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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1874/2316

1808話 識別救命

 休憩室。

 ユナリアスがそう呼んだ小部屋は、先程テミス達が戦闘を繰り広げた大部屋とは異なり、とても小ぢんまりとした空間だった。

 窓すらない部屋に並べられた簡素な二つのベッド。

 間には申し訳程度の衝立が置かれており、部屋の片隅に設えられた棚には、何やら雑多にものが積み上げられている。


「…………」

「さ……ノルをこっちへ。私もこちらに失礼しよう」

「わ……とと……!! ごめんなさい」

「構わないよ。あぁ、リコ君……だったね? すまないが、そこの棚に幾つか医療品の備蓄が置いてあったはずだ。見たところ、部屋を荒らされてはいないみたいだし、彼女に渡してあげて欲しい」

「っ……! は、はいっ……!」


 部屋の外から眺めるテミスの前で、ユナリアスは怪我を負った騎士を先に運び入れさせてから、退出してきた騎士達と入れ替わるようにして自身も残りのベッドの上に腰掛けた。

 それに付き添っているリコは、背負った旗を時折ぶつけてはいたものの、ユナリアスの指示に従って棚を漁り始める。


「あ……あの……えぇと……」

「ン……? あぁ……そうか」


 一方。

 怪我を負った騎士を運び込んだ蒼鱗騎士団の騎士達は、部屋の外へと踵を返してテミスの傍らに立った後、おどおどと頼りない仕草を見せながらも、弱々しい声で問いを口にした。

 そんな騎士達の様子に気が付いたテミスは、蒼鱗騎士団の騎士達が完全な指示待ちの姿勢である事を思い出して小さく声を漏らすと、静かに苦笑いを浮かべる。

 如何に彼等が頼りないとはいえ、自分達の指揮官や自身の仲間を、得体の知れない者に預けるのは不安があるのだろう。

 だからこそ、精一杯の勇気を振り絞って、次の指示を仰ぐべく声を上げたた云う訳だ。


「クク……この部屋では全員で中に籠る訳にもいかないからな。とはいえ、傷を診るには少なからず肌を露にする必要がある。戸を開け放して置く訳にもいかん」

「っ……!! そ、それは当然の事かと思いますッ!!」

「ウム。君が紳士なようで何よりだ。実に喜ばしい。故に、君たちは部屋の外で護衛を務めてくれたまえ。敵がまだうろついている可能性は十分にある」

「は……はいッ……!!」


 不敵な笑みを浮かべてそう告げると、テミスは背負った大剣を鞘ごと手に持ちながら休憩室の中へと歩み入ると、怪我を負った騎士が横たわるベッドの傍らにゴトリと立て掛ける。

 その様子を、騎士達は固唾を飲んで見守っていたが、既にテミスは視線を眼前の怪我人へと向けていて一瞥すらくれる事は無く、僅かにきしむ音を立てながら扉が閉ざされた。


「えっと……うぅんと……ありました!! はい! こちらです、どうぞッ!!」

「ん。よし。リコ、お前はそのままユナリアスの方を準備しておけ。その甲冑は治療の邪魔だ」

「わかりました! ッ……!! あぁっ……!!」

「……! フハッ……!!」

「プッ……クク……!! 狭い部屋だ。君も旗を下ろしても構わないぞ?」

「い、いえッ!! この団旗は私の誇りッ!! たとえ小休止の時でも、戦場で手放す訳にはいきませんッ!!」


 ごすり。と。

 テミスの新たな指示に元気よく返事を返したリコだったが、その勢いのあまり背負った団旗の先端が天井を突いて鈍い音を立てる。

 そのまるでコントでもしているかのような光景は、戦闘の時ほどではないにしても、張り詰めていた場の空気を和らげ、テミスとユナリアスの顔にも笑顔が浮かんだ。


「クク……まぁ、好きにしろ。では、そちらは任せた」


 微笑みを零して一拍、テミスは穏やかな声でリコに告げてから、再び気を引き締め直して、眼前に寝かされた女騎士へと視線を落とす。

 おそらくは、ユナリアスたちも介抱を試みたのだろう。

 甲冑は既に身に着けておらず、蒼鱗騎士団の制服らしき服を赤く染めた彼女の顔は、酷く苦し気に歪んでいた。


「…………」


 整った顔立ちに、この辺りでは珍しい短くまとめられた黒い髪。

 それを見たテミスの脳裏には、半ば反射的に一つの可能性が過るも、即座に隅へと追いやって、血に濡れた服を脱がす。


「っ……!!」


 直後。

 テミスの眼に映ったのは、予想を遥かに超えた大きな刀傷だった。

 背中の肩口から深々と刻まれた傷は袈裟懸けに背中を横切り、腰の手前……脇腹のあたりを抜けて斬り抜かれている。

 ある程度の止血は施されているものの、見た目の通り傷は深く、今もなお彼女が命を繋いでいる事自体が不思議なほどだった。


「…………。ユナリアス。これは……」


 これ程の傷、この場では手の施しようがない。

 即座に答えは出たものの、テミスはまるで救いのない現実を告げるか否かをたっぷりと数秒の時間をかけて逡巡した後、重々しい口調でユナリアスの名を呼んだのだった。

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