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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1854話 駒

 酷く胸糞の悪い話だ。と。

 ユナリアスの話を聞き終えたテミスは、吐き捨てるように胸の内で呟きを漏らす。

 戦いの前。ユウキは自分達にこの船を止める権限は無いと言っていた。

 あの時は、自分達に止まる意志など無く、交渉を口にしながらもフォローダへ攻め込む手は止めないという戯れ言を抜かすと思ったものだが、真意の如何はどうあれ彼女たちの立場が見えてくれば、その意味も変わってくる。

 否。幼さすら伺えるユウキの言動を加味すれば、意味や真意といった次元の話では無いのかもしれない。

 まさに額面通り。言葉通りの意味。

 ユウキたちは勇者を名乗り、彼女たちの仲間を守る為にこの船に乗ってこそいるものの、それはこの船本来の兵達にとって同胞や仲間としてではなく、困窮の折に現れた戦力として乗艦させていたのだろう。


「チッ……」


 胸の内に堆積し始めたどろりとした感情に舌打ちをすると、テミスは片目を吊り上げておもむろに後頭部を掻いた。

 だからこそ、ユウキたちは他の兵を伴う事無く我々の前に現れ、彼女達のみで戦いを挑んできたのだ。

 忌むべき混血を連れた規格外の戦力など、彼等からしてみれば心強い戦力であると同時に信のおけない厄介者であったに違いない。


「……皮肉だな。どうやら我々は、連中の杞憂をも取り払ってしまったらしい」

「改めて言われると耳が痛いね。けれど、避けて通ることはできなかった筈さ。この船の者達にとっては杞憂でも、彼女たちはひたむきだった。そう……眩しい程にね」

「ねぇ……テミスッ……!!」

「却下だ」


 酷く重苦しい雰囲気の中、悲壮感を漂わせたフリーディアが意を決したかの如く顔をあげ、慈愛の光を宿した瞳でテミスを見据えながら名前を呼んだ。

 だが、皆まで口にする前に。テミスは機先を制するかの如く、冷たい口調で切って捨てると、呆れたように浅い溜息を漏らした。


「……ッ!! まだ何も言っていないじゃない!!」

「何も言わずともその顔を見ただけでわかる。連中を助けてやろうなどと寝言を喚きだすのだろう? 遂に自分達の状況すら考える事が出来ない程に、幸せな脳味噌にでもなったのか?」

「でもこのまま捨て置くなんてできないッ!! 彼女たちはもう戦えない! せめて戦いが終わるまで、私たちの船で保護をするべきだわッ!!」

「阿呆め。私は、状況を考えろと言ったぞ。この船からどうやって降ろす? 内に招き入れた連中が牙を剥かんという保証は? そもそも我々は、一刻も早くこの船の足を止めねばならんのだ。尤も……フォローダの町が焼かれようとも、この哀れな小娘共を救う事を優先するというのならば話は別だが?」

「ぐっ……!! それ……は……ッ……!!」


 凛と気炎を上げたフリーディアに、テミスは酷くつまらなそうに視線を空へと向けながら、淡々と現実を叩きつける。

 これも何の事は無い、どちらを救い……どちらを救わないのかというだけの単純な話だ。

 酷く夢見がちで自分達に都合の良い理想だけを語るのならば、確かにユウキたちを保護しながら、フォローダの町への侵攻を止める手段も無くはない。

 だが、今のユウキたちを連れてこの船の内部へと攻め込むのはあまりにもリスクが高すぎる。

 真正面からの勝負に打ち勝ったとはいえ、目を覚ませば再び襲い掛かってくる可能性だって十二分にあり得るのだ。

 そもそも、敵地の只中でそのような危険分子を内に抱え込むなど言語道断で。

 本来ならば一考の予知すら無い、明々白々な事なのだ。

 故に。言葉に詰まったフリーディアへ追い打ちをかけるかの如く、テミスはじろりと睨みを利かせて言葉を続ける。


「戦術的に考えるのならば、ここで止めを刺していくのが合理的なんだ。それをしないだけで今は満足しておけ」

「っ……!! 私には……何もできないの……? こんなに苦しんでいる人が目の前に居るというのに……何もッ……!! 手を差し伸べてあげる事さえ……許されないの……?」


 答えは出たとでも言わんばかりに身を翻したテミスの背に、フリーディアは絞り出すような声で慟哭した。

 目の前で苦しむ救いたい者と、遠くで危機に晒されている救うべき者達。

 胸の内ではどちらを選ぶべきかなど、既に正しく理解しているからこそ、フリーディアはこうして無為に心を痛めているのだろう。

 しかし、その苦しみこそフリーディアが望んで選んだ道。


「フン……」


 だからこそ、テミスはただ小さく鼻を鳴らしただけで、それ以上何も言葉をかける事は無く、コツリと無慈悲に一歩を踏み出した。

 だが、それまで傍らで口を挟む事なく黙していたユナリアスが、穏やかな微笑みを浮かべて自身の無力に泣き濡れるフリーディアの肩へと柔らかく手を置いて口を開く。


「フリーディア。きっとテミスはこう言いたいんだよ。彼女たちは強い。だから今すぐに君が手を差し伸べなくても、生きてさえいればきっと大丈夫。それでも君が、彼女たちをどうしても救いたいと願うのなら、全てが終わった後に改めて助けてあげればいい……とね」

「っ……!! ユナリアス……」

「ふふ……違ったかな?」


 優しくそう告げた後、ユナリアスはゆっくりと顔をあげたフリーディアの肩を抱いたまま、テミスの背へ視線を向けて問いかける。

 だがそれは、曲解に曲解を重ねた無理やりすぎる解釈で。


「見当違いだ。時間が無い。さっさと行くぞ」


 テミスは忌々し気にそう言い残すと、二人の返事を待つことなく足早に歩きはじめたのだった。

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