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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1975/2318

1905話 それぞれの距離で

 砦への先行偵察。

 テミスがフリーディアへと告げた言葉は、あながちすべてが嘘という訳ではなかった。

 無論。あの夜に出立をしようとしていたかのような言い回しは虚勢(ブラフ)だが、雄略な作戦案としてテミス単独での先行偵察は存在していた。

 加えて、ユナリアスとの問答で先行偵察を決行すべしという意思も、テミスの内で固まりつつあったのだ。

 だが、懸念点が二つ。

 一つはテミスが不在の間の拠点の維持。

 現状では、この島の衛生状態は良好とは言い難い。

 もしも、騎士達の間に病が広がってしまえば、上陸した部隊は瞬く間に壊滅するのは目に見えている。

 そしてもう一つは、テミス自身の耐久性だ。

 幸か不幸か、自称女神とやらの権能か何かか、通常ならばテミスは酒に酔う事すらできない。

 だが、その耐性に胡坐をかいて砦へと赴いた結果、内に蔓延っていた病を媒介してしまったなどという結果を導いてしまっては目も当てられない。

 だからこそ、まずは足元を固めるべく、この世界に死病が存在するか否かを確かめていたのだが……。


「我々の最終目的は砦の再建だ。そのためにはまず、我々自身の足元とも言うべき拠点の整備は急務だろう。だが同時に、砦の現状を正しく把握しておく必要もある」

「それは理解できるわ。私も一度、状態を確認しておく必要があるとは思っていたもの。はぁ……なら、貴女を部隊長に数名、先遣隊を編成するわ」

「いや……」


 話が真面目なものへとすり替わるのに合わせて、フリーディアはスイッチを切り替えるかの如く瞬時に態度を豹変させると、生真面目な表情でテミスの案を承認する。

 けれど、例え少数とはいえ同行者が居ては不都合である事に変わりはなく、テミスは眉を顰めて重たく口を開いた。


「先行偵察は私単独で行く」

「ッ……! 危険過ぎるわ! いくら貴女でもそれは許可できない!」

「危険だからこそだ。それに、ここから砦まで部隊で行軍していては些か時間がかかり過ぎる。足場固めも急がなくてはならない以上、先行偵察に余分な人員を割いている暇もあるまい」

「けれど!! 単独では何かあっても救援に向かえない!! 助けを呼ぶことすらできないのよ!?」

「必要無いさ。そもそもお前としては、私はこの辺りで消えておいてくれた方がありがたいんじゃ――」

「――ッ!!!」


 皮肉を重ねて告げるテミスに、フリーディアは当然の如く猛然と反発する。

 それに加えて、フォローダの町を出る時の一件が、何処か胸の片隅に巣食っていたのだろう。

 肩を竦め、偽悪的な表情を浮かべて続けたテミスの言葉が一線を越えかけた瞬間。

 素早く閃いたフリーディアの右手がパチンとテミスの頬に添えられ、紡ぎかけた言葉を無理矢理に遮った。

 痛みは無い。

 頬に掌が触れた際に響いた音も僅かなもので、張り手を喰らわされた訳ではなかった。

 だが……。


「馬鹿な事を言わないで。冗談でも……ここまで共に来てくれた貴女に、そんな事を言われたら悲しいわ」


 振り抜かれる事の無かった掌が微かに震え、その度に僅かに触れる冷たい肌が、フリーディアの告げた言葉の真摯さを後押ししていた。


「……悪かった。言葉が過ぎた」

「ん。二度と言わないで。あなたが厭おうと、私は絶対に貴女も守る。それがこの戦いに、貴女を巻き込んだ私の責務よ」

「ハン……責務ときたか。お堅いんだよ……いちいち。というか、勘違いするなよフリーディア。私は、私の意志でここに居るんだ。断じてお前に巻き込まれたから、ここに居る訳ではない」

「そう? ふふん……なら、少し柔らかくいきましょうかねッ!?」

「もぷッ……!? みゃにおッ!?」

「いつもいつも、憎まれ口を叩くのはこの口ですかッ!? あらあら随分柔らかい! 確かにこれだけ柔らかいと、私はさぞかしお堅く映るでしょうねぇッ!!」

「むぎゅッ……! ひゃ……ひゃめっ……!! フリーヒアッ!!!」


 真剣に告げられたフリーディアの言葉に、テミスもまた僅かに表情を歪めて視線を逸らし、素直な言葉でボソリと謝罪を告げる。

 しかし、瞬時に漂い始めた重苦しい空気は、突如として声色を明るいものへと変えたフリーディアによって霧散した。

 同時に、フリーディアは頬へ当てていた掌をわきわきと蠢かせ、テミスの顔をもみくちゃにし始める。

 それにはテミスも堪らず、発音すらままならない叫びをあげるのだが、そこにはつい先刻まで確かにあったしこりのようなものは欠片たりとも残っていなくて。


「……やれやれ。敵わないね。やっぱり。ふふ……こら! 二人共! 私をのけ者にするとはいい度胸だね!! 隙ありだよフリーディア!」


 目まぐるしく入れ替わっていく二人の間の空気を眺めていたユナリアスは、小さく肩を竦めてクスリと微笑みを浮かべた後、楽し気な声をあげてドタバタと揉み合う二人の中へと飛び込んでいったのだった。

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