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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1837話 突飛すらも飛び越えて

 龍星炎弾(ドラグメテオ)の奏でる重厚で強烈な爆発音が連続した響き、放たれた衝撃波がビリビリと海面を揺する。

 着弾した巨大戦艦の装甲は、ギギギギギッ……! と嫌な音を響かせながら軋みをあげ、もはや原形を留めてはいなかった。

 幾度も叩き付けられた衝撃によって船体は大きく凹み、熱で溶けだした鋼が再び固まり、拉げて不気味な形を模っている。

 だがそれでも尚、いまだ船の内部が露出する事は無く、のっぺりとした鋼がむき出しとなっただけだった。


「ッ……!! ゼェッ……ゼェッ……!! ハァッ……!! も……もう流石に魔力がからっけつだぁ……これ以上は、絞り出せっても撃てない……ぜ……」

「フム……そうか……。ご苦労だった。休んでいてくれ」


 最後の一発が巻き上げた爆炎が消え失せると同時に、テミスの傍らでは疲労困憊となったコルカが杖をもその場に力無く落とすと、崩れるように背中から甲板へと倒れ込む。

 その周囲には、既に一足先に魔力が尽きた、コルカ旗下の魔法使いたちが力尽きており、皆一様に恨みすら籠った眼差しで、悔し気に頭上の灼け爛れた敵の装甲を睨み付けていた。


「これで十分だ」

「なっ……! えぇっ!? ちょっ……テミスッ!!?」


 しかし、その場の誰の予測にも反して、テミスは穏やかな声色でそう言い残した後、深くしゃがみ込んでから一気に跳び上がり、コルカ達が穿った大きな凹みへと乗り移る。

 そんなテミスの突飛もない行動に、一同は思わず目を剥いて驚きを露にするが、その中でもフリーディアだけは、船体の凹みに身体を預け、再び跳躍すべくかがんだテミスを声に出して呼び止めた。


「待ちなさいよ! サキュドたちが攻め切れなかったのでしょう!? よじ登った所で撃ち落とされて終わりだわ!」

「いいや。その可能性はない。この場所は本来ならば、船体が在ったはずの場所なのだ。敵の火線が通ることは絶対にない。自らの身が自身の放つ砲撃で焼かれるなど言語道断だろう? そんな兵器が存在したら笑い話だ」

「っ……!! だったら私も行くわ!! これだけ大きな船、どれ程の敵がいるかもわからない! 貴女一人で行かせる訳にはいかない!」

「クス……。どうやって? 一応言っておくが、お前を担いでよじ登るなど私は御免だからな?」

「っ……!!」


 敵味方の船に分乗したというにもかかわらず、テミスとフリーディアはまるで通りを挟んで言葉を交わすかのように、気兼ねなく叫んで言葉を交わし、それを見守る周囲の者達だけが、しきりに辺りへと視線を泳がせて警戒を強めた。

 ただでさえ敵の懐に潜り込み、いつ圧し潰されてもおかしくは無い状況なのだ。

 気配を消して損はない。と、誰もがそう思っていたのだが……。

 一番危険な位置に居るはずのテミスは、そのような事はお構いなしで、遠目からでも嗤っているのだと判るほどに大きく表情を歪めると、フリーディアを煽り立てるかの如く、ガンガンと敵艦の装甲を拳で叩いてみせる。


「あわわわわっ……!! て……テミスさま……!? なぁにやっちゃってるんですか……あれぇ……!?」

「なっ……!? そんな……私ならわかるだろうみたいに聞かないで!? 皆もこっち見ない!! 私も分からないからっ!!」


 自分達の乗る船をも危機に叩き込みかねないテミスの行動に、慌てたリコがバタバタと出鱈目に手足を動かしながら傍らのフリーディアに視線を向けて声を上げる。

 すると、周囲にいた者達も揃って一斉にリコの視線を追って注目し、堪えかねたフリーディアは顔を赤くして叫びをあげた。

 しかし、そんな中でただ一人。

 ユナリアスだけは一人甲板の上を忙しそうに、時折しゃがみ込んだりしながらあちらこちらへと歩き回っている。

 けれど、それに気が付いたフリーディアが言及する前に、ユナリアスは穏やかな微笑みを口元に浮かべて戻ると、おもむろに手にしていた太いロープの端をフリーディアの腰へと結びつけた。


「…………。えっと……? ユナリアス。これ……は?」

「ふふ……いいからいいから。次は私も……よ……い……しょっ……うん。これでよし……と」


 不可解な動きを始めたユナリアスに首を傾げて尋ねるフリーディアだったが、ユナリアスは不敵に微笑みを浮かべて答えをはぐらかしただけで、続けて自分の腰へもロープを括りつける。

 そして……。


「おぉいっ……! しっかりと、受け取っておくれよっ……!! それっ……!!」

「……!?」


 呆れたような眼差しを向けるテミスへ向けてひと声をかけてから、自分達の繋がったロープから長く続いた球を、渾身の力を以てテミスへ向けて投げ放った。

 それはあまりにも、極限の戦場には似つかわしくもない間抜けな光景で。

 まるで時がズレてしまったかの如く、投げ放たれた球はゆっくりと放物線を描いてテミスの元へ向けて飛んでいった。

 その球から伸びる縄を、半ば反射的にテミスが掴んだ時だった。


「よぉっし! 良く掴んでくれたね! さぁ! これで抱えてよじ登る必要は無くなったよ! 君が登った後で、私達もそちら側へ引き上げてくれたまえ!」


 ユナリアスは力の籠った叫びを上げると、勢いよく突き上げた拳をそのまま開いて笑顔で言葉を続けながら、テミスへ向けてぶんぶんと手を振ってみせたのだった。

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