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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1782話 叫び無き葛藤

 もたらされた凶報に対して、ノラシアスが見せた手腕は秀逸なものだった。

 この地に到着したばかりのフリーディア達白翼騎士団を除く部隊を迅速に展開し、フォローダの町は瞬く間に防衛体制へと移行する。

 警鐘の音と共に軍港から発進した船は水平線を望むフォローダ近郊に防衛陣を組んで停泊し、侵略者を迎え撃つべく万全の備えに徹している。

 文句の付け所が無い完璧な指示。陸上、海上共に展開された防衛部隊には、テミスですら文句の付け所がない程だった。

 だがそれらは全て、前線の砦であるパラティウム砦て戦っている、今は彼の娘であるユナリアスが率いる部隊の敗北を前提としていて。

 当然。フリーディアが朋友であるユナリアスを見棄てる策など許容するはずも無く、部隊展開完了の報を受けた直後、堪えかねたかの如く声を上げた。


「おじ様ッ……!!!」

「……君が何を言いたいかは理解しているつもりです。よくぞ今まで我慢してくれたとも思います」

「だったらッ――」

「――しかし。私はロンヴァルディア王家よりこのフォローダの町を預かる公爵。戦局という現実は正しく見据え、最善手を打つ義務があります。私情で民を危険に晒すなど以ての外です」

「っ……!!!」


 しかし、血を吐くような言葉と共に、机の上で固く握り締められたノラシアスの拳に気が付いたフリーディアは、それ以上言葉を紡ぐ事が出来ずに口を噤んだ。

 本心では、ノラシアスも今すぐに全軍を率いて出撃し、窮地にある娘を救う為、パラディウム砦へと救援へ向かいたいのだろう。

 だがノラシアスは見事、己が心を御し切って公爵としての責務を果たしてみせたのだ。


「報告によれば、敵は最新鋭の魔導戦艦を多数含んだ艦隊で総数は不明。戻ってきた兵に持たされていたのも救援要請ではなく、敵の詳細を報せるものだった。ユナリアスとて公爵家の娘。私は……私はッ……!! ユナリアスの……矜持をッ……!!」


 実の娘を切り捨てるという判断。

 それはたとえ公爵としては正しい選択であったとしても、父親であるノラシアスには耐えがたいものらしく。

 ノラシアスはまるで自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐと、ぶるぶると渾身の力が籠った全身を震わせた。


「ノラシアスおじ様……」

「…………」


 父親としての衝動と、公爵としての責務の間で苦しむノラシアスに、フリーディアは痛まし気な視線を向けて悲し気に呟きを漏らす。

 その苦悩は、傍観者であるテミスには到底計り知れない葛藤で。フリーディアへの接し方から察するに、ノラシアスが娘であるユナリアスを大切に思っているであろう事は明白だった。

 しかしその想いを捩じ伏せて、貴族としての責務を果たさんとするノラシアスに、テミスは密かに感心を覚えていた。

 それもその筈。これまでテミスが出会ってきたロンヴァルディアの貴族連中は、誰もが責務など二の次で、自身の地位や贅沢な暮らしを守る事に腐心するばかりの愚か者ばかりだった。

 そんな彼等に比べて、このノラシアスの気高さのなんと立派な事か。

 そう胸の内で呟いた後、静かに微笑んだテミスは一歩前へと進み出ると、静かな声でノラシアスに問いかける。


「それで……ノラシアス公爵。我々はどちらへ展開すればよろしいのでしょうか?」

「ッ……! ちょっと! テ――リヴィア!! 貴女少しは空気を読みなさいよ!!」

「……構いません。お心遣いありがとうございます、フリーディア様。なにぶん、白翼騎士団は到着したばかり。事ここに至っては本隊との連携を見直すことは難しい。よって、遊撃部隊として本土防衛の任に当たって貰おうかと考えている」


 瞬間。

 傍らのフリーディアが目尻を吊り上げて怒りの声を上げるが、ノラシアスは穏やかにそれを制すると、感情を押し殺した声で答えを返した。

 その答えは、極めて合理的なもので。

 戦略として現状を鑑みた場合、白翼騎士団の運用としては最も適切な任務だった。

 だが……。


「公爵殿。意見具申をさせていただいても?」

「聞かせて戴こう」


 ノラシアスの前に進み出たテミスが、不敵な笑みを浮かべながら問いを重ねると、一瞬の逡巡すら見せる事無く返答が返ってくる。

 だがその声には、つい先ほど聞いた感情を押し殺した平坦な声ではなく、何処か希望に縋るような、僅かな震えがまろび出ていた。


「ハッ……! 先に申し添えをさせていただきますが、白翼騎士団を遊撃に回しての徹底した防衛戦。先ほど公爵様が立案された案は、私も最善手であると愚考します」

「何処か引っ掛かる言い回しだが……続け給え」

「ご温情賜わり感謝の極み。言葉を飾らずに言うなれば、現状の我々白翼騎士団は遊撃とは名ばかりの遊兵に過ぎません。ならばいっその事、元から戦力として数えずに、弾き出してみるのも一興では?」


 トン……。と。

 朗々と己の意見を語りながら、テミスはノラシアスの机の上に広げられていた簡易的な戦略図の上に記された、離島を指差したのだった。

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