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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1932/2321

1865話  一抹の意地

 兵士との話を纏めてから、フリーディア達の動きは迅速だった。

 まず初めに行った事は、半ば放心状態のユウキと、未だに意識の戻らない彼女の仲間達の武装解除。

 自失しているユウキを含め、事情を知らない彼女たちが敵の船で目を覚ませば、最悪そのまま再び戦闘へと発展する羽目になりかねない。

 ならばここは、先の心証が悪くなろうとも、先手を打って彼女たちの武器を奪っておくのは正しい選択だろう。


「さて……」


 武装解除に伴い、フリーディア達が兵士とフォローダまでのユウキ達の扱いの詰めを行っている最中。

 一人蚊帳の外となったテミスは釈然としない思いを胸の内に抱きながら、改めて周囲に視線を向ける。

 現在、航行不能となったこの巨大戦艦の周囲には、見て取れるだけで六隻の戦艦がある程度の距離を置いて、この船から逃れた自陣の兵士たちを回収していた。

 そしてちょうどその間には、ロロニア率いるテミス達の船が一隻、こちらへ方針を向けた彼等をけん制するかのように立ちはだかっている。


「最大の隙は移乗する最中……か」


 脱出艇に群がるヴェネルティ連合の兵達へチラリと視線を向けたテミスはそう零すと、更に視線をユウキ達へ向けて嘆息する。

 収容対象は意識の無いユウキの仲間の三人と、辛うじてゆっくりと歩く事こそできるものの、ほぼ自失しているユウキの四人。移乗にはそれなりの時間がかかるとみて良いだろう。

 だが、ロロニア達の船がこちらに近付けば、未だにこの船の上に残っているヴェネルティの兵士たちが、テミス達の存在に気付く事は避けられない。

 加えて、移乗の際はロロニア達の船も回避行動を取る事が出来ず、反撃や防御こそできるものの、敵軍からしてみれば格好の的でしか無くなってしまう。


「……フム」


 政治の面をフリーディア達が担ってみせたのならば、せめてこの撤退戦くらいは形にしてみせなくては。

 自身の内にそんな気負いが生ずるのを感じながら、テミスはじっくりと考えを巡らせてから、コツリと足音を立てて話を詰めているフリーディア達の側へと歩み寄った。


「っ……! ごめんなさい。もう少し待って貰えるかしら? 彼との連絡手段がまとまらなくて……」

「悪いが、その必要は無い。それに、連中もそろそろ痺れを切らす頃だろう」

「えっ……?」


 側へと近付いた自身の気配に、フリーディアが視線を向ける事無く告げると、テミスはクスリと静かな笑いを浮かべて、自分達を包囲する一隻の敵船を視線で示す。

 テミスの視線を追って敵船へと目を向けたフリーディアの視界の中では、ちょうど助けを求めて寄っていった一隻の救命艇が、まるですげなく断られたかのように別の船へ向けて回頭した所だった。


「ッ……! 時間切れ……という訳……」

「あぁ。それに現状では我々が退くのも一苦労だ。お荷物も増えたことだしな」

「アンタ……!! いや……違げぇねぇか……」

「クク……一兵卒にしては良く状況が見えているじゃないか」

「これでも昔っから察しは良い方でね。そんな俺としちゃぁ、アンタのその微笑みからはイヤ~な予感しかしねぇ訳なんだが?」


 状況を理解したフリーディアが歯噛みをする傍らで、テミスは交渉を持ち掛けてきた兵士に視線を向けると、早速とばかりに皮肉を叩き付ける。

 だが、兵士は飄々とした態度でテミスの皮肉を躱すと、早く本題に入れと言わんばかりに自ら話を先に進めた。


「ハッ……!! 生意気な奴め。まぁ良い。フリーディア。ユナリアス。コイツも連れて行くぞ」

「なっ……!?」

「おい……ちっと待て……!! 俺までそっちに行っちまったら、こっちの本国にゃあどうやって話を付けりゃあ良いんだ!?」

「そうよ! それに彼はッ……!!」


 兵士のふてぶてしい態度に、テミスは鼻を鳴らして笑みを深めると、淡々とした口調で結論を告げる。

 しかし、返ってきた反応は三者が三様に芳しくないもので。

 フリーディアに至っては、兵士から顔を背けてテミスを真っ直ぐに見やると、危機感を募らせた表情で己の意図を示していた。

 けれど……。


「意識の無い者が三人。我々も三人。ソイツは手でも引いてやるとして、護衛も無しにどうやって船を移る気でいるんだ?」

「護衛なら私がやるわ! 魔法使いの二人なら一人は小柄だし……貴女ならまとめて担げるでしょう?」


 フリーディアの意見はあくまでも、この場で無茶を通したとしても、この兵士も連れて行く事には反対のようで。

 それでも、現在の状況だけではなく情報という観点で考えても、この一兵卒にはあるまじき素質を持つ男を捨て置く事などできる筈もなく。


「扱いに困ったらその時に返品してやれば良いさ。兎も角、ひとまず今は脱出が先決だ。オイ。お前はそっちの戦士を担げ」

「っ……! もう……わかったわよ!! そこまで言うなら、戻ったら貴女も協力しなさいよ!!」

「あ~……こっちの事情はお構いなしかい……。ま、しゃあねぇか」

「君がそう言うのなら、私に否やは無いよ」


 皮肉気に笑って告げたテミスに、フリーディアは深いため息とともに眉間に深い皺を寄せた後、身を翻して横たわるユウキの仲間達の方へと足を向ける。

 そんなフリーディアに視線を送った後、兵士は苦々し気に、ユナリアスは涼やかな微笑みを浮かべて言葉を残して、フリーディアに倣ったのだった。

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