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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1918/2318

1852話 意地と敬意

 一般的な魔法使いの動体視力は、一般人のそれとさほど変わりはない。

 最前線にて至近距離で剣戟を打ち合う剣士とは異なり、魔法使いの配される場所は最後方。それも、頑強な盾を持つ矢避けの奥であり、一般的な人間の戦争常識において、戦争の最中に魔法使いが敵からの攻撃に晒されるような事態に陥るという事は、既に自軍が壊滅状態であることを意味している。

 故に。魔法使いに斬撃や矢を躱す動体視力は、魔法を操る技量や知識よりも優先順位が劣る、戦場に赴く為の行軍に必要な体力よりも更に低い。

 それは、ユナリアスが相対している二人の魔法使いとて同じ事だった。


「フッ……!!!」


 短く鋭い息を吐きだしたユナリアスが懐に潜り込んで尚、壁として立ちはだかった大人びた魔法使いは視線すら向ける事無く硬直している。

 ユナリアスは刹那の間に自らが魔法使いの知覚の外に居る事を確かめると、眼前の敵を斬るべく構えていた剣を逆手に持ち替えた。

 そしてそのまま、ユナリアスは自身の動きに反応すら出来ていない大人びた魔法使いの鳩尾へ向けて、渾身の力を以て剣の柄頭を叩き込んだ。


「カッ……!? ァ……ッ……!!!」


 どむん。と。

 肉を打つ重たく鈍い感触が剣の柄を通してユナリアスの手に伝わると同時に、頭上で大人びた魔法使いの苦悶の息が聞こえてくる。

 別に、フリーディアの絆された訳ではない。だが、勇者を名乗る者の傍らにいた者であれば、何か重要な情報を持っている可能性は高いだろう。

 捕虜として捕らえる事が出来ればその価値は計り知れず、それに命を奪う事無く制する事が出来る相手を、わざわざ殺してしまおうと考えるほどユナリアスは冷酷ではなかった。


「…………」


 一瞬の内に意識を刈り取られた大人びた魔法使いの身体がぐらりと大きく傾ぐと、ユナリアスは僅かに姿勢を落して自身の身体で受け止める。

 その際、大人びた魔法使いの有する豊満な胸がズシリとした重さを伴ってユナリアスの後頭部にのしかかった。

 後頭部に感じる柔らかな重さに、ユナリアスは一瞬だけピクリと眉を跳ねさせるも、スルリと身体を捻って意識を失った大人びた魔法使いの身体を受け流し、ドサリとうつ伏せに甲板へと落す。

 そうして開けた前方には、幼さの残る魔法使いが涙を流して嗚咽を堪えながら呪文を唱え、掲げた杖の先に大きな火球を留めていた。


「……やはり早いッ!」


 既に魔力の充填を終え、発射体制に入っているその様子に、ユナリアスは鋭く呟きを漏らしながら、更に前へと突き進むべく脚に力を込める。

 魔法を放つ速度では、先ほど目の当たりにしたコルカ達の速さには当然劣るものの、人間という枠の中では突出して早い。

 本来ならば、魔法を放つための魔力の充填だけでも、数人がかりで数時間の時間をかけて魔力を収束・蓄積させなければこの段階まで至ることはできない。

 だというのに、この魔法使いは独力かつ僅かな時間のみで魔法を放つ準備を整えてみせたのだ。


「ッ――!!!」

「クッ……このまま切ってしまっては炸裂してしまう」


 飛び込んだユナリアスの気配に感付いたのか、幼さの残る魔法使いが紡ぐ呪文が目に見えて早口になった。

 恐らくは、無理やりにでも呪文を放つ腹積もりなのだろう。

 肉薄された状態で火球の呪文を放てば、魔法を放った自分自身をも巻き込んでしまうのは自明の理。

 けれど、彼女の師が命を賭して稼いでみせた僅かな時間に、想いに報いるべく、彼女もまた自身の命を賭して敵であるユナリアスを屠らんとあがいているのだ。


「クス……その意気や良し。けれど、私はキミも殺すつもりは無いよ」


 小さな身体から迸る気高き意志に、ユナリアスは頬を緩めてそう呟くと、更に身を屈めて幼さの残る魔法使いに肉薄する。

 魔法使いの放つ魔法を止める為には、その手に携えている杖を破壊するのが最も効果的だ。

 だが、魔法が放たれる発動直前の、魔力が充足し切った状態の杖を破壊すると、杖に留まっていた魔力が暴走して一気に炸裂してしまう。


「壊す事が出来ないのならば……こうだッ……!!!」

「~~~~ぇッ!? きゃッ……!? ……が……ハ……ァ……ッ!!」


 叫びと共に、ユナリアスは高々と掲げられた杖を掴むと、同時に杖を握る幼さの残る魔法使いの手首を掴み、自身の背に担ぐようにして身体を添わせた。

 そして、瞬く間に幼さの残る魔法使いの手から杖を奪い取ると、そのまま身体を巻き込むように前傾させて空中へと投げ飛ばす。

 そんなユナリアスの洗練された流れるような動きに、幼さの残る魔法使いが応ずる術はなく、為すがままに握り締めていた杖を奪われると、可愛らしい悲鳴と共に宙を舞った後、受け身すら取ることなく背中から固い甲板へとその身を叩きつけられたのだった。

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