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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1905/2319

1839話 朗らかな勇者

 気配は無かったはずだ。

 突如として姿を現した少女を前に、テミスは即座に背中の大剣を抜き放つと、正眼に構えて睨み付ける。

 だが、今はそんな事はどうでもいい。

 気配があろうとなかろうと、ここは敵地の只中。共に乗り込んだフリーディアとユナリアス以外の者が敵でない筈がない。

 しかし、相対する少女の悲し気な顔に戦意は感じられず、テミスの胸の内で生じた相反する感情が体を硬直させる。


「あははっ! 随分と怖そうな人だなぁって思ったけれど、意外と優しいんだ」

「…………」

「よかったぁ……いきなり斬り合いとかにならなくて。そんな事になっちゃったら、ボクたちが出てきた意味が無いもん」


 少女は大剣を構えたテミスを前にして尚、その快活で朗らかな調子を崩す事は無く、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 その笑顔に絆されたかの如く、テミスの数歩後ろで警戒の姿勢を取っていたフリーディアとユナリアスの空気が緩み、ゆっくりとした足音を奏でてテミスと肩を並べる。


「うんうん! じゃあ、まずは自己紹介からかな? ボクの名前はユウキ。こんなだけれど、いちおう皆からは勇者って呼ばれているよ!」

「……皆?」

「そ! ボクの仲間! 一番最初にキミ達へ話しかけたのも、仲間の力を借りたからなんだ!」


 ユウキと名乗った少女がそう告げた途端、その傍らに虚空から湧き出てくるかの如く、三人の少女が姿をした。

 しかし、姿を現した三人はユウキとは異なり、テミス達へ明らかな敵意と警戒心を向けていた。


「……ユウキ。私たちの事は言わないって約束したのに」

「えぇ……? でも、大丈夫そうじゃない? 三人とも優しそうだよ?」

「なっ……冗談だろ? 後ろの二人ならまだわかるけれど、ソイツなんて思いっ切り剣構えてるし!!」

「いつも言っているけれど、そう簡単に他人の事を信じては駄目ですよ? ユウキ。さぁ、早くこちらへ」


 早速とばかりに、姿を現した三人とユウキは姦しく言葉を交わし始めるものの、ユウキは朗らかな態度を取ってはいるが、意見を頑として譲る気は無いらしく、警戒を促す他の三人の言う事を聞かずにテミスの正面に留まり続ける。

 その距離は、もしもテミスがその気になれば、大きく一歩を踏み出すだけで容易く大剣の間合いへと入れてしまうことができるほど近く、故にこそテミスもユウキのあまりの無防備さに戸惑い、斬りかかる事が出来ずにいた。


「……ほら! こうしてボクたちが話をしていても待っていてくれてるじゃん! 大丈夫! 話せるいい人だよ!」

「っ……」

「お前の能天気さに警戒してるんだよ!! それにいい人がこんな場所に居る訳がねぇだろ!!」


 それはそうだ。と。

 テミスは何処かで見た気がする能天気さに呆れながら、荒っぽく叫びをあげた戦士らしい風体の少女の言葉に、胸の内で同意を添える。

 ここが町の中であったならばいざ知らず、戦闘中の戦艦の甲板なのだ。

 居るはずの無いものが乗り込んでいれば、それは即ち敵でしかなく、まかり間違ってもいい人であるわけがない。

 だが、ユウキは気炎を上げる戦士らしき少女を慣れた様子で宥めると、クルリと身を翻してテミスへにっこりと笑顔を向けた。


「ごめんね? 騒がしくて。そういう訳だから、少し話せないかな?」

「……どういう訳かはわからんが、そちらに話す気があるのならばまずは所属を明かしたらどうだ? 生憎、勇者などこの辺りには掃いて捨てるほど居るのだからな」

「ふふっ、その口ぶりだとキミはボクと同じみたいだね? あぁ、勿論、今はたぶん敵同士なのだろうけれど」

「お前がヴェネルティに属する者ならばそうなるな。さて……これで我々は敵同士である事が判った筈だ。悪いがあまり時間がある訳でもないのでな。邪魔をするというのならばさっさと始めてくれないか?」

「っ……!!!」


 友好的な態度を向けるユウキに、テミスが淡々と敵意の籠った言葉を返すと、傍らのフリーディアが声こそ発しなかったものの、まるで非難するかの如く鋭くテミスを睨み付ける。

 博愛主義者のフリーディアの事だ、こうして友好的な態度を見せるユウキとやらを相手に一戦を交える気は最早さらさらないのだろう。

 だが、フォローダへ向けて疾駆するこの巨大戦艦を止める事が、今のテミスたちにとって何よりも需要な任務だといえる。

 だからこそ、テミスは手っ取り早く話を進めるべく、強硬的な態度へと打って出たのだが……。


「戦う気が無い……訳じゃないんだけれどさぁ……。戦うのは最後の手段、ボクとしては、その前にもっとするべき事があると思うんだよねぇ」


 ユウキは困り果てたかのように大仰な態度で肩をすくめてみせると、相も変わらず無防備な調子のまま言葉を続けながら、カツリと足音を立てて一歩テミスへと近付いたのだった。

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