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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1969/2319

1899話 朽ち果てた村跡

「っ……! 藪を抜けたぞ」


 互いに気まずさから口を噤み、ただ黙々と藪の中を突き進むこと十数分。

 突如前を行くロロニアが立ち止まると、短く告げて傍らへ退き、テミスへと道を譲る。

 その先には、古く寂れた家屋の立ち並ぶ村が佇んでいた。


「随分と荒れているな……。放棄されてから随分と時が経っているように見える」

「さぁな。俺も詳しい事はわからねぇが、今も昔もここに住み着いている奴はいなかったはずだぜ」

「だろうな。王家の別荘に次いで要塞なんかができたんだ。小規模の逗留場とはいえ、存在しているだけでも驚きだよ」

「っ……!!」

「……? 何だ? 妙な顔をして」

「いや……驚いただけだ。まさかアンタが、この島の変遷を知っているだなんて思わなくてな。てっきり、そう言った事には興味が無いモンだとばかり……」

「フッ……。ロンヴァルディアの歴史になど興味が無いのは事実だが、そうも面と向かって言われると癪に触るな」


 静まり返った村の中を歩みながら、テミスとロロニアは軽い調子で言葉を交わす。

 その間も、ロロニアは周囲へ油断なく視線を配り、テミスも腰に刀に手を番え続けていた。


「ン……。村はもう終わりか。これでは、村というより集落に近いな」


 しかし、少し言葉を交わしているだけの僅かな時間が過ぎる間に、テミスの視界には村の終わりらしき鬱蒼と茂る藪が映り、その場で足を止めてぐるりと改めて周囲を見渡した。

 どうやらこの村は、たった数軒の建物が連なっていた場所であり、その建物も今や老朽化や傷みが進み、僅かに四棟ほどを残すのみとなっている。

 加えてその四軒の建物も痛みが酷く、危険を冒して中へ入ることはできたとしても、決して拠点として使えるような状態ではなかった。

 だが、以前は人の営みが在ったお陰なのか、踏み固められた土と雑に敷かれた荒い石畳は、村が藪の中へと埋もれるのを防いでいる。


「幸いといっちゃ何だが、この場所なら傾斜も少ねぇし、あっちの港からもそう距離がある訳でもねぇ。野営をするには十分じゃねぇか?」

「ウム……だがそれでも部隊を分ける事に変わりはない。元は漁師たちが使っていた場所だ。手間にはなるだろうが、船をこちらへ回すべきだろうな」

「いや……そいつは無理かもしれねぇな」

「何……?」


 テミスがそう思案する傍らで、ロロニアは深く頷きながら感想を述べる。

 しかし、あくまでもここは最前線にほど近いうえに、拠点として重視されていた島なのだ。敵襲に備えて戦力の分散は避けるべきだろう。

 そう考えたテミスは、湖のある方へとゆっくり足を向けて考えを零した。

 けれど、返ってきたのは予想だにしていなかった唸るようなロロニアの言葉で。

 驚きの表情を浮かべて自らを振り返るテミスの横をすり抜けて、ロロニアは石を積み上げただけの港らしき場所まで向かうと、厳しい死線を水面へと向けて言葉を続けた。


「チッ……やっぱりな。話だけは聞いた事があったからもしやと思っちゃいたが、やっぱりか」

「どういう事だ?」

「水深が浅すぎるんだよ。聞いた話じゃ、ここへ逗留する漁師連中は皆、本船から渡り舟を出していたらしい。その筈だ。こんな深さじゃあマトモな船は入れねぇ」

「フム……」


 舌打ちをするロロニアに倣い、テミスも水面から水の中を覗き込んでみるが、不覚青みが勝った湖の水の向こうに、僅かに黒い湖底の影のようなものが見えるだけで。

 それなりの深さがあるようには見えるものの、テミスには正確な深さまでは推し量る事が出来なかった。


「あんな身を乗り出すなよ。浅すぎるとは言っても、足が付くほどじゃねぇ。アンタの身長じゃ……ざっと二人分くらいか」

「良くわかるな……流石は湖族って所か。ともあれ、船をつける事が出来ないのであれば、隊を分けるか、あの惨状の中で一夜を明かすか……か」

「そこの判断はアンタ等に任せるぜ。漁師連中の話じゃ、沖合に船を括る為の杭が打ち込んである岩場があるらしいが……正確な位置までは聞いてねぇからな、こっから見ただけじゃ流石に見付からねぇ」

「これだけ村自体が朽ちているんだ。その杭とやらも、無いものと考えるのが妥当だろう」


 湖へと目を凝らすロロニアに、テミスは肩を竦めて言葉を返すと、思考を巡らせながら再び視線を村へと戻す。

 艦船の防衛を考えないのであれば、砦への道からも外れているこの場所は、一時的な拠点を築くには最適だろう。

 たとえ逗留中に敵が襲撃を仕掛けてきたとしても、ともすれば気付く事無くやり過ごす事が出来るかもしれない。

 事実。以前にテミス達がパラディウム砦へ突撃した時には、この村の存在に気付く事はできなかった。


「ともあれ、一度戻るか。フリーディア達とも相談すべきだろう」

「あぁ。わかった。だが、この村に野営をする気なら俺にもひと声知らせてくれ」

「わざわざ釘を刺さずとも報せるとも」

「……頼んだぜ」


 踵を返し始めたテミスの背にロロニアはそう告げた後、苦笑するテミスへ静かに言葉を重ねると、共に軍港への帰路へとついたのだった。

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