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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1964/2320

1894話 褒章の要求

 十数分後。

 目当ての書類を手にしたテミスは、フリーディアとユナリアスの執務室を飛び出すと、二人を引き連れて屋敷に戻り、ノラシアスの執務室を訪れていた。

 道中。フリーディアとユナリアスが再三問いを発するも、テミスがはっきりとした答えを返す事は無く、ただのらりくらりと曖昧な言葉を返すのみで。

 だからこそ。

 半ば強引に、テミスがフォローダの町の現領主であるノラシアスの執務室へ乗り込んでしまった今となっては、顔色を青くして黙り込むしか無かったのだが。


「…………。フム。人払いを。娘たちがこの部屋を出るまで、お前を含む誰もここへ近付けないように」

「は……仰せのままに」


 だがその一方で。

 テミス達を迎えたノラシアスは至極冷静な様子でテミスを眺めた後、自身の傍らに控えていた執事に粛々とした口調で告げる。

 瞬間。

 瀟洒な装いで執事は一礼をすると、ゆらりと気配を希薄にして瞬く間に部屋を辞し、足音一つ聞かせる事無く姿を消した。


「さて。待たせてすまないな。用件を聞こうか。随分と急な訪問だが、火急の事かな?」

「あぁ。一つはな。だが、そちらはおまけのようなものだ。本題ではない。湾内で刺突魚を確認し、湖族たちが対処に動いているというだけさ」

「っ……! 刺突魚……!! ……ならばさっそく、本題とやらを聞かせてくれるかい?」

「何。こちらも単純な話だ。思えば報酬……褒章を貰い忘れていたなと思ってね」


 部屋を訪れて早々、人払いをしたノラシアスの意図のわからないテミスではなく。

 思慮深げに尋ねるノラシアスに、テミスは不敵な笑みすら浮かべて、悠然とした態度で応じてみせる。


「褒章……か……。君はあくまでも白翼騎士団預かりのはず。褒美を求めるのならば私ではなく、フリーディア様に乞うべきではないかな?」

「フッ……何なら私個人への褒章も、これからの話に上乗せして貰って構わんのだがな。本題は先の戦いの戦功。フォローダ家当主が娘ユナリアス嬢の救出及び、パラディウム砦の防衛、そして敵主力艦隊の撃滅と敵巨大戦艦の撃沈。ノラシアス殿。フォローダの領主である貴君には、以上の戦功に対して報いる義務がある……そうだな?」

「…………。形式上、白翼騎士団には即応待機の指示を出していたとはいえ、これだけの戦功に対して独断専行だと無碍には扱うつもりはない。白翼騎士団には戦いの後、相応の礼をすべきだとは考えているが?」

「それを今すぐに戴きたいのですよノラシアス殿。敵勇者の身柄の確保を含めなかったのは、その分だと思っていただきたい」

「フゥ……。それで? 要求は何かね? 娘の恩人にして友人の頼みだ。そう身構えなくとも構わないよ」


 外堀を埋める所から始まり、丹念に『交渉』を勧めていくテミスに対して、ノラシアスは困ったように苦笑いを浮かべて小さく息を吐くと、僅かに語気を緩めてみせた。

 それは紛れもなく、フォローダ家の当主にしてこの町の領主としての顔ではなく、ユナリアスの父親としてのノラシアスの言葉だったのだが……。


「そうですか。それでは、今すぐ白翼騎士団、蒼鱗騎士団の両騎士団に対して、撃沈した巨大戦艦の調査及び、パラディウム砦の再建・防衛の任を頂きたい」

「っ……!?」

「えぇッ……!?」

「……何を要求されるかと思えば任務……か……」


 ニヤリと笑みを深めたテミスがそう告げると、その背後で気が気ではない様子で見守っていたフリーディアとユナリアスが驚きの声を漏らす。

 しかし、テミスの相対するノラシアスは僅かに目を見開きこそしたものの、深く息を吐いて静かな言葉を漏らしたのみで。厳しい表情を変えないままに眉間に寄せた皺を深めると、考え込むかのように言葉を止める。


「えぇ。しかし白翼騎士団には『足』が無い。とはいえ、そちらの兵站に影響を出してしまっては心苦しい。なので鹵獲した戦艦を旗艦として一隻、加えて護衛艦として四隻を配備していただきたく」

「ッ……!! 無茶だ……。鹵獲した敵艦の配備は防衛隊からも多く要請が寄せられている。そんな中で君たちだけにそれだけの船を渡すなど……!!」

「ならば不足分は勇者の身柄で頂きましょう。かの砦の由緒は聞き及んでいます。格だけで見れば問題はありますまい。価値としては……護衛艦二隻分が妥当だと考えますが?」

「最前線に捕虜を……!? フゥ~……噂はかねがね耳にしては居たが、どうやら私は未だ、君を甘く見ていたらしい……」


 そこへ追撃を仕掛けるかの如く、テミスは指折り数えて具体的な要求を突きつけると、ノラシアスは頭を抱えて唸るように答えを返した。

 だが、テミスにとってはそれすらも承知の事で。

 四本立ててみせた指の内の二本を折ると、更に無茶な要求を突き付けてみせる。

 そんなテミスに、ノラシアスはゆっくりと首を振りながら深々と溜息を吐くと、静かな瞳でテミスを見据えたのだった。

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