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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1942/2321

1875話 微笑ましき凱旋

 フォローダの町の港へと戻ったテミス達を真っ先に出迎えたのは、ぜいぜいと息を荒げたノラシアスだった。

 どうやら、パラディウム砦を脱出した船が先触れの役割を果たしたらしく、前線の状況はより詳細に伝わっていたらしい。

 故にこその親心なのだろう。

 ノラシアスの第一声は愛娘への叱責であり、ユナリアスは非戦闘員を脱出させる為とはいえ、単艦で敵本国へ突貫するなどという無茶苦茶な作戦へ飛び込んだ事を、衆目の前で説教される羽目になった。

 尤も、船の上からそれを眺めるロロニアや、港に集ったフォローダの兵達もその様子を生温かく見守っており、如何に彼がこの町の領主として優れているかを表していた。

 その一方で、どこか満足気な表情を浮かべて団欒を眺めているフリーディアの隣では、いち早く自らへと迫る危機を察したテミスが、そろりそろりと逃げ出そうとしていたのだが……。


「何処へ行こうというのだね? リヴィア(・・・・)君?」

「ッ……!!!」


 滾々とユナリアスへの説教に励みながらも、テミスの逃亡を見咎めたノラシアスが鋭い口調で制止する。

 本来のテミスならば、脱兎のごとくこの場から飛び出し、衆人に紛れてほとぼりが冷めるまで姿をくらますのだが、リヴィアという白翼騎士団に属する一員たる表向きの立場がそれを許さず、やむなくその場で動きを止めた。


「詳細な報告は後から聞くが、君も大戦果をあげた英雄の一人。もっと堂々と胸を張るが良い」

「は……はぁ……。光栄であります」

「なぁに畏まる事は無い。元より単艦での救出作戦を容認したのは私だ。君たちを過酷な戦いへ送り出してしまった事は理解しているとも」

「っ……」

「…………」


 手招きをするノラシアスに従い、テミスは渋々ユナリアスの隣に並び立つが、優先を称える言葉とは裏腹に彼の目は欠片も笑ってはおらず、その乖離が父親としての胸中を如実に物語っていた。

 その胸中は察するに余りあるからこそ、作戦の発案者たるテミスはいち早く逃げ出そうとしたわけだが……。

 ユナリアスの説教の傍らで、針の筵に立たされたテミスは、密かに視線を走らせてフリーディアへと助けを求める。

 しかし、視線を受けたフリーディアは諦めろと言わんばかりに僅かに首を振っただけで。自身は処断を待つ従順な罪人が如く、姿勢を正して動こうとはしなかった。


「ユナリアス。わかるかい? 君たちが敵へ向けて突貫したと報告を受けた時の私の思いが。報告を聞いて気が遠くなったのは後にも先にも初めての事だよ」

「お父様。ご心労をおかけして申し訳ありません。ですが、全ては勝算あっての事。それに、確実に砦の者達を敵の包囲下から脱出させる為には必要な事だったのです」

「ッ……!!!」

「……わからないようだね。ユナリアス。指揮官が自ら敵の懐へ突貫するなど、過分にして私は聞いたことが無い。それほどの無茶だという訳だ。本来ならば、指揮官の任にあるお前は、フリーディア様をお連れして脱出せねばならぬ立場だろう」

「それは否ですお父様。私は指揮官である前に民を守るべき騎士。加えて、私はこちらのテ――リヴィア殿の奮戦により窮地を救われた身。フォローダ公爵家の一員として、騎士たる者の本分を棄て、恩を蔑ろにして逃げ出すなどあり得ません。たとえもう一度同じ窮地に立たされたとて、私は私の誇りに懸けて、同じ道を選びますッ!!」

「ッッ……!!!!」


 けれど、叱られているはずのユナリアスも殊勝に全てに頷くようなしおらしさを持ち合わせてはいないらしく、怒りと心配を滲ませながら言葉を重ねるノラシアスに真っ向から反論する。

 その言葉はどれも勇ましくはあったものの、娘の身を案じる父親の気持ちを理解できるテミスとしては、火に油を注いでいるが如き反論を傍らで聞いていて気が気ではなく、いつノラシアスが限界を超え、雷が落ちるかと冷や汗をかき続けていた。

 だが、テミスの危惧とは裏腹に、ノラシアスは変わらぬ調子でユナリアスを諭し続け、ユナリアスもまた一歩も譲ること無く反論を続ける。

 そんなやり取りがしばらくの間続いた後……。


「旦那様。きっと皆様もお疲れでしょう。お嬢様がたとのお話は、ひとまずお屋敷に戻られてからにされては如何でしょうか。食事のご用意もできております」

「っ……!!」

「ム……ウム……そうだな。ユナリアス。この話は改めてするとしよう。皆、このような出迎えになってしまってすまない。遅くなってしまったが、無事の帰還を労わせて戴きたい」


 眼前のテミスにすら気取られる事無く、いつの間にかノラシアスの傍らに姿を現していた執事が静かに口を挟むと、熱を帯び始めていた説教がピタリと止まる。

 そして、ノラシアスは鋭い視線をユナリアスへ向けた後、一同を迎えるように自身の屋敷へ向けて身を翻したのだった。

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