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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1953/2319

1883話 闇夜に踊る

 腰に提げた刀へと伸びた襲撃者の手が、その丁寧に磨き上げられた鞘へと触れる直前。

 目にも留まらぬ動きで閃いたテミスの魔手が、バシリと襲撃者の腕を掴み上げる。


「オイ。薄汚い手で私の刀に触れるな」

「なッ……!? グッ……!!? コ……イツッ……!!」

「お前。状況がわかっていないのか? 手を離せ。そして跪け」


 静かな声と共に、テミスが万力の如き握力を以て掴んだ腕を握ると、襲撃者の下卑た声に焦りが混じった。

 しかし、それでも尚冷静さを崩さない声が警告を放つと、テミスの首に押し当てられた刃がぷつりと薄皮を裂く。

 彼等にとって、これは降伏勧告なのだろう。

 いくら凄腕の騎士といえども、酔いの回ったうえに背後から刃を突き付けられた状態に持ち込まれては、既に勝負は決したも同然。

 このような状態から抵抗されようとも、彼等の中に在る圧倒的優位に立っているという認識に揺らぎは無かった。


「……お前達。何者だ?」

「答える義理は無い。質問するのはこちらだ。いくら酔いが回っていようと、首の感覚くらいはわかるだろう? さっさと跪け」

「フゥム……参ったね……」


 テミスの問いかけに、背後から響く冷淡な声は淡々と答えを返す。

 だがそれでも尚、襲撃者の腕をがっちりと掴んだテミスの手の力が緩む事は無く、静かに喉を鳴らしてぼやくと同時に、腹の前へと垂らしていたテミスの右手が、密かに刀の柄へと番えられた。


「こんな真似までして、一体何が聞きたい? 道を尋ねたいって訳じゃないんだろう?」

「黙れ。無駄口を叩くな。さっさと手を離して、そこの壁に付け」

「っ……」

「ッ……! が……ぁ……ぁ……ッ……!!」

「ハァ……やれやれ。全く……殺さずに仕留めるのは骨なんだがなッ……!!!」

「ごゥッ……!!? ァ゛ッ……!!」


 冷徹な声に応ずることなくテミスは問いを重ねるが、返ってきた答えと共に首筋にあてがわれた刃がさらに進み、傷口から溢れ出た血が一筋の線を描き始める。

 現時点で情報を引き出すのは無理か。

 そう判断したテミスは、悶絶する男の手首へ更に力を込めると、不敵な言葉と同時に柄に番えた手を地面へ向けて打ち下ろした。

 瞬間。

 テミスの腰に番えられた刀はてこの原理によって跳ね上がり、鈍い音を奏でながら真後ろに立っていた男の顎を打ち上げる。


「なにッ……!!?」


 襲撃者にとっては想定外であろう一撃。

 思惑通り、冷徹な声の主は一拍遅れて息を呑むと、テミスの首筋へと当てていた剣を容赦なく横薙ぎに振るう。

 だが、その時には既に剣閃の先にテミスの首は無く。

 振るわれた剣は虚しく空を切った。


「遅いぞ。まさか、その程度で私を捕らえようとしていたのか? 舐められたものだ」

「クッ!! 馬鹿野郎! いつまで腕を掴まれてるんだ!! さっさと振りほどけ!!」

「無茶言うんじゃねぇ!! コイツ……とんでもねぇ力なんだよ!! さっさと助けろ!! 俺の腕が折られちまう!!」

「なっ……!?」

「クク……状況は理解できたか? ならばそら……お返しだ」

「痛でででででァァァッッ……!!」

「――ッ!!!」


 襲撃者の男の腕を掴んだまま、体勢を真横へと倒して剣を躱したテミスは、不敵な笑みを浮かべたまま背後の男へ皮肉を返すと、壁に突き立っていた一対の短剣を抜き取って振り向きざまに投げ放つ。

 傍らでは、腕ごと身体を引き摺られる形となった男が悲鳴をあげるが、テミスが意に介することは無く、背後に立っていたもう一人の襲撃者と相対する。

 しかし、投げ放った短剣は二本とも弾かれたらしく、冷静な声の主らしい眼鏡をかけた男の足元に転がっていた。


「ホォ……ようやく顔が見えたな」

「……まさか、かなり酒を飲んでいるはずなのにここまで動けるとは。想定外だ」

「残念だったな。私は酒に強くてね。生憎酔う事は無い。退くなら止めんぞ? 二人ともそろっていればいう事は無いが、とりあえず一人居れば十分だ」

「チッ……!! オイ。最悪腕一本は覚悟しておけよ」

「ハァッ!? ふざけんなテメェッ!! 人の腕を何だと思ってやがる!!」


 悠然と問いかけるテミスに、眼鏡の襲撃者は舌打ちと共に剣を構えると、テミスに腕を囚われた男へ吐き捨てるように告げる。

 だがその言葉に、腕を囚われた男は猛然と気炎を上げ、目を向いて眼鏡の襲撃者を睨み付けながら怒鳴り声をあげた。


「だったらテメェで抜け出せよ。お陰でこっちは、騎士相手に真っ向から一対一なんて分の悪い戦いしなきゃならねぇんだからよ……」

「あぁッ!? 今なんつった!? 聞こえなかったけど馬鹿にしやがっただろ!! っ――あ痛でででででででッッ!!!」

「今は囀るな。牢は隣にしてやるから喧嘩をするなら後で存分にやってくれ」


 けれど、二人の間の罵り合いがそれで終わる事は無く、怒りを露に噛み付く男に、テミスの正面に立った眼鏡の男はブツブツと小さな声で悪態を零した。

 そんな二人の舌戦を、テミスは捉えた男の手首を捻り上げて終わらせると、挑発的な笑みを浮かべて剣を構えた眼鏡の男を見据えながら、囁くように告げたのだった。

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