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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1772話 静かなる港

 ノラシアスの話によれば、フリーディアの同輩であるユナリアスは今、旗下の精鋭兵と共に最前線の砦である離宮島へと赴いているらしい。

 何でも、各種物資や兵の増員、そして防備の増強などを指揮する為らしく、離宮島は今や多くの軍艦が停泊する要塞と化しているという。

 つまり、白翼騎士団は出撃する事になるにしても、防衛の任に当たる事になるとしても、ひとまずは軍務を指揮しているユナリアスの帰還を待つ運びとなり、白翼騎士団の面々とテミス達は、ノラシアスによってねぐらを用意され、当面の間はこのフォローダの町に留まる事となった。

 尤も、白翼騎士団を率いるフリーディアと、黒銀騎団の旗下を指揮するテミスの滞在場所はフォローダ公爵邸に用意されてしまい、いくら弁舌を尽くそうとも逃れ得なかったテミスは、既に辟易としながらも一人フォローダの町へと繰り出していた。


「やれやれ……フリーディアの奴……。縁も所縁も無い貴族の邸宅で、突然寝泊まりをしろと言われた私の身にもなって欲しいものだ」


 ブツブツと悪態を紡ぎながら、テミスはひとまず当てもなくひとしきり街を歩き回ると、見渡す限りの水平線が広がる港まで辿り着いた。

 フリーディアにとっては、幾度となく足を運んだことのある友人の家であっても、私にとってはただ堅苦しく窮屈で、気の抜けない牢獄に等しい。


「いっそのこと、そこいらのあばら家の方がましだな」


 この港はどうやら漁師たちの船が停泊する港らしく、テミスは道の傍らで倉庫代わりに使われている小さな小屋へ視線を向けると、皮肉気に呟きを漏らした。

 この手のあばら家ならば幾分か環境は悪いだろうが、少なくとも自分の周囲に近付く使用人たちの挙動に気を配る必要も、自分の所作に隅々まで意識を巡らせる必要も無く、気分が休まるには違いない。

 尤も、時間帯の所為か、はたまた町が戦支度に追われている所為か、この港に大した活気はなく、係留されている漁船がギィ……ギィ……と波に揺られて軋みをあげている。


「手漕ぎ船……という訳ではないようだが……フゥム……」


 ふと、テミスは機械技術に乏しいこの世界で、見上げるほどに大きな眼前の船が如何にして動いているかと思い付くと、目の前に浮かぶ一隻の側まで近寄って事細かに観察した。

 しかし、どうやら動力が船舶黎明期で多用されていた奴隷を用いた船のような人力ではない事らしいことしか解らずじまいで、結局この世界の船舶技術のレベルを知るには至らなかった。


「帆が付いている所を見ると、風を用いる技術はあるようだが……」


 それでも尚、僅かでも情報を得るべく船を見上げたテミスの視界の中心では、高々と蒼空を衝いたメインマストが船の傾ぎに従って揺れており、帆こそ畳まれてはいるもののこの船が帆船である事は見て取れた。

 だが、ただの帆船にしてはメインマストは途方もなく太く、なにやらゴテゴテと一目見ただけではテミスには理解の及ばない道具が据え付けられている。

 ともあれ、帆船に似た何かが主な船舶技術なのだろう。

 そう理解したテミスが、再び町を見て回るべく身を翻した時だった。


「おんや? その装い、アンタ騎士様じゃねぇのか? 騎士様がこんな所に顔を出すなんて珍しい。何の用だ?」


 テミスが眺めていた船の方から男の声が響いたかと思うと、真っ黒に日焼けをした短髪の男が一人、甲板から身を乗り出してテミスを見下ろしていた。

 彼の言葉遣いは粗雑ながら、最低限の敬意だけは込められていたものの、声色には警戒の色の方が強く表れており、テミスは自身が歓迎されていない事を胸の内で理解する。


「仕事の邪魔をしてしまったのならばすまない。少しばかり船という物を見ておきたかったんだ」

「あん? 別に今は大した仕事なんてねぇから構わねぇけど……。というかアンタ、もしかして船を見るの初めてなのか?」

「ム……あぁ。このような形の大きなものは初めて見る。こうして並んでいる光景は何と言うか……壮観だな」


 声を張り上げて言葉を返したテミスに、男は遠目でもわかるほどに首を傾げてみせると、僅かに警戒の緩んだ声で問いを重ねた。

 その問いに対して、テミスはどう答えるべきか僅かに悩んだものの、極力嘘にならないように言葉を選んで答えを返す。

 漁師を生業としているらしきこの男がどのような人柄かはわからないが、とりあえずの答えとしては当たり障りのない無難なものだろう。

 前触れなく予想外に訪れた住人との交流に、テミスは胸中でそう自己評価を下したのだが……。


「ってぇこたぁ向こう側から来た騎士様か! 確かに、その小難しい言い回しは向こう側の騎士様っぽいが……。よし! ちぃっとそこで待ってなよ!!」

「あっ……! おい……!?」


 漁師らしき男は、テミスの返した答えに何やら一人で納得すると、静かな港に響く良い音で手を打ち鳴らす。

 そして、テミスが呼び止める暇もなく、大きな声を残して船の上へと姿を消したのだった。

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