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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1921/2318

1855話 水底への道

 巨大戦艦の内部へと侵入を果たしたテミス達は、その狭い通路をわき目もふらずに猛進していた。

 船内には警戒灯らしき光が禍々しく輝き、耳障りな警報が鳴り響いている。

 だが、船の(おお)きさに似合わず、乗艦している者の数は少ないらしく、時折鉢合わせた軽装の敵兵は、先頭を駆けるテミスが大剣を振るう事すら無くなぎ倒していく。


「急げッ!! 敵の体制が整う前に、何としても辿り着くぞ!!」

「っ……! そうは言うけれどテミス! さっきから貴女、滅茶苦茶に走り回っているだけじゃない!! それに辿り着くって……一体どこを目指しているというのッ!?」

「指令室狙いといった所だろうか? それにしては、先ほどから下へ下へと降りているような気がするが……」

「ハッ……!! 確かに、指令室を制圧できれば話は早いがな……。今頃は連中も、そう予測して兵力を集中しているだろう……さッ!!」


 ガンガンッ!! ドガァッ!! と。

 テミスは施錠された扉に突き当たるが、後ろに続くフリーディア達の言葉に応えながら強烈な蹴りを数度放ち、力任せに破って扉をぶち抜いた。

 その先には、さらに下へと向かう武骨な階段が待ち構えており、向かう先を覘けば肝が冷えるほど長い吹き抜けになっている。


「ッ……!! これは……。ククッ……ようやく当たり(・・・)を引いたな」

「なんと高い……! まるでこの船を貫いているかのようだ」

「恐らくはユナリアスの言う通りだろう。緊急用の直通移動用シャフト。要は城塞における脱出路のようなものだ。これだけのデカブツであれば、一つや二つくらいはあるだろうと踏んでいたが、これほどあっさり見つかるとは僥倖だ」


 扉を潜ったユナリアスが、シャフト内を吹き抜ける風をその身に受けながらごくりと息を呑むと、チラリと下へ視線を向けたテミスが不敵な笑みを浮かべて更に一歩前……頼りなくすら思えてしまう簡素な階段へと足を向けた。


「待ってテミス。何か狙いがあるのなら教えて頂戴。この船を止めるには、たとえ敵が待ち構えていたとしても、指令室を叩くしかないんじゃないかしら?」


 するとその背に向けて、自身もシャフトの内へと歩を進めたフリーディアが語気を強めて問うと、テミスは階段を一段下ったところで足を止め、呆れたような顔を浮かべて振り返る。

 そして、大きく首を横に振ってあからさまに気怠そうな溜息を吐いてから、フリーディアの顔を仰ぎ見た。


「お前は馬鹿か? ここは船の中。陸の上ではないのだ。確かに、指令室を制圧できれば敵の動きを止める事は出来るやもしれないな」

「だったら何故ッ!? 私たちの目的はそれ以外ないじゃない!!」

「あぁ。だが生憎、私は船の繰り方なぞ知らんぞ? しかもこの船、私の目から見ても規格外。よもや指令室を制圧して、敵の技術者に船を止めろとでも命じるつもりか?」

「ッ……!!! 待って! ユナリアスなら……!!」

「……できるかもしれないね。けれど、すまないが確約はできない。私たちの乗る船とこの船では、使われている技術に差があり過ぎるんだ」

「そんな……!! だったら……どうやって……」


 意地の悪い笑みを浮かべて問いかけるテミスに、フリーディアは一度は押し黙るも、すぐにピクリと肩を跳ねさせて隣のユナリアスへと水を向けた。

 けれど、返ってきたのは酷く言い辛そうに語気を弱めた言葉で。

 指揮を執る敵の中枢を叩いても、敵の足自体を止める事が出来る可能性は低い。

 突き付けられた現実に、フリーディアは目を見開いて息を呑むと、味わっている絶望に屈するかの如く、ヨロリと一歩後ずさった。

 だが……。


「ハァ~……。フリーディア。今私は、お前が本当に馬鹿なのだと確信したぞ」

「なっ……!! こんな時に、貴女って人はッ……!!」

「止すんだフリーディア。けれどテミス、仕方のない事だと思うよ? 陸での戦いでは到底しえない発想さ」


 再び深いため息を吐いたテミスが、今度は憐れみの籠った視線を向けると、触発されたフリーディアが即座に気炎を上げる。

 しかし、怒りの叫びを続ける間も無く、傍らのユナリアスが即座にフリーディアを制し、続けてテミスへ視線を向けてクスリと穏やかな微笑みを浮かべた。


「その口ぶり……ユナリアス。お前は既に見当がついているようだな?」

「ある程度はね。ただ、船乗りの端くれとしては、危険過ぎるとだけ忠告しておく。やり方を考えなければ、私達も仲良く溺れ死ぬ羽目になる」

「……了解した。その忠告、胸に刻んでおこう」

「っ~~!! だから、何なのよ!? 二人して!! 私たちは何処へ向かっているの? それもわからずに敵地へ斬り込まされる私の身にもなりなさいよ!!」


 まるで通じ合っているかの如く、そのまま会話を続けるテミスとユナリアスに、堪りかねたフリーディアは目尻に涙を浮かべてユナリアスの手を払うと、再び怒りを爆発させる。

 その瞳には、怒りと同時にいつもは心の底へと押し込めて居るはずの、確かな不安も揺れていて。


「っ……! 悪かったよ。フリーディア。教えるからそう声を荒げないでくれ。ここは音が響いて敵わん」

「は……はじめからそう言いなさいよ!!」

「フッ……。単純な話だ。止められぬのならば足を奪えばいい。狙うは動力部。我々はこの船の、先へ進む足そのものを破壊する」


 そんなフリーディアに、テミスは少し驚きを露にした後、くしゃりと表情を緩めて穏やかな声で宥めにかかった。

 そして、鼻を鳴らして腕を組んだフリーディアを見上げて肩を竦め、進むべき階下を指差しながら力強くそう告げたのだった。

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