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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1833話 戦果の価値

「テミス様ッ!! 申し訳……ありませんッッ!!!」


 ドズン! と。

 荒々しい着地音を響かせながら船へと帰還したサキュドは、何よりも優先して跪き、頭を垂れた。

 胸中に渦巻いていたのは途方もない屈辱と悔しさ。以前のサキュドならば、この胸の内を焦がす激情に任せて、迷うことなく戦いを挑んでいただろう。

 だが、今のサキュドの心には、自身の激情をも御する事を可能とするほどの重責が楔となって打ち込まれていた。

 それは、もう一人の副官であるマグヌスから託された想いでもあり、サキュド自身の意地でもある。

 残された最後の副官として。たとえ屈辱の煮え湯を飲み下す事になろうとも、単身で無茶な特攻を仕掛ける訳にはいかなかったのだ。


「……どうした?」

「敵軍港の大半は制圧しました。ですが、一番大きな船……いえ、動く鋼の砦が一隻! 小型の砲門も多数備えており、近付く事が出来ません!!」

「了解した。任務ご苦労。次の出撃に備えて待機をしながら体を休めてくれ」


 そんなサキュドの荒れ狂う内心を知ってか知らずか、テミスはクスリと静やかな微笑みを浮かべて短く答えを返すと、頭を下げ続けるサキュドに頷いてみせる。

 だがサキュドの心情は別として、テミスにサキュドを叱責する理由は微塵たりとも無かった。

 あらかたの敵戦力の排除を終えてなお、出撃したサキュド達は全員無傷で帰ってきている。

 この戦功は言うまでもなく、大きな戦功以外の何物でもない。

 故にテミスとしては、サキュド達の働きは十分過ぎる者だと認識していたのだが……。


「ッ……!! テミス様!! どうか……どうかアタシに汚名を雪ぐ機会を!!」


 次なる作戦に打って出るべく立ち去りかけたテミスの背を、緊迫したサキュドの声が呼び止めた。


「……汚名だと? 何の事だ?」

「ッ……!! テミス様の命を達成する事が出来ず、引き返すなんて屈辱はじめてです!! ですからお命じ下さい!! 命に代えてもあの砦を沈めろとッ!!」

「却下だ」

「なッ……!! ッ……!!」

「勘違いするな。サキュド」


 頭を下げたまま、固く歯を食いしばった歯の隙間から叫びをあげるサキュドの懇願に、テミスは足こそ止めたものの短く答えを返した。

 その決定はサキュドにとって苦痛であり、甲板に着かれた掌がギシリと固く握り締められる。

 だが、テミスがそのまま立ち去る事は無く、頭を垂れた格好のまま言葉を失うサキュドの元まで踵を返すと、傍らに膝を付いて柔らかに口を開いた。


「お前は私の命令を十全に果たした。残るはその鋼の砦だけなのだろう? 大戦果だ。恥じる事など何もない」

「ッ……!! ですがッ!! 敵を打ち漏らしました!! アタシは……テミス様の副官なのにッ……!! その役をッ……!!」

「大馬鹿者。随分と張り切っていると思ったがそういう事か。気負い過ぎだ。全ての戦闘をお前達に任せたつもりなど毛頭ない。もう一度言うぞ。敵の船をあらかた潰したお前達の戦果は素晴らしい大戦果だ。安心して休め」

「雑魚狩りなど物の数ではありません!! それを戦果などと……っ!?」


 けれど、サキュドが引き下がる事は無く、目に涙を溜めて顔を上げると、必死の形相でテミスへと食い下がる。

 その姿は、普段の奔放な彼女からはかけ離れたもので。テミスは痛まし気に目を細めると、更に言葉を重ねようとするサキュドを制して首を振った。


「サキュド。ここは普段の我々の戦場とは異なる水の上だ。お前が雑魚といった連中を捨て置けば、我等の帰る道すら危ぶまれる。それに……だ。忘れるなよ? お前にとっては容易い仕事だったかもしれないが、空を駆ける術を持たない我々が同じ戦果を出そうとしたらどれ程の苦労が伴う事か」

「っ……!!!」

「要は適材適所……役割分担だ。コルカ達にも少しくらい出番を譲ってやれ。出番が無いと拗ねていたぞ?」

「テミス……様……」

「あとは任せておけ。どうしても役目が欲しいというのなら、フリーディアの御守を任せても良いが……。私も少しばかり調子が戻ってきた所為かな……腕が疼いてきたところなんだ」


 肩を震わせるサキュドに、テミスは懇切丁寧に言葉を重ねた後、冗談を交えて笑顔を向ける。

 そこには半分ほど、サキュドがフリーディアの悋気の矛先を買ってくれれば楽になるかもしれないという、テミスの期待も込められていたのだが……。


「お心遣い、有難く頂戴しますわ!! 不肖サキュド。次なる命に備えて控えております故、至極残念ではありますが御守の任は辞退させていただきます。テミス様、ご武運を!!」


 サキュドは膝を付いたテミスの前で立ち上がってから、ビシリと姿勢を正すと、ニンマリと悪戯っぽい笑みを浮かべて、声を上げたのだった。

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