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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1763話 未知の地と悪魔の笑み

 何も知らぬまま、ある日突然攻め込まれるくらいならば、たとえ他国の面倒事であったとしても、首を突っ込んでおいた方が良い。

 そう判断したテミスは、マグヌスと共に作戦卓の上を片付けると、大きな一枚の羊皮紙を取り出して、フリーディアに説明を促した。

 最もロンヴァルディアに近く、近頃では交流が盛んになったとはいえ、人間領に済む者達から見ればファントはあくまでも魔王領の一部だ。

 それ故に、このファントにロンヴァルディア以東の地図は存在せず、テミス達にはヴェネルティ連合国の規模も、彼等が擁する湖の大きさすらも解らなかった。


「……コホン。まず、ヴェネルティ連合国はその名が示す通り、ヴェネトレア、ネルード、ティロティアルという三つの国からなる連合国よ」

「安直だな。それぞれの国の名から取ったという訳か。だが、わかり易くて良い」

「元を正せば、彼等はロンヴァルディアの一員だったと私は習ったわ。長く続く魔族との戦いに異を唱えた一派が、所領を領土として独立したのだと。当時は色々と大変だったそうよ? けれど、魔族に対する協力を惜しまないという条件の元で独立は認められたの」

「あ~……すまない。ロンヴァルディアの歴史の授業はどうでもいい。もっと国家規模や保有する軍の練度や装備のような具体的な情報をくれ」


 しかし、ゆっくりとした口調で懇切丁寧に語り始めたフリーディアの説明は、テミスにとってまるで退屈な授業を聞いているかのような時間で。

 この戦いを終えれば、今後関わる事など無いであろう国にテミスは興味など欠片ほども無く、すぐに音を上げてフリーディアの『授業』を遮った。


「ハァ……話をする順序を間違えたかしら。まぁ良いわ。じゃあ次は地形についてね。国家規模は兎も角、彼等の擁する部隊の話とは深い関わりがあるから」

「歴史の次は地理か。あ~……何でもない、続けてくれ」

「……? わかったわ。ロンヴァルディアとヴェネルティ連合国の間には、さっき少し話をした大きな湖があるの。湖とはいっても、海みたいに広いんだけれど……」

「チッ……そうなると海戦か……」

「それはそうなのだけれど、いったん置いておいて……。っと……確か……こんな感じだったかしら? 湖にはいくつか島があって、ちょうど真ん中あたりに大きな島があるわ」


 うめき声をあげたテミスに首を傾げたものの、フリーディアはすぐに説明を再開すると、机の上に広げられた羊皮紙に簡単な地図を描いてみせる。

 そこには、湖を挟んでロンヴァルディアと相対するかの如く並んだ三国と、フリーディアの手書きのため縮尺は当てにならないものの、それなりに大きな面積を持つ島が湖の中心に鎮座していた。


「そう。湖はこの水産資源も多く獲れるから、当然三国ともこの島を自分の領地だと言い張って譲らなかったのだけれど、ロンヴァルディアは独立を求める条件の中で三国に対してこの島の領有を認めさせたの」

「ッ……」

「テミス。そんなに嫌そうな顔しないで欲しいわ。これもきちんと関係あるんだから。それでね、この島には元々ロンヴァルディアの王家が使っていた離宮があって、今はその使えなくなった離宮を利用した様々な拠点と、漁師たちの村があると聞くわ」

「まぁ……仮にも隣国との境界で王族が静養する訳にもいくまいな」


 再び歴史へと傾きかけたフリーディアの話にテミスは顔を顰めたが、続けられた説明にクスリと昏い笑みを漏らしてボソリと呟いた。

 現在の話を聞く限りでは、ヴェネルティ連合とロンヴァルディアが元は一つの国であり、かつヴァネルティを構成する国々は、魔族との戦いを嫌って独立したなど到底信じがたい内容だ。

 だが、独立からどれ程の時が過ぎたのかは知らないが、湖の中心に存在する島に元離宮が在る事を鑑みれば、その歴史もそれなりに信ぴょう性を帯びてくる。


「でも、ヴェネルティ連合それぞれの国はあまり大きな国では無いの。だからこそ、ロンヴァルディアからの独立が認められたのとほぼ同時期に、連合として手を組んだのでしょうね。けれど……だからこそかしら。三国にはそれぞれに特色はあれど、序列の優劣は定められていない合議制を採っているわ」

「……なるほど。お前が奴等の動きの鈍重さに驚かなかったのはその所為か」

「えぇ。けれど宣戦布告をしてきたという事は、三国の意思がまとまったという事よ。私達も連合側に幾らかの兵は駐留しているはずだけれど……」

「当然……主力はこちら(魔王領)側。加えて援助を受けていたのだ、ロンヴァルディア側の戦力は心許無い訳か」

「そうならざるを得なかった……のだと思うわ」


 皮肉気な微笑みを浮かべたテミスがそう漏らすと、フリーディアは作戦卓の上に描かれた地図から視線を逸らしながら肯定した。

 ロンヴァルディアからしてみれば、事実上の二面作戦。加えて本隊は、以前のファント侵攻の際に壊滅的な打撃を受けたばかり。

 そのような状態では戦力に余裕があるはずも無く、フリーディア達に命が下るのも自明の理だ。


「さて、それで……? お前はどうしたいと考えているんだ?」

「ッ……!! いずれ帰還命令が下るのなら、早めにロンヴァルディアに戻って準備をしたいと思っているわ」

「フム……妥当だな? それで?」

「ッ……!!!」


 そんなフリーディアに、テミスはニンマリと意地の悪い笑みを浮かべると、心底愉しそうに問いを繰り返したのだった。

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