであろう事。

 足元から湧き出てきた事から考えるに、全周百八十度は射程範囲内なのだろうが、こうして相対している間にも放ってこない辺り、せいぜい奴自身から二メートル前後と言った所だろう。


「ふふ……戦い方を変えると仰っていた筈ですが……攻めて来られないのですか?」

「安い挑発だな。その手には乗らん。わざわざお前の刃が待ち受ける懐へ飛び込んでいってやるほど、私は阿呆ではない」

「そうつれない事を言わないで下さい」

「っ……!?」


 クスリと微笑みを浮かべて挑発するアイシュに、テミスは不敵な笑みを以て応ずる。

 だが、肩を竦めたアイシュの言葉と共に、不意に放たれた闇色の鎖は完全にテミスの虚を突いており、交わす間も無くじゃらりと音を立ててテミスの首に巻き付いた。


「チィッ……!! これはッ……!!!」

「捕まえましたよ? これで、あなたは私のモノだ」

「ハッ……!! こんな鎖がどうした。そう易々と引き込まれるかッ!!」


 しかし、遅れは取ったものの即応したテミスは、構えた大剣から片手を離して自らの首へと巻き付いた鎖を掴むと、自らの側へと引き寄せるべく鎖を手繰るアイシュに対抗する。

 両者の手によって引き合われた闇色の鎖はぴんと張り詰め、キシキシと嫌な音で悲鳴をあげた。


「余裕かそれとも制約か……どちらにしても、残念だったなァ。このまま引きずり出してやるッ!!」

「っ……!! なるほど……凄まじい力だ。ですがッ……!」

「ッ……! クッ……!!」


 テミスは意趣返しの如くニンマリと微笑むと、逆にアイシュを己の側へと引き寄せるべく手にした鎖に力を込めた。

 あと数歩で構わない。

 半歩の踏み込みで大剣の切っ先の届く位置まで距離が詰まれば、闇色の刃の射程の外から切り刻む事が出来る。

 そう画策したテミスであったが、アイシュは一歩テミスの方へと引き込まれるようによろめいたものの、すぐに何らかの対策を講じたのか、それ以上動く事は無かった。

 そうして再び、テミスはアイシュと睨み合う形で拮抗する事となったのだが……。


「……仕方がありませんね。できる事なら、これ以上傷付ける事無く連れて帰りたかったのですが」

「随分な自信だな。自信ついでに教えろよ。お前、何処の国の奴だ?」

「知ってどうするのですか? どうせ、すぐに泣き喚くだけになるのに」

「ククッ……!! 舐めた口を――グゥッ!?」


 小さくため息を吐いてから、アイシュは僅かに目を細めてテミスを見やると、気怠げに言い放った。

 だが、その言葉を真に受けるテミスではなく、情報収集をかねて言葉を重ねる。

 けれど、応じたアイシュは呆れたような言葉で嘯くばかりで。

 テミスは湧き上がった苛立ちに呼応するかの如く歯を食いしばると、握り締めた鎖に更なる力を込めた。

 しかし……。


「さ。我儘を言っていないで。こちらへおいで」

「クソッ……!!!」


 ズキリ。と。

 鎖を握り締めた手が鋭い痛みを発したのを知覚した瞬間。

 テミスは鎖を掴んでいた自らの手が、内側から飛び出た闇色の棘によって貫かれているのが目に入った。

 想定外の一撃に気を取られたテミスの力が僅かに緩み、鎖を引くアイシュの力に負けて一歩引き込まれる。

 だが、傷を受けたからといって為されるがままに従うテミスではなく。

 即座に身を捻って大剣を跳ね上げると、更に一歩引き摺られながらも張り詰めた鎖に大剣を叩き落とした。


「っ……!! おぉ……!!」

「ッ……!!!」


 咄嗟に振るわれたテミスの一太刀は、二人を繋ぐ闇色の鎖をバヂィンッ! と甲高い音を立てて断ち切った。

 その隙を逃す事無く。

 テミスは全力で前へと飛び出すと、アイシュの傍らをすり抜けて陽光の元へと転がり出る。

 しかし、テミスの手を貫き、首に巻き付いたままの鎖が消え失せる事は無く形を保ち続けていた。


「流石に驚きました。まさか、断ち切られるとは。お見事です」

「忌々しい奴め……!」


 拘束を断たれて尚、パチパチと手を叩いて賛辞を述べるアイシュに、テミスは片手を首に吊った格好のまま大剣を肩に担ぐと、苛立ちを隠す事無く吐き捨てる。

 既にその瞳に侮りは無く、テミスは眼前の敵を屠るべく、大剣の柄を握る片手にギシリと力を籠めると、低く姿勢を落したのだった。

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