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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1773話 水上の理

 数分後。

 ロロンと名乗った漁師らしき青年は、テミスを船の上へと招き入れると、得意気な笑顔を浮かべながら案内を始めた。

 その説明を聞く限り、この船は新しい型でこそないものの、未だ一線級で活躍する船であり、動力も風の魔石を利用した燃費の良い航法と、魔石の属性こそ問わないものの消費が激しく、しかし速力は桁違いに早い回転翼を用いた航法の二つを持っているらしい。


「……なるほど。船とはそのような仕組みで動いているのか」


 船上に設えられた操舵輪に手をかけながら語り終えたロロンに、テミスは内心での驚愕を押し殺しながら息を漏らした。

 正直な感想を述べるのならば、この世界の技術がここまで進歩している事には心の底から本当に驚いた。

 魔法という未知の技術がある以上、それを用いたトンデモ技術が飛び出してくる可能性は大いにあったものの、テミス個人の予測としては、せいぜいこの船にも搭載されている帆を用いた技術が関の山だと考えていたのだ。


「フゥム……。用途に違いがあるとはいえ、二つの動力とは考えたものだ。仮にどちらか片方を潰したとしても、操舵を奪う事はできない訳だ」

「おッ! アンタ、頭が切れるねぇ。やっぱ、他のボンクラ共とは違ったか!! まぁとはいえ、コイツの場合そんな物騒な事への備えじゃなくて、単純に風が強すぎて帆を張れなくても動けるように積んであるだけだけどな」

「いや、勉強になる。戦場では知識の差が明暗を分ける時もある。火矢でも射かけてやれば良いんじゃないかと思っていたが、どうやらそうもいかんらしい」


 テミスは頭の中で如何にして船を攻め落とすかを思考しながら改めて船を見渡すと、案内を買って出てくれたロロンに礼を告げる。

 尤も、火矢を射かけるというのは極めて婉曲な比喩表現だが、コルカ達に敵船の帆を目がけて炎弾でも打たせてやらば良いなどという単純な思考は、どうやら捨て去った方が良いようだ。


「へっ……! ソレがわかる時点でタダ者じゃぁねえよ。隠しているみてぇだから深く訊きはしねぇけど、アンタ騎士様でも仕切ってる側だろ。酒場に溜まってる騎士を名乗っているだけのクズ共とは大違い……比べる事すら失礼に思えるくらいだ」

「ははっ……止してくれ。私はただ知りたがりなだけだよ。フリ……団長殿がいたく勤勉なものでね」

「フゥン……勤勉な団長にその白い制服。っ……! 待ってくれ。アンタもしかして、あの白翼騎士団の騎士様か?」


 他愛のない会話を交わしている間に、ロロンはふと何かに気が付いたかのようにピタリと動きを止めると、驚愕に目を見開きながら裏返った声で問いかけた。

 その反応は、テミスにとってどうしようもなく新鮮なもので。

 魔族領やファントでも、フリーディア達白翼騎士団は名が通ってはいるものの、人間領ほど英雄視はされていない。

 かたや人間領(こちら)側では、白翼騎士団の名を出せば知らない者は居らず、感涙にむせび泣く者や平伏する者まで現れる始末だった。

 ともすれば、このロロンも……? と。テミスは引き攣った笑みを浮かべながら、危機感を覚えながらも答えを返すために口を開いた。


「まぁ、一応な。あ~……戦争だなんだと不安だろうが、安心してくれ。町の皆の事は我々が必ず守ってみせるさ」

「…………」


 とんだ茶番だ。

 テミスは辟易としながらも努めて笑顔を浮かべ、歯の浮くような台詞を添える。

 人間の希望たる騎士団ともなれば、こういったファンサービスの技術も必須らしく、あのフリーディアはもとよりの事、団員たちもそつなくこなす姿を見た時には舌を巻いたものだ。

 だが、テミスの危惧はどうやら杞憂だったようで。

 ロロンは驚いた表情は浮かべたものの、今や苦虫を噛み潰したかのような渋い顔になっていた。


「……アンタ達はロンヴァルディアの英雄で希望だ。俺なんかが口出しできることじゃねぇだろうが、(おか)での守りに徹して、湖には出ない方が良い」

「フム……? 理由を聞いても?」

「船の上ってのはそれだけで戦場なんだ。(おか)の上と違って、床に穴の一つでも空いちまえば、下手すりゃ船ごと沈んじまう。船で戦うってなりゃもっと厳しいに決まってらぁ。たとえ陸の英雄様たちでも、とても素人が役に立てるとは思えねぇ」

「その忠告、よく覚えておこう」


 これまで浮かべていた快活な笑顔を捨て去るとロロンは、至極真面目な表情でテミスの目を見据えて告げる。

 そこには、船の上で生きる者の誇りが気高く輝いていて。

 テミスはクスリと静かな笑みを口元に浮かべて言葉を返した。


「あ~……なんつーか、生意気言って悪かったな。でもどうか気を悪くしないでくれ。陸の上と勝手が違うのは本当だからよ。詫びと言っちゃ何だが、俺にできる事なら何でもするからさ」

「クク……気にするな。寧ろ感謝しているとも。だが……そうだな、ならばここは一つ、陸の英雄の名に恥じぬように掃除でもしておくか。ロロン、すまないがこの後酒場に案内してくれないか?」

「っ……!! アンタ……良い性格してるぜ。わかったよ。任せな。俺もこの後、顔出すつもりだったんだ。掃除だけやっちまうからちぃっと待っててくれ」


 そんなテミスの返事に、ロロンは酷く申し訳そうな表情を浮かべながらボソボソと言葉を紡ぐ。

 だが、テミスは喉を鳴らして不敵に笑ってみせると、皮肉を混ぜた言い回しで問いかけてみせる。

 すると、ロロンは乾いた笑みを浮かべた後、力強い言葉を返して仕事へと戻っていったのだった。

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