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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1965/2319

1895話 勇戦交渉

 静かに、淡々と言葉を交わしているものの、互いに一歩たりとも退く事の無い熾烈な交渉戦。

 ノラシアスとテミスが繰り広げる激戦を前に、フリーディアとユナリアスはただ唖然とその戦いの行く末を見守っていた。


「……それならば、ロロニアたち湖族を同行させる許可を。彼等への報酬は別途、フォローダの町から出して頂く事になりますが」

「フゥゥゥゥゥ~……。止むを得ん。そこが、落し所か……」

「でしょうな。こちらも流石にこれ以上は作戦に支障をきたす恐れがある。我々は連中を一度退けたとはいえ、それは奇策の類。そう何度も通用する手ではない。最低限の戦力を確保できなければ、奴等がこちらの策を前提とした大軍勢と陣形を以て侵攻してきた時には、逃げる事すら叶わず擂り潰されてしまう」

「ハハ……その言葉、君でなくては蛮勇を誇る愚者の妄言虚言の類と笑い飛ばす所だ。だが、我々の船よりも古い船にも関わらず、単艦で勝利を収めてみせた君ならば、信ずるに値する」

「一応。勘違いの無いように言っておくが。これはあくまでも、最悪の事態を想定した時に、我々(・・)が逃げおおせることの出来る最低限度という意味だ。つまるところその『最悪』が訪れた場合、我々の乗艦する旗艦以外は失うと考えていただきたい。失うものには無論、パラディウム砦と沈めた巨大戦艦も含めて……の話だ」


 交渉を始めてから幾度目かになる深いため息と共に結論を出したノラシアスに、テミスは目つきを鋭いものへと変えて、改めて念を押す。

 元より、こちらが要求したものは先の戦いでテミス達自身が奪い取ってきたものばかり。

 心情だけでものを語るのならば、獲得者たる我々にこそ優先権が与えられて然るべきであり、厚顔無恥にも配備を求める他の連中の事など黙殺しろ……と言いたい所ではある。

 だが、戦争とは個で行うものではなく、群で行うもの。

 白翼騎士団と蒼鱗騎士団ばかりが頑強であっても、他の部隊が脆弱であれば戦争に勝ち得ないのもまた事実。

 故にこそテミスは。

 件の慇懃無礼で厚顔無恥な陰険極まりない司令殿の旗下であろう部隊にも、最大限の配慮を以て事に当たったのだ。


「そこは承知しているつもりだよ。私とて、前線をこのままにしておくつもりなど毛頭ない。君たちが砦の再建と巨大戦艦の調査を引き受けてくれるのならば、そこへ回す手はずであった戦力を前線の維持に注ぎ込める」

「ホゥ……? ならば――」

「――彼等への補給の傍ら、君たちへの補給や物資の運搬、それに伴う護衛の手配はこちらで請け負おう」

「チッ……! しかし、報告は聞いているだろうが、砦は全壊同様だ。拠点としての機能を取り戻すためにはそれなりの時間がかかるぞ」

「無論だ。そちらの受け入れ準備が整い次第、必要な人員を手配しよう」


 ノラシアスの告げた言葉に、テミスはきらりと瞳を輝かせて口を開きかけるが、皆まで語る前に機先を制され、半ば強引に話を纏められる。

 尤も。既にテミスの目論んでいただけの成果を引き出すことはできたし、あとはどれだけ余剰を引きずり出せるかの丈夫ではあるのだが。

 どうやら、ノラシアスもそこは承知しているらしく、かなり財布の紐を引き締めているフシがある。

 これ以上交渉を引き延ばしても得られるものは無い。そう判断したテミスが、交渉をまとめるべく小さく息を吸い込んだ時だった。


「おじ様。一つご提案があります」

「ッ……! 黙っていろフリーディア。余計な事を囀るな」

「いいえ。これは必要な事だわ。必ずよ」

「勿論、聞かせていただきましょうフリーディア様。どうぞ」

「チィッ……!!」


 テミスの隣へと進み出たフリーディアが凛と声を上げ、テミスが止める甲斐もなく即座にノラシアスによって承諾されてしまう。

 この流れはまずい。

 そう歯噛みしながらも、既にここまで出来上がってしまった流れを覆す手段は無く、テミスはただフリーディアが慈善活動にも似た余計な案を言い出さない事を願う事しかできなかった。


白翼騎士団(ウチ)から騎士を数名、連絡要員としてフォローダへ派遣させていただきたく思います。平時はおじさまの直属として、町の防衛などの任を与えていただければと」

「それは……こちらとしては有り難い話ではありますが……。構わないのですか?」

「…………」

「はい。是非に。ですが、主たる任は連絡要員です。命令優先権は白翼騎士団にある事をご承知おきください」

「よく覚えておきましょう。正直に申しますと、優秀な人員は幾らでも欲しい所ですので助かります。それでは、決めを書類にまとめますので、少々お待ちください」


 だが、テミスの願いを余所に、フリーディアは慣れた様子で話を纏めると、じっとりとした視線で自信を睨み付けるテミスに得意気な笑みを返してみせる。

 そんなテミス達を眺めて口元に穏やかな笑みを浮かべた後。

 ノラシアスは静かな口調で交渉の終わりを宣言すると、さらさらとペンを走らせ始めたのだった。

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