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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1927/2318

1860話 敗北者の絶望

「総員! 退避急げ!!」

「この船はもう一杯だ! 次の船が降りるのを待てェッ!!」

「ふざけるな!! そんなもん待ってたら沈んじまうッ!! 乗せろ! 乗せろォォ!!」

「あぁ……!! 嫌だ! 嫌だ!! 死にたくねぇ!! 死にたくねぇェッ!!」


 テミス達が巨大船の内部を駆け上がっている頃。

 甲板ではいち早く事態に気付いて脱出してきた兵達による混乱の渦中に在った。

 救命艇が設えられている付近には特に多くの兵達が殺到しており、轟くような怒声が飛び交っている。

 中には、刻一刻と迫る恐怖に耐えかねたのか、それとも救命艇への移乗は叶わない判断したのか、船の外縁部を乗り越えて湖へと飛び込む者まで現れており、状況は加速度的に混迷を極めていった。

 そんな甲板でただ一人。

 ユウキは気を失った仲間達の傍らで佇みながら、ただ茫然とその地獄を眺めていた。


「あ……あぁ……」


 ボクのせいだ。

 まず初めにユウキを襲ったのは途方もない罪悪感。

 自分がテミス達の迎撃に失敗したせいで、今この混乱が起きている。

 それは深い絶望となって更に敗北によって不安定になっていた心を苛み、ユウキはまるで恐怖から逃れるために母親に縋る子供のように、傍らで眠る仲間達の服を固く掴んだ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 けれど、いくら縋ろうともいつも明るい笑顔を浮かべて励ましてくれる声も、少しツンツンしているけれど聞くだけで落ち着く静かな声も、母親のように柔らかくて優しい声も聞こえてくる事は無く、ユウキはただ一人俯いてブツブツと謝罪の言葉を繰り返す事しかできなかった。

 何でこんな事になっちゃったんだろう。

 ボクは勇者で。強くて。皆を守る事が出来る力があるはずなのに……。


「……なさい」


 延々と自らを苛むユウキの瞳から徐々に光が失われ、ドロリとした絶望の色に染まっていく。

 誰もボク達なんかに見向きもしない。

 頑張って戦った。強かった。怖かった。

 でもボクは勇者だから。勇者は負けちゃいけない。なのにボクは負けた。

 だからボクには、何の価値もなくって……。


「ごめ……な……さ……」

「ッ……!!! 居たッ!! こんな所で何してんだ!! もう上級将校たちは皆脱出したぞ!! ……って」

「……?」


 誰に告げるともなく謝り続けるユウキの声が、涙に染まり始めた時だった。

 背後から突如として大きな声が響き、固い足音と共に荒く乱れた息が近付いて来る。

 負けたボクを怒りに来たのかな? 痛いのは嫌だな……。絶望に染まった心の端でそんな事を思いながら、ユウキは自らへと近付いて来る人物の方へとゆっくり顔をあげた。


「っ……! 勇者様……アンタ……。泣いて……んのか……? それに……そこで倒れてんのは……」

「……ごめんなさい」

「っ~~~~!!!!」


 兵士は眼前の今にも儚く壊れてしまいそうなユウキの姿に絶句するも、ゆっくりと傍らに歩み寄って膝を付く。

 けれどそこへ、ぽろりと大粒の涙を一筋零しながら、ユウキが震える声で謝罪を告げる。

 兵士には何故、ユウキがこんな事になっているのかはわからない。

 だがユウキに取って救いだったのは、この名も知らぬ一人の兵士が、年端もいかない少女であるユウキを戦場に駆り出す事に憤っていた善人であったことだろう。

 力無く座り込み、謝罪を繰り返すユウキの姿に、兵士は声を出す事なく慟哭すると、全てを投げ打ってでも抱きしめてやりたいという衝動に、鋼の理性を以て必死で抗った。

 そして。


「……退艦命令が出ている。この船はじきに沈んじまう。勇者様を死なせるわけにはいかねぇ。急ごう脱出艇はまだ残っているはずだ」

「…………」

「何があったのかは、俺にはわからねぇ。けれどどうか聞き分けてくれ。報告じゃ、この船は機関部を破壊されているらしい。もう持たねぇ……逃げなきゃいけねぇんだッ!!」

「……ボクは、良いよ。だから、お兄さんは早く逃げて?」


 固く歯を食いしばった兵士が静かに告げるが、ユウキは悲し気な表情を浮かべただけで口を開く事は無い。

 それでも兵士は諦めず、根気良く言葉を重ねると、弱々しい微笑みを浮かべたユウキは掠れる声でようやく口を開いた。

 だけどそれは、心優しい兵士が望んでいた言葉とは真逆のもので。

 ユウキの言葉に兵士はビクリと肩を震わせると、身を貫くかのような怒りと悲しみに再び声なき慟哭をあげた。

 その瞬間。


「~~~ッ!!! アアァァァァッ!!!!」

「――なッ!?」


 ガゴンッ!!! と。

 鋼鉄を叩き付ける凄まじい音が響くと同時に、拉げた分厚い鉄の扉がユウキ達のすぐ傍まで吹き飛ばされてきた。

 その異様な光景に身を固くした兵士が、扉が飛んできた方向へと視線を向けるとそこには、肩に一人の女を担いだ白銀の髪の少女が、ぜりぜいと息を荒げて膝を付いていたのだった。

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