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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1884/2315

1818話 報撃の輪

 ばきり。ごすり。と。

 肉を打つ痛々しく湿った音が、暗闇の中に響く。

 最初は共に漏れていた苦悶の声も数十を数えた今は無く、首を締め上げる敵兵の腕を掴んでいたテミスの腕も、力無く床の上に横たわっていた。


「へへ……意外と根性あったじゃねぇか……。んだがまぁだ……オネンネには早えぇよなぁッ!!」

「ヴッ……!? ゲホッ……ゴホッ……!!」


 絶え間なく降り注ぐ拳の雨に、反応を示す事すらなくなったテミスだったが、兵士は顔を歪めて嗜虐的な笑みを浮かべると、おもむろに腕を後ろに回して腹を殴る。

 すると、幾度となく打たれ続けた顔面とは異なり、鈍い苦痛を受けたテミスが身体を跳ねさせて咳き込むと、敵兵は満足気に息を吐いて再び拳を持ち上げた。


「お前が斬り殺したのは俺の上官でなぁ。正直、威張ってばっかりで文句ばっかり垂れてる奴だったから、死んでくれて万々歳なんだ」

「…………」

「んだが、お前の相棒が殺した奴は良い奴でよぉ……。よく二人で上官の愚痴を言い合ったもんだ」

「…………」

「……なぁ、聞いてっか? オイ!! 折角テメェらが殺しやがった奴のことを話してやってんだから相槌ぐらい打てよ」


 敵兵は再びテミスに拳を叩き込みながら、低い声で言葉を紡ぎ始める。

 だが、組み敷かれたテミスは打たれる度にビクリビクリと僅かに身体を震わせるばかりで。

 反応を示さないテミスに苛立ちでも覚えたのか、敵兵はテミスを殴る手を止めると、再び腹に重たい一撃を加えた後、腫れあがったテミスの頬をペシペシと平手で軽く叩きながら言葉を重ねた。

 だが……。


「ごぁッ……!! ッ……。プッ……!! そんなに……喋りたいのなら……そこに転がってる死体にでも話してろ。変態」

「フゥ~……。ったくよぉ……。お前、馬鹿だろ? 自分の立場……わかって言ってンのかよッ!!」

「ッ……!!!!!」


 テミスは敵兵の言葉に薄い笑みを浮かべると、叩き付けるような言葉と共に血の混じった唾を吐きかける。

 しかしその報復は当然の如く、拳を以て返される事となり。

 敵兵はガリガリと頭を掻きながら深いため息を吐いた後、荒々しい言葉と共に大きく振りかぶった強烈な一撃を突き込んだ。

 その一撃に、テミスは苦悶の声こそあげる事は無かったものの、ビグンッ! と横たわった全身を不気味に跳ねさせる。


「……これでも殺さねぇように加減してやってるのがわかんねぇってか? それとも、もっと酷でぇ目に遭いたいってんなら、望み通りにしてやるけどよォ」


 それでも、敵兵が拳を引く事は無く、テミスの顔面に叩き込んだ拳を言葉と共にぐりぐりと捻った後、その手に残る温かな感触を楽しむかの如くゆっくりと持ち上げた。

 そこには、打ち据えられたテミスの血がべったりと付着しており、一筋の細い糸を引いてぽたりと落ちる。


「っ……!! もう止めないかッ!! こんな嬲るような真似を……お前に誇りは無いのか!!」

「だったら、サッサと剣を下ろせよ。言っとくが、コイツが殴られ続けてるのはお前の所為だからな?」

「ふざけた言い掛かりをッ……!!」

「だから動くなっての。本当にコイツを殺すぜ? それに言い掛かりでもねぇさ。お前が殺した奴は俺の相棒だった。お返しにお前の相棒を殺さねぇだけ有難いと思えよ」

「ッ……!! ならば私を嬲れば良いだろうッ!! 卑怯者めッ……!!」

「知った事かよ。降参しねぇお前が悪いんだろうが。それに、どうやらこうして居た方がお前さんには効くみてぇだしよ」

「がッ……」


 眼の前で繰り広げられる凄惨な光景に、堪らずユナリアスが怒りの声を上げるが、敵兵は剣呑な声色で言葉を返す傍ら、手慰みとばかりにテミスを殴りつけた。

 だが幾ら脅されようとも、ユナリアスが逆転の一手である振りかざした剣を手放す事はなかった。


「まぁ……いくら綺麗事を吐こうが、結局はお前さんも自分が可愛いんだろ? よくわかるぜその気持ち」

「誰が……お前などと一緒にするな!! 汚らわしい!!」

「そうして居りゃ、少なくともお前さんは痛くねぇしな? それにコイツが死ねばすぐに俺を殺す事もできる。だから、俺はコイツを生かしたまま殴ってるワケだが……」

「見下げ果てた下衆め……!!」

「何とでも言えよ。お前こそ、俺みたいな下衆と違うってんなら、コイツの為に降参してみせな」


 怒りに叫ぶユナリアスに、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて言葉を返しながら、敵兵が幾度目になるかすらわからない拳をテミスに向けて振り下ろした時だった。


「えぇその通りね。あなたのような見下げ果てた下衆は、死にたくなければ早くテミスから離れなさい」


 静かな怒りに満ちた冷たい声が響くと同時に、下卑た笑みを浮かべた敵兵の首筋に、一振りの刃がピタリと当てがわれたのだった。

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