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176話 目覚めた者達の死闘

「――オォッ!!!」

「っ!?」


 魔法陣の浮かんだドロシーの盾と、暗黒を纏ったテミスの大剣がバチバチと音を立てて交叉する。――しかし。先ほどの打ち合いの時のように、テミスが弾き飛ばされるようなことは起きなかった。


「そんなっ!? 術式が発動しないっ!?」

「ククッ……」


 剣を受けたドロシーが呟くと、テミスは凶悪な笑みを漏らしながら、盾ごと圧し潰さんと更に剣に力を込める。

予想通りだ。元来、この手の反射魔法と言うヤツは、物理と魔法の片方しか反射できない。そして、魔法陣に大剣が触れた瞬間に発動するのであれば、剣自体が奴の魔法陣に触れなければ良いのだ。


「グッ……このっ!!!」

「甘い」

「なっ……アンタ……本当に人間ッ!?」


 苦し紛れに突き出されたドロシーの剣を、テミスは大剣から片手を放し、易々と掴んで見せる。その手からもバチバチという音と共に白煙が立ち上るが、テミスはそれを歯牙にもかけていなかった。その手元には微かに、剣が纏っているのと同じ気配が漏れ出ていた。


「ああ。人間さ。愚かで醜い人間だよ」


 みしり。と。ドロシーは自らの剣を伝って、剣が悲鳴を上げている事を知覚した。

 ――このままではまずい。テミスが大剣から片手を放した事で、圧力は何とか踏み止まれる程度には落ち着いたが、このままでは剣が持たない。

 どんな奇術を用いているかはわからないが、事実として今、私の剣はテミスに握り潰されようとしている。

 だが……互いに両手が塞がった今。この瞬間だけ有利なのは私の方だ。


「フンッ……なら素直に死になさいな」

「――っ!」


 ドロシーが不敵な笑みを浮かべた途端。その背後に大量の魔法陣が展開される。同時に、展開の終わった魔法陣から次々に魔法弾が放たれ、テミスの頭上から次々と雨のように襲い掛かった。


「魔導師の面目躍如って所か」

「私は魔女よ? ……貴女が忘れていただけで」


 刹那。ドロシーの剣を手放したテミスは大剣を滑らせて解放し、前へと斬り込む事でそれを回避する。


「悪いな。私の中でお前の二つ名は畜生と決まっているんでな」

「……相変わらず、頭にくる奴ね……」

「それはお互い様だろう」

「あら、なら貴女は猪かしら? それとも、悪しき枝?」

「フン……何とでも言うがいいさ。獣に何を言われた所で意味はあるまい」


 テミスは罵倒と共に暗黒を纏った剣で斬り付け、ドロシーが返す言葉を口にしながらそれに応じ、剣を繰り出す。

 闘技場を縦横無尽に駆け巡りながら切り結び、時折繰り出されるドロシーの魔法をテミスが躱す……。そんな激しい戦いが暫く続いた時だった。


「ゴホッ……」


 バヂィッ! と。輝く盾がテミスの剣を弾き返した直後。ドロシーの口元を一筋の赤い筋が伝い、形の良い顎から滴り落ちる。

 ……限界ね。

 頭の中で、何故か冷静にドロシーは分析を下した。

 限界が近いことは解っていた。あれ程までに軽かった身体が、今も少しづつ鈍重になりつつある……重ね掛けをした強化魔法が切れかかっているのだ。おそらく、後放てて1~2撃。次の打ち込みで勝負を決める事ができなければ、私は負けるだろう。……でも。


「ッ……ハァッ……ハアッ……ッ!」


 一方ドロシーの向けた視線の先では、ひたすらに攻め続け、回避を続けたテミスもまた荒い息を上げていた。更には、その剣に纏う禍々しい気配も、知覚できる程度には薄らいでいる。

 ……腕が重い。喉が焼けるようだ。集中しすぎたせいか、浮つくような倦怠感が体中に充満している。


「クソッ……」


 テミスは小さく吐き捨てると、能力の消えつつある自らの剣に目を落とした。

 どうやら、私の力はいまだに不安定らしい。その証拠に、完全回復するはずであった不死鳥の産声でも、熱に浮かされたような気持ちの悪い浮遊感は拭えていない。

 このまま長期戦に持ち込まれれば必敗……。そう考えて攻め続けたが、ドロシーの吐血を見るに奴も限界は近い……どうやら選択は間違ってはいなかったらしい。


「ッ……カハァァァァァァァァッッ……」


 テミスはそう確信すると、大きく息を吐いて既に目視すら難しい程に纏う暗黒が薄まった大剣を頭上に掲げる。


「どうやら、互いにそう打ち合う力も残っていないらしい……次の一撃で雌雄を決するとしよう」

「っ……そう来るのね……。癪だけれど乗ってあげるわッ!」


 テミスの宣言にドロシーが頷くと、その背後に無数の魔法陣が展開された。同時に、構えた剣と盾の表面に赤い魔法陣が浮かび上がる。


「ククッ……クハハハッ……落ちろ雷鳴。トルニス」

「!?」


 テミスが唱えた瞬間。雲一つない青空から突如として雷鳴が鳴り響き、轟音と共に一筋の雷がテミスの剣へと落雷する。しかし、その雷は周囲に紫電を発しながらも拡散する事は無く、バリバリと音を立てながらテミスの剣に留まっていた。


「行くぞドロシー……私の理想に立ちはだかった事……骨の髄まで後悔させてやる」

「後悔するのは貴女よ。もしも死なないのなら、鎖で繋いで魔法実験の材料にしてやろうかしら」

「…………」


 テミスは宣言の後、ドロシーの軽口には応じず、高々と掲げた剣を僅かに移動させ、大上段に構えて制止する。

 そして数秒の沈黙の後、テミスは駆け出すと同時に能力を発動させ、その技の名を咆哮する。


「豪魔雷槌撃ッッ!!」

「つぶれてひしゃげろっ!」


 応じるようにドロシーが吠えると、その背に展開された魔法陣から、紫電を纏った大剣を振り上げたテミスに向って色とりどりの魔法弾が無数に押し寄せたのだった。

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