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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1804話 知らない筈のよく知る剣

 初撃を放ち終え、第二檄の構えへと移行した女騎士の姿は、テミスにとってこの世界で最も良く知っているであろう剣技のものだった。

 使い手こそ異なれど、精緻にして無駄を削ぎ落とした優美な剣。それは紛れもなく、フリーディアの扱うそれと同質のもので。

 だからこそ、テミスは次に女騎士が放たんとしている一撃の軌跡が、克明に予測できた。


「…………。クス……」


 その眼前に浮かび出た斬撃のイメージに、テミスは僅かに微笑みを浮かべて己が構えを切り替える。

 上段から斬り込んだ後に剣を斬り払い、そのまま僅かに切っ先を持ち上げた女騎士の構えは、大きく前へと踏み込んで横薙ぎの一閃を放つ連撃の構えだ。

 だが、残った敵兵を挟み込む形で斬り込んだテミス達の位置関係では、互いに大きく踏み込む類の斬撃を放てば、互いを巻き込む形になりかねない。

 このとき、テミスが放たんとしていた第二撃もまた、敵へ向かって飛び掛かりながら、上段に振り上げた大剣を斬り下ろす一撃だった。

 だからこそ、既に大剣を斬り下ろすべく起こしていた手首はそのままに、両手で握り締めていた大剣から左手を離して片手持ちへと変えると、その場で再び横薙ぎの一撃を放つべく力を溜める。

 そして、瞬きよりも短い濃密な刹那の時間が過ぎた後。


「セェッ……!!」

「ハァッ!!!」


 再び二つの気合の籠った声が重なると共に、二つの剣戟がヴェネルティ連合の兵士たちを薙いだ。

 互いに放たれたのは横薙ぎの一閃。

 女騎士の放った一撃はテミスの予測した通りの剣閃を描き、眼前で大きな隙を晒していた一人の兵の命を絶った。

 対してテミスの放った一撃は、再び三人の兵士をまとめて捉えたものの、片手では防御のために構えられた三本の剣ごと斬り払う事は叶わず、大剣を受けた剣を大きく歪めながら兵士達を吹き飛ばすに留まる。

 残る敵兵は数名。

 残敵を掃討すべく、テミスが再び両手で大剣を握り締めた時だった。


「わぁぁぁぁああああああああッッッ!!!!」


 少し間の抜けた鬨の声と共に、小さな人影が戦場に躍り出ると、大きな旗のようなものを振りかざす。

 そこにはおそらく、自分達が白翼騎士団である事を示す紋様が描かれているのだろうが、残念ながら明かりの落とされたこの薄闇の中では見通す事が叶わなかった。


「っ……!! アイツ……確かに私の指示を守ってはいるが……」


 恐らくは、精一杯の勇気を振り絞っての行動であるリコの突撃に、テミスは振り抜いた大剣を掴んだまま苦笑いを零す。

 一呼吸を置いてから自分に続け。そして、決してこちらには近付くな。

 テミスが出した指示は、一呼吸というには遅すぎるタイミングを除けば、リコは完璧に守っていた。

 だが、離れすぎずについて来いと言う意味で告げた意図までは伝わっていなかったらしく、リコは旗手としての突撃を敢行したらしい。

 その結果。

 リコはこの小さな戦場の、視線と注意を一身に引き受ける存在となってしまった。

 それは、眼前に迫る絶望に挫けかけていたヴェネルティの兵士たちにとっては、旗手という単独兵力においては最も狩りやすい獲物が現れたという、希望の光に映ったのだろう。


「――ッ!!! ゥォォォオオオオオオッッ……!!!!」

「へっ……!? ひぃぃぃッッ……!!! テ……テミス様ぁッ……!!」


 テミス達の眼前に残ったヴェネルティの兵達は、示し合わせる素振りすらなく一斉に身を翻すと、決死の雄叫びをあげてリコへ向けて駆け出した。

 それはさながら、生という希望に縋る亡者の群れようで。

 過剰な熱量と殺気を含んだ気迫を受けたリコは、遠目で見てもわかるほどにビクンと大きくその場で身を跳ねさせると、か細い悲鳴御あげながら自らが掲げた団旗に縋り付く。


「クッ……!!! 卑劣なッ!!!」


 その突撃に即応した女騎士は、吐き捨てるような叫びと共にヴェネルティ兵達に追い縋ると、最後尾を走っていた兵の背を斬り伏せた。

 だが、仲間が斬り伏せられて尚。眼前に放り込まれた希望を前に脳を焼かれた残りの兵達が足を止める事は無く、無防備に震えるリコへ目がけて殺到する。


「チッ……全く……。世話の焼ける……」


 それでも、テミスが慌てふためく事は無く、すっかりと気の抜けた深いため息を一つ吐いてから、手に握っていた大剣を鋭く投げ放った。

 テミスの手から放たれた一閃は瞬く間に空を駆けて飛び、最前を走っていた二人の兵の手がリコへ延びた瞬間、二人を串刺しにして壁へと縫い留める。

 同時に、追撃に駆け出した女騎士が、眼前に突き立った大剣に足を止めた最後の一人に追い付くと、その勢いのままに困惑したまま背後を振り返った兵を、一太刀で斬り捨てたのだった。

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