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169話 興行決戦

「やれやれ……やってくれたな、ギルティアの奴」


 数日後。ざわざわと賑わう闘技場の片隅で、テミスはため息交じりに呟くと周囲を見渡した。まるで教科書の中のコロシアムのような形をした客席には、様々な種類の魔族たちが期待に顔を輝かせながら開戦を今か今かと待ち構えている。


 ――なぜこんな事になっているのか。

 その動機は至ってシンプルなものだった。

 軍団長同士の決闘など、本来は認める筈もない。故にギルティアは賭けの内容を伏せ、一種の興行としてこの決闘を開催したのだ。


「フゥ……」


 テミスは壁に背を預けて小さく息を吐くと、客席の真ん中に設えられた貴賓席へと目を向ける。そこでは今頃、ギルティアやリョース達といった、ヴァルミンツヘイムに駐留していた軍団長連中とフリーディアが、開会宣言の準備をしている筈だ。

 尤も、人間であるフリーディアは、猛者に監視されているだけだが……。


「まぁ……どうでも良いか……」


 テミスは目を瞑って呟くと、静かに再び目を開く。そこには、見る者の背筋を凍り付かせるほどに冷たい光が宿っていた。

 ――ただ、あの鬱陶しい女を叩き潰せれば良い。

 二度と私の前に現れぬように。

 二度と己が利の為に他者を陥れようなどと思わぬように。

 徹底的に誇りを折り砕き、辛酸を舐めさせる。


 それこそが、今のテミスの至上命題だった。


「来たか」


 テミスが視線を上げると、会場が一気に盛り上がった。

 観客の見つめる先……貴賓席には、リョースとアンドレアルを伴ったギルティアが姿を現していた。


「諸君も知っての通り、第十三軍団に新たな軍団長が就任した」


 魔法で拡声されたギルティアの声が闘技場に響き渡り、ざわざわと騒がしかった場内が一気に静まり返る。


「かの軍団長は人の身でありながら、最前線の町・ファントを襲った敵軍を2度退け、更にはラズールでも武功を上げた新進気鋭の軍団長だ」


 ギルティアがそう口上を述べ終わると、会場内に再びざわめきが溢れかえった。おおかた、ギルティアの付け加えた『人の身でありながら』という所に反応しているのだろうが……。


「方やドロシーは我等魔王軍きっての魔術師。その英知において右に出る者は居ない。故に、この戦いで諸君が彼の者の力を見るには十分だろう」

「毎度の事ながら、口が上手いと言うかなんと言うか……」


 自らの紹介を聞いたテミスはそう苦笑いと共に言葉を零すと、傍らに立てかけていた大剣を手に取って肩に担いだ。ギルティアの口上が終われば、互いに闘技場の中央に進み出て、試合という名の決闘が始まる算段なのだ。


「では、両者共中へ!」


 ギルティアの呼び声と共に、テミスは壁から背を離すと、前を見据えて闘技場の中心へと歩を進める。そのちょうど逆側からは、憎しみに表情を歪めたドロシーが、テミスと同じように歩み寄って来る所だった。

 その距離は両者の歩みと共に詰まり、あと数歩と言った所で示し合わせたかのように二人はピタリと足を止めた。


「役者は揃った。両者。構えろ」


 その光景を見た観客達が一斉に歓声を上げ、それに負けないように音量を上げたギルティアの声が響き渡る。


「…………」

「っ……」


 だが既に、観客達の騒がしい歓声はテミス達の耳には届いていなかった。

 二人が待っているのは、ギルティアの開始の宣言のみ。ただその瞬間だけを……憎き仇敵に己が牙を突き立てられる瞬間だけを、彼女達は静かに待ち続けていた。


「っ……」


 ジャリィッ……と。テミスは足元に敷かれた土を踏みしめて、前方に立つドロシーを睨み付ける。

 恐らく、初動の一撃こそがこの戦いの鍵だ。強力な魔法を操るドロシーにとって、剣の間合いであるこのたった数歩の距離は不利。発動の早い魔法で牽制し、一気に距離を開けるだろう。そこにいかに食らいつくか……分水嶺はそこにある。そうテミスは確信していた。


「ククク……互いに士気は十分。準備も万端と言った所のようだな」


 ギルティアは楽し気な笑い声を漏らすと、囁くように口を開いた。それはあくまでも魔王としての言葉だったが、テミス達には明らかに自分達に向けられた言葉だと理解できた。


「ならばこれ以上重ねる言葉もあるまい」


 一瞬の間を置き、ギルティアが言葉を切って大きく息を吸い込んだ。


「第十三軍団軍団長テミス対第二軍団軍団長ドロシー。仕合……開始ッ!!」


「セアァッッ!!!」


 ギルティアの号令が響いた瞬間。テミスは脚に溜めていた力を一気に爆発させ、前方に佇むドロシーへと一気に突撃したのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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