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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1925/2320

1858話 生を求めて

 最初に響いたのは、バギバギバギンッ!! という激しい破壊の音だった。

 続いて、直撃した月光斬によって切り裂かれた動力部が、己の有していた回転エネルギーを暴走させ、拉げ曲がった主軸をそこかしこへと暴れさせる。

 巨木よりも太い動力部の主軸は凄まじい破壊力を以て動力室を荒らし回り、砕け散った破片がテミス達の頭上へと降り注いだ。


「……クハッ!!」


 動力部の破壊。

 その目標を達したことを確かに確認すると、テミスは悪魔的な笑いを一つ零し、残心を解いて素早く大剣を背中へと納める。

 その間にも荒ぶる動力は破壊の限りを尽くし、同時に船全体からもミシミシギシギシという不穏な音が響き始めた。


「っ……!! よし。任務完了だ! 全力で走れッ!!」

「ッ……!!!」

「はっ……? えぇっ!?」


 船の軋む音を聞きながら、テミスはクルリと素早くその身を翻すと、脱兎の如き速さでユナリアスとフリーディアの傍らを駆け抜け、動力室から飛び出していく。

 それにすかさず、緊張した面持ちのユナリアスは、目を白黒させるフリーディアの手を取って後を追った。

 だが、当のフリーディアは自分自身があれほど警告をしていたにも関わらず、事態をまるで把握していないようで。ユナリアスに手を引かれるがままに最後尾を駆けながら、混乱した声を上げている。


「思ったよりも頑丈だな!! この船はッ!!」


 先頭を駆けるテミスは高らかにそう叫ぶと、先ほど駆け下りてきた長い階段を前に再び大剣を抜き放つ。


「っ……!! 待つんだ! これ以上浸水速度があがれば脱出できない!」

「問題無い!! フリーディアと先に行けッ!! このままではどちらにしろ、壁でも走れん限り間に合わん!!」

「……! そうかッ……!! 了解! 先行する!! 露払いは任せてくれ!」

「ユナリア――きゃあっ!?」


 その姿を見たユナリアスが顔色を変えるも、激しさを増す船体の軋みと共に傾いていく床に息を呑むと、力強く頷いてから、即座に階段を駆け上がり始めた。

 これは時間との勝負。既に必要以上の会話を交わしている暇はない。

 ユナリアスは自身の持ち得る船の知識から、テミスは自身の立案した作戦の内から。その事実を理解しているからこその阿吽の呼吸であり、だからこそユナリアスはフリーディアにしっかりとした説明すらしないまま、必死の形相で手を引いて階段を駆け上がる。


「ユナリアス!! 手短で良いわ! 説明をお願い!!」


 けれど、フリーディアも現状がひっ迫している事だけは理解しているのか、すぐに自身の体勢を立て直してユナリアスの後ろを駆け始めると、真剣な表情を以て問いを発した。

 決して邪魔はしない。だが、ただ子供のように手を引かれて、後を付いていくだけなんて御免だ。

 そこがフリーディアが選んだ最善手であり、それはこの場における最適解でもあった。


「この船は沈む。水に飲まれる前に逃げるの!」

「っ……!? テミスが斬ったのは動力だけじゃ……!?」

「見た目だけはね。船っていうのはたとえ底を斬られてもすぐには沈まないんだ。けれど彼女が斬ったのはこの船の足……つまりは最後方。このままでは船は浸水によって後方へと傾いて、すぐに脱出は困難になるッ!!」

「だからテミスは……!」

「そう。けれどそれは同時に、浸水速度が上がることも意味している。これだけ大きな船だと、果たして私たちの足でも間に合うかどうか……!!」


 全速力で階段を駆け上がりながら、ユナリアスはフリーディアと言葉を交わすと共に歯噛みをする。

 同時に既に見えなくなった下の方から、ゴゴンッ……!! と鈍く重たい破壊音が響き渡り、同時に船体が大きく揺れ傾ぎ、二人は身体を壁に叩きつけるようにして辛うじてその場に堪えるも、足を止める事を余儀なくされる。


「きゃっ……!!!」

「クッ……!!」


 そして遂に響き始めた水音に、ユナリアスは心の奥底から湧き上がる冷たい恐怖に駆られるように、表情を歪めて再び階段を駆け上がり始めた。

 何と無様な。

 恐怖で痺れるユナリアスの頭の片隅で、不意に冷たい声が響く。

 自分の命を捧げる事すら計算に入れていたというのに。いざ目の前に死が迫れば、怯え竦んで逃げ回る。


「っ~~~!!!」

「な……何だ!? 何が起きているッ……!?」

「ッ……!! 邪魔だッ!! 退けぇぇッ……!!!」


 しかし直後。

 眼前に傍らの扉から駆けこんできたらしい狼狽した敵兵が姿を表すと、ユナリアスの頭の片隅でわずかに残っていた思考さえもが焦燥に染まる。

 そして、ユナリアスは悲鳴に似た叫びをあげると、狭い階段を行く手を阻む形で立つ敵兵に渾身の力で拳を叩き込み、僅かたりとも足を止める事無く道を切り開いたのだった。


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