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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1943/2320

1876話 労いの宴

 帰還したテミス達を誘われた先で出迎えたのは、絢爛豪華な食事たちだった。

 普段は大広間として使われているであろう広大な部屋には、大量の長机が設置され、その上では大量の温かな料理が、食欲をそそる豊かな香りと共に湯気をあげている。

 それらの放つ誘惑は、戦場帰りのテミス達には暴力的なまでに耐え難いものであり、しかし厳しい訓練と規律によって鋼の精神を有している白翼騎士団の面々は、口内に湧き出る生唾をゴクリと呑み下し、熱い視線を団長であるフリーディアへと向けるに留めた。

 だが……。


「おおぉぉっ!! 素晴らしい労いだわッ! まりょ……コホン、力の使い過ぎでお腹ペコペコなのよ!!」

「これ……全部食べちまってもいいのかよ……! っ……! こうしちゃあいられないよなッ!! いくぜお前達ッ!!」


 そんな白翼の騎士達を尻目に、テミス本来の旗下であるサキュドやコルカ達魔法使い部隊は我先にと駆け出し、己の欲が赴くままに料理へと手を伸ばし始めていた。

 既にノラシアスから招かれているとはいえ、サキュド達の態度は礼儀や貴族の作法という面で考えれば論外も良い所。

 しかし、対外的に長の役割を担っているだけに過ぎないフリーディアには、魔族の中でも比較的奔放な性格のサキュド達を止める事が出来るはずも無く、引き攣った微笑みを浮かべて傍らの騎士達へ小さく頷いてみせる。

 すると、フリーディアの意図を察したのか、はたまた己が欲望を縛る規律という名の鎖が弾けたのか・

 白翼の騎士達も揃って歓声を上げ、サキュド達の後を追うように料理へと群がっていく。


「……申し訳ありません。おじ様。団員達には後程、きつく言い含めておきます」

「フフッ……フリーディア様も随分と苦労していらっしゃるようで……。構いませんとも。元より、戦いに出られた皆様がたを労う為に用意したものなのですから」

「寛容なお心に感謝しますわ。っ……!!」

「…………」


 その後ろで、フリーディアは苦笑いを浮かべるノラシアスに深々と頭を下げると、事態にひとまずの落し所を付けてみせた。

 けれど、ノラシアスはチラリと傍らのテミスへ視線を向けてから、クスクスと意味深に笑ってみせる。

 無論。その笑みの真意を汲み取ることの出来ないフリーディアではなく。

 淑やかな微笑みと共に礼を返した後、フリーディアは顔を素せたまま器用に傍らのテミスへと睨みを利かせた。

 だが、当のテミスは肩を竦めて不敵な笑みを返しただけだった。


「さ……フリーディア様たちもどうぞ。ユナリアス。ご一緒させていただくんだ。失礼の無いよう、しっかりとするのだぞ」

「承知しております父上。早速向かいましょうフリーディア様、リヴィア殿」

「ふふっ……! やめてよユナリアス。いつも通りで良いわ。いくわよリヴィア。団長命令です」

「……いや、私は――」

「――諸々の事は私が責任を持って引き受けるから、安心して休んで欲しい」

「……! 了解だ。団長殿」


 ノラシアスの促しに従い、恭しい調子でユナリアスがフリーディアへと一礼をする。

 すると、堪え切れずに破顔したフリーディアが笑いながら言葉を返し、傍らのテミスの手を取って大広間の奥へと歩きはじめた。

 けれど労いを受けるよりも先に、隠れ港へ戻ったロロニア達や鹵獲した敵戦艦の管理、そして何よりユウキたち捕虜の扱いなど、やるべき事が頭の中を巡っていたテミスは一人抜け出すべくフリーディアの手を払いかける。

 だがそれよりも先に、穏やかな笑みを浮かべたノラシアスがテミスへ視線を向けてそう言葉を付け加えると、テミスは抗う素振りを止めてフリーディアの後に続いた。


「クス……」


 フリーディアに手を引かれるままに歩きながら、僅かに微笑みを浮かべたテミスがチラリと背後を振り返る。

 そこではちょうど、穏やかな笑顔を引きしまった表情へと変えたノラシアスが、執事に見送られながら大広間に背を向けて立ち去る所で。

 テミスは安堵を覚えながら再び視線を前へと戻す。

 ここでノラシアスが戦勝会だなどと称し、自分も宴の輪に加わろうとするような愚物であれば、無理を押してでもこの場を辞し、一時的にでもこの町の指揮権を収奪する為に動き始めなければならなかった。

 しかしこの分ならば、面倒事はひとまずノラシアスに任せておいても問題無いだろう。

 そう判断して意識を切り替えると、テミス自身も宴の騒がしさの一員となった。

 大盛り上がりを見せた宴は、戦の直後であるにも関わらず夜遅くまで続き、歓声が溢れ漏れるノラシアスの屋敷の空には、雲間から覗く月が煌びやかに輝いていたのだった。

 本日の更新で第二十八章が完結となります。

 この後、数話の幕間を挟んだ後に第二十九章がスタートします。


 かつて戦火を交えた因縁こそあれど、矛を収めて隣人となったロンヴァルディア。

 そんなロンヴァルディアを、同胞であるはずの人間達からの戦火が襲いました。

 相対するのはフリーディアの旧友であるユナリアス率いる蒼鱗騎士団と、フォローダ公爵家。

 しかし、長い魔王軍との戦いにおいて『後方』であったフォローダを守る兵の練度は低く、地の利を生かして持ち堪えてこそいるものの、戦況が芳しいとは言えませんでした。


 そこへ援軍として現れたのは、ファントに駐留しているはずの白翼騎士団。

 けれど白翼騎士団には、明らかに毛色の違う者……テミス達黒銀騎団の者達も同行していました。

 期せずしてロンヴァルディアが初めて魔族と共同戦線を張ることとなったこの戦い。

 慣れない艦艇戦闘や幾多の窮地を乗り越え、テミスたちはひとまず前衛拠点であるパラディウム砦の防衛に成功しました。

 とはいえ、駐留部隊は壊滅的な打撃を受けており、敵の侵入を許した砦もほぼ全壊状態。

 ロンヴァルディアとヴェネルティ連合の戦いはこの先、どうなっていくのでしょうか?


 続きまして、ブックマークをして頂いております867名の方々、そして評価をしていただきました145名の方、ならびにセイギの味方の狂騒曲を読んでくださっております皆様、いつも応援してくださりありがとうございます。


 戴いた感想も重ねて読ませていただき、作品制作の力の源とさせていただいております。深く御礼申し上げます。


 さて、次章は第二十九章です。


 目前に迫る脅威を払ったテミスたち。

 パラディウム砦に深刻な被害を出しながらも、ヴェネルティの大戦力と目される巨大戦艦も打ち破ることに成功しました。


 新たな地と新たな戦いの行く末や如何に……?


 セイギの味方の狂騒曲第29章。是非ご期待ください!


2024/11/6 棗雪

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