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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1960/2318

1890話 駆け抜ける震撼

 テミスの向かった先。

 昼中の湖族たちの酒場は明かりが落とされていたものの、中には人の気配があり、賑やかな談笑が漏れ出ていた。

 故に。テミスは迷う事無く扉を押し開いて中に足を踏み入れたのだが……。


「お。今日はえらく早いじゃあ……なっ……ぁ……!?」

「……?」

「お……お頭……いや……船長ッ!! ロロニア船長ォッ……!!!」


 好意的な眼差しと共に出迎えを受けたのも束の間。

 笑顔に満ちていた湖族の表情はテミスの姿を見るなりに一変し、ロロニアの名を叫びながらバタバタと慌ただしく店の奥へと駆けていく。

 否。彼等の視線が向けられた先はテミスではなかった。

 その先に在るのは一匹の魚。

 つい先ほどテミスの釣り上げた魔獣とも魚ともわからない凶悪な魚で。

 だが、湖族たちのその反応だけでも、テミスがこの魚の特異性を察するには十分過ぎるほどだった。


「ッ……!! やべぇッ!! 出航準備!! まだ漁に出てる奴等は何人だ!?」

「漁師連中に確認しねぇと……! 俺、走りますッ!!」

「航海予定も聞いて来い!! わかっちゃいるだろうが大至急だ!!」

「ハイッ!!!」

「残った奴等は準備を急げ!! もう被害が出ているかもしれねぇッ!!」


 唖然とするテミスが店の入り口で立ち竦んでいる傍ら。

 一瞬で酒場の中には威勢のいい号令が響き渡り、湖族たちは紫電の如き機敏さを以て動きはじめる。

 その機敏さはテミス率いる黒銀騎団にも負けずとも劣らぬ見事なもので。

 伝令の命を受けた湖族が、わき目もふらずにテミスの傍らを駆け抜けて店の外へ飛び出していくと同時に、店の奥から厳しい表情を浮かべたロロニアが飛び出してきた。


「ッ……!! オイオイ……マジで刺突魚じゃねぇか……!! なんでそんなモン釣りあげてんだよ……アンタはよぉ……!!」

「……この騒ぎようからある程度は察しているが、コイツはそれほどの得物なのか?」

「馬鹿野郎ッ……! 船乗りでソイツを知らねぇ奴ァ素人だぜ! アンタが釣り上げたソイツはただの魚なんかじゃねぇ! 俺達の天敵みてぇな魔獣だよ!!」

「……フム。やはりそうなのか」


 ひくひくと頬を痙攣させながら告げるロロニアに、テミスは慌てる事無く淡白な態度でゆっくりとカウンターへ向けて歩むと、バタバタと駆け回っていた湖族たちが揃って道を開ける。

 その視線には、僅かな憎しみの籠った恐怖が感じられたが、テミスは自身に向けられたものではないが故に全てを黙殺し、コツリとひと際大きな靴音を立てて椅子の前で立ち止まった。


「一つ訊きたい。食えるのか?」

「あぁ。食えるさ。しかも憎たらしいほど美味い。だが、コイツを捌くのは難しいぜ。忌まわしい角は武器に、鱗は盾や鎧なんかにも使われるくらい固――」

「――ふッ!!!」


 カウンターに傍へと歩み寄ったテミスの問いに、ロロニアは皮肉気な笑みを浮かべて答えを返した。

 だが、その答えすら皆まで言い終わる前に、テミスは釣竿を振るって今に至って尚まだびちびちと跳ねまわている刺突魚をカウンターの上へと叩き付けると、鋭い動きで腰から一振りのナイフを抜き放つ。

 そして、テミスは目にも留まらぬ速さで逆手に抜いたナイフを振るうと、刺突魚の(エラ)の隙間を貫いて、カウンターの上へと縫い留めてみせた。


「はっ……? あ……? はは……。アンタの前じゃ刺突魚も形無しってか……」

「うん? いや、装甲が厚いのならば隙間を穿つのが基本だろう? まぁ、大剣(私の得物)はそういった繊細さには向かないし、装甲ごと叩き切った方が話が早くはあるがな」


 カウンターの上で、テミスの手によって刺し貫かれた刺突魚はビクビクと不気味に跳ねた後、これまでの暴れっぷりが嘘だったかの如くその動きを止めた。

 テミスの放った一撃は正確に刺突魚の中骨を断っており、刃を伝って流れ滴る血が完全に仕留められている事を物語っている。


「は……はは……。この間の料理といい、アンタには驚いてばっかりだぜ。まぁいい。それで? 真面目な話だ。コイツは何処で釣り上げたんだ? その様子じゃ、誰かに船を出して貰ったって訳じゃねぇんだろ?」

「あぁ。いつもの場所だとも。以前にお前と釣りをしたあの波止場だ」

「チッ……! まさかとは思ったが本当かよ……。はぐれか? いや……だとしても……」


 ロロニアは動かなくなった刺突魚にチラリと視線を向けた後。呆れたように肩をすくめてみせた後、声色を一段落として話を続けた。

 その姿はいつものロロニアのそれではなく、湖族の頭領としてのものであり、テミスも軽口を交える事無くコクリと頷いて簡潔に答えを返す。

 すると、ロロニアは目を見開いた後、何かを考え込むかのように口元に手を当て、視線を彷徨わせながらブツブツと呟き始めた。


「あ~……その……なんだ。すまないが説明を頼めるか?」


 そんなロロニアを前に、テミスは若干の気まずさを覚えながらも、ゆっくりと手を挙げて問いかけたのだった。

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