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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1966/2318

1896話 勝ち取りし自由

 数日後。

 フォローダ家当主であるノラシアスにより作戦が正式に認可されたフリーディア達は、再びパラディウム砦を目指して船を駆っていた。

 傍らに随伴しているのは、ロロニア率いる湖族たちの乗る新型艦で。

 先の戦いにおける契約により、報酬としてノラシアスから鹵獲したヴェネルティ船の一部を譲り受けたロロニアは、さっそく自分達の好みに合わせて改修を重ねたらしく、誇らし気にメインマストに掲げられた湖族の旗が何よりもそれを物語っている。


「窮地を脱するための一手としては、及第点と言った所だな」


 新たにフリーディア達の旗艦となった最新鋭戦艦の甲板で、テミスは湖から吹き寄せる風に長い銀髪をなびかせながら、静かに目を細めて呟きを零す。

 フリーディア達が陥っていたあの八方塞がりの状況では、実のところ如何にテミスと言えども取り得る手段はそう多くは無かった。

 戦況を鑑みれば彼我の技術力の差は致命的。ロンヴァルディア側が勝利を収める為には、たとえその先に無差別な虐殺という悲劇が待っていると知っていても、ヴェネルティの技術を吸収する必要がある。

 どう足掻いても変える事が出来ないのならば、残された選択肢は盤面を引っくり返すか叩き壊すか。

 十中八九、ノラシアスもフリーディア・ユナリアス両名が積み重ねた涙ぐましいまでの抵抗は認知していただろう。

 だからこそ、テミスの仕掛けた戦働きという名の切り札(大義名分)に乗る形で、今回の作戦に踏み切ったのだろう。


「な・に・が及第点よ。あんな風におじ様を恫喝するような真似をしてよく言えたものね」

「人聞きが悪い事を言うものではないぞフリーディア。あれは立派な交渉だ」

「えぇ。貴女が本当にただの騎士……いいえ、傭兵ならその理屈は通るかもしれないわ。けれど貴女の事を知っているおじ様にとっては、脅迫も同じだわ」

「ククッ……随分と優しい脅迫もあったものだな。後ろから攻め込まれたくなければ、お前達を守らせろとでも?」

「この一件でモルムス司令とおじ様が揉めるのは確実よ。そうならないように……私たちは手を尽くしていたというのに!!」

「無駄な事だよフリーディア。敵をも救いたいお前と、仇敵を滅ぼし尽くしたい奴とでは永劫分かり合う事はできない。そのような無駄に囚われていたからこそ、お前は全てを失いそうになっていたのではないのか?」

「私たちに……味方同士で争っている余裕は無いわ。私たちはモルムス司令の計画を掠め取ってしまった……。もしも、今回の事でモルムス司令が離反したら……」


 飄々と言葉を重ねるテミスに、フリーディアは酷く悔し気に告げると、フォローダの町に残した憂いを案ずるかのように船の後方を振り返った。

 けれど。既にフォローダの町は肉眼で捕らえる事が出来るほどの距離には無く、フリーディアの胸中が如何にあったとしても、その想いは最早ただの後悔でしかない。


「やれやれ。過去を憂う暇があるのなら、少しはこれだけの成果をもぎ取った私を褒めてもらいたいものだがな。鹵獲戦艦1隻を旗艦に据え、護衛艦1隻にロロニア達を加え、ユウキ達の身柄も確保してやったというのに」

「……そこは素直にすごいと思っているわよ。パラディウム砦の再建は必須なのは理解しているし、私たちが巨大戦艦の調査を請け負えば、戦いの激化も抑制する事が出来る」

「けれど、やり方が気に食わない……と。全く、我儘で困るね団長様は」


 唇を噛み締めたフリーディアに、テミスは大袈裟なしぐさで肩をすくめると、表情を歪めておどけてみせた。

 フリーディアの言う通り、今回の一件で件の司令との確執は決定的になっただろう。

 けれど、いつまでも即応待機の命令で縛られ、腫れもの扱いを受けているくらいならば、強引にでもある程度自由に動くことの出来るこの任務を請ける事が出来たのは、安い買い物だと言う他無い。


「それにあの男……」


 軽い調子で茶々を入れて尚、沈み続けるフリーディアにテミスは早々に説得を諦めると、コツコツと足音を立てて数歩離れ、眼前に広がる広大な湖を眺めながら鋭く目を細めた。

 モルムスという名らしいあの司令は、確かにいけ好かない男であるし、テミス自身も気に入らない男ではある。

 だが、自分の正体すら即座に見抜いた慧眼を持つノラシアスが、あのような愚物を自軍の要たる司令の座に果たして据え続けるだろうか。


「…………」


 警戒をしておくに越した事は無い。

 だがしかし、自身の抱いた感情と、周囲を取り巻く環境に違和感があるのも事実だ。


「ま……どちらにしても、しばらくの間はまたのんびりとするかな」


 滑るように水面を突き進む船の先端で、テミスは頭の中で思い描いていた小難しい思考の一切を頭の隅へと追いやると、大きく体を伸ばしながらそう嘯いたのだった。

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