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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1888/2316

1822話 秘めたる思い

 フリーディアとユナリアスの情報交換。

 奇しくもその時間はテミスにとって、代え難い休息の時間となっていた。

 リコを伴っての潜入からユナリアスの共闘を経て、死に瀕した蒼鱗騎士団の女騎士を救い、最悪とも言える調子の中での連戦。

 さしものテミスといえども疲弊を避けることはできず、テミスは傍らのリコに見守られながら、手近な壁に背を預け、立て掛けた大剣を枕に身体を休めていた。

 そこへ。


「全く……良いご身分じゃない。大切な話し合いは私たちに任せてお休み中だなんて」

「フリーディア。幾らなんでも口が過ぎるんじゃないかい? 君らしくもない。ほぼ単独でこの砦に潜入したうえに、我々をここまで連れ出してくれたんだ。戦果としては十分に思えるけれど?」

「ただの将兵ならね。十分過ぎる戦果だわ。でも、それだけでは駄目。彼女はこんな所で、やり切ったような顔をして倒れて良い人じゃないのよ」

「っ……! ふふ……君も、随分と彼女を気に入っているんだね」

「それ、本人には絶対に言わないでよ? ま……どうせ聞いたところで、意地悪な顔して私に好かれるだなんてとんだ災難だ~……なんて憎まれ口を叩くんでしょうけれど」


 溜息まじりの声と共に、ユナリアスを連れたフリーディアが姿を現すと、テミスを見守っていたリコが二人に頭を下げて無言でさがる。

 そんなリコに頷きを返した後。フリーディアたちは眠りこけているテミスを眺めながら、穏やかな声で言葉を交わした。


「何と言うか……羨ましいよ。私では終ぞ、今の彼女が立っている場所にはたどり着けなかった」

「やめてよユナリアス。貴女は大切な友人よ? 貴女までこのテミスみたいになってしまったら私、とてもじゃないけれど身が持たないもの」

「あぁ。私にとっても君は大切な友人さ。けれど……」

「……? ユナリアス?」

「いや。すまない。ただの些事だよ。ちょうど斥候に出ていた者達も戻ってきたみたいだ。眠り姫には申し訳が無いけれど、そろそろ目を覚まして頂こう。これからの事も話したいしね」

「眠り姫……。テミスにそんな殊勝な役は似合わないわ。こうして眠っているだけなら、十分にその資格はあるのに」


 ユナリアスはフリーディアから視線を外して薄闇の中を彷徨わせると、クスリと口元に自嘲気味な微笑みを浮かべて言葉を零す。

 しかし、テミスの様子を注視していたフリーディアが、言葉を途中で止めたユナリアスを振り向いた時には、微笑みは普段のものへと姿を変えていた。

 僅かに抱いた違和感に、フリーディアが小首を傾げている間にユナリアスは一歩前へと進み出てフリーディアの隣へと並び立つと、テミスを見下ろしながらどこか芝居がかった口調で告げる。


「ま、そんな事、今は良いわ。起こすわよ? テミス! 起きて! 起きなさいッ!!」

「あっ……!!」


 ユナリアスの言葉に皮肉を返しながら、フリーディアは静かにテミスの傍らへと歩み寄り、一拍の間を置いて確認を取る。

 そして、ユナリアスが頷いたのを見ると、あろう事か眠るテミスの頬へ手を伸ばして、パシパシと軽く叩き始めたのだ。

 刹那。

 すぐ傍でそれを見ていたユナリアスの背には怖気が走り、口から悲鳴が零れかける。

 何故なら……。

 剣を抱いて身体を休めるその姿勢は、休息の時間であって尚、警戒を解いていない何よりの証。

 つまり、今のテミスを安易に刺激してしまえば、防衛反応を誘発して斬られてしまいかねない。

 そうユナリアスは危惧を覚えたのだが。


「…………」

「ほら! テミス! テミスったら!! 休憩は終わりよ! 起きてってば!!」

「んぁ~……。わかった……わかったから……そう人の顔を叩くな……」

「っ……!!」


 頬を叩いたフリーディアがテミスの手によって両断される事は無く、それどころか目を覚ましたらしいテミスは酷く気怠そうな声を上げただけで、頬を叩く手を払う事すらしなかった。


「起きたわね? なら、一分でシャッキリしなさい。ふう……これでよし……と」

「……驚いたな。私ではとても、彼女にそんな真似はできないよ」

「あぁ……殺気が籠っていなければ案外大丈夫よ? あと簡単に起こすのなら、少し離れた場所から殺気だけを向けるって方法もあるのだけれど……。今回は戦功に免じて優しく起こしてあげる事にしたわ」


 完全に意識を取り戻したテミスが、ぐしぐしと目を擦り始めたのを見届けてからフリーディアが一歩退くと、ユナリアスはただ己の心に従って感嘆の声を漏らす。

 けれど、フリーディアはまるで当然の事かのように涼し気な笑顔を浮かべて答えながら、明るい笑顔を浮かべて別の起こし方を語り始める。


「……これは、なかなかどうして……。うん……妬けてしまうね……」


 そんなフリーディアに頷きを返しながら、ユナリアスはボソリと小さな声で独り言を漏らしたのだった。

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