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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1864話 二人の政者

 テミスにとって、兵士から提示された条件に対してフリーディアが出した答えは、意外に過ぎるものだった。

 骨の髄からの善人で、人助けを躊躇わないフリーディアにとってこの兵士の提示した条件は、情報を入手する機会を得たうえでユウキを救う事もできる一石二鳥の提案だ。

 だというのに、フリーディアは己の信念に利のある話を一笑に伏した上で、すげなく袖にしてみせたのだ。


「っ……!!!」


 救いを求める者を救わない。

 その姿はテミスの知るフリーディアとはまるで別のもので。あまりの衝撃に堪え切る事が出来なかったテミスはゴクリと生唾を呑み込むと、傍らのフリーディアの肩を掴むべくピクリと手を動かしかける。

 だがその寸前で。

 傍らから伸びたユナリアスの手がテミスの腕を押さえ、そのまま自然な動きで身を寄せると、テミスの耳元で囁くように口を開く。


「今は邪魔をしてはいけないよ」

「私が……邪魔だと?」

「うん。これは交渉だ。今はただ、私たちは何も言わずに見守っていればいい」


 それだけ告げると、ユナリアスは静かにテミスから身を離し、涼やかな微笑みを浮かべて視線をフリーディアへと向ける。

 その先では、フリーディアの答えに目を見開いた兵士が、ぎしりと固く拳を握り締めていた。


「フリー……ディア……ッ……!!」


 ユナリアスの告げた通り、テミスは腕から力を抜くが、掠れた囁き声でフリーディアの名を呼んだ。

 これが交渉だというのならば、フリーディアの選択はあまりにも危険に過ぎる賭けと言えるだろう。

 彼等からしてみれば、まだ救命艇の数に残りがある現状、こちらの船だけが生き延びる手段という訳ではない。

 故に、この交渉はいつでも打ち切ることの出来るもので。万に一つの危険を回避するための保険のようなものに過ぎないはず。

 ……そうテミスは認識していたのだが。

「私達を敵だと知って尚、助けを求めるのはそれだけの理由があるからなのでしょう? まずは事情を話して貰えないと、力になることもできないわ?」

「クッ……!!!」


 黙り込んだものの、立ち去ることなく足を止めた兵士を前に、フリーディアは穏やかな微笑みを浮かべて言葉を続けた。

 そんな飄々とした言葉に、兵士は悔し気に息を詰まらせた後、じっとりとした目でフリーディアを睨み付けながら口を開く。


「……俺達は皆、正式なヴェネトレア公国の兵ってワケじゃねぇんだよ」

「ふぅん……? 続けて?」

「チッ……!! だから、ユウキ様がうっかり他の国の連中が仕切っている船にでも乗り込んじまったら、そのまま連中の国へ連れて行かれちまいかねねぇ」

「彼女、強いものね。何処の国もその戦力は我が物としたいはずだわ」

「その通りだ。だったらいっそ、身の安全を確保できるってんなら、アンタ等の所に居た方が良いって訳だ。そっちにとっても、悪い話じゃねぇはずだぜ?」

「そうねぇ……どうしようかしら?」

「フム……そうだね……」


 絞り出すように事情を語った兵士に対して、フリーディアは頬に手を当てて考える素振りを見せると、ユナリアスを振り返って問いを口にする。

 だがそこには、言葉通りの意味は無く。

 ユナリアスもそれを理解しているからこそ、フリーディアに同調しながらゆっくりとした足取りで前へと進み出ると、数秒の間を置いてから芝居がかった口調で答えを返した。


「こちらにも色々と事情があってね。なにせ、同胞だと思っていた国から一方的に侵攻を受けている側だ。そんな国から来た者を厚遇を掛け合うのは無謀だろうね」

「仮に、よ? ヴェネルティで勇者を名乗っている子だって事を明かしたら、士官待遇は無理だとしても、多少の優遇ならできるのではないかしら?」

「対価によるだろうね。勇者を名乗るんだ、()もその名前には戦況を左右する可能性を期待するはずさ」

「出せる情報次第……と言う訳ね……。その辺りはどうなのかしら? こちらとしては、最大限の譲歩だと思うのだけれど?」


 肩を並べてユナリアスとフリーディアは、まるで諳んじた台本でも読み上げているかの如く、息の合ったリズムで会話を進めると、絶妙なタイミングで兵士へと水を向けた。

 要求に必要な対価を明確化し、かつこちらが主導権を握る形。

 それはまさに交渉ごとにおける理想的な進め方で。

 フリーディア達が一転して、圧倒的に有利な立場に立ったことは、苦々し気に歪められた兵士の表情がなによりも如実に物語っていた。


「……わかったよ。降参だ。アンタらの条件を呑むぜ。だがよ、決して無碍に扱ってはくれるなよ?」

「えぇ。それは約束するわ」

「……そちらが提示した条件を守る限りは。ね」


 しばらくの沈黙の後。

 兵士は深いため息と共に両手を挙げると、フリーディア達に降参の意を示した。

 そんな兵士に、フリーディアは柔らかな笑みを浮かべて朗らかに告げるが、その後ろから釘を刺すかの如く、ユナリアスがしっかりと言葉を付け加えていたのだった。

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