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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第28章

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1825/2316

1759話 盛況の中の違和感

 書類仕事や各種準備に追われること数週。

 テミス達の手によってファント近郊の数か所に作られた簡易宿泊所は、大盛況を博していた。

 この世界では、野営とは長旅の際に仕方なく行うものだというのが常識であるが故に、当初は金を支払ってまで野外で寝泊まりをするという行いに、少なくない反発や受け入れ難さからの忌避が予測されたものの、この世界における珍品が並ぶファントの町という特製もあってか、テミスたちの心配は杞憂に終わった。

 むしろ、予測を超えての繁盛っぷりに人の手が足らず、各所に応援を要請する有様だった。


「フム……あまりの盛況ぶりに様子を見に来ては見たものの、やはり目の当たりにすると迫力が違うな……」


 フリーディアを連れたテミスは眼前に広がるテント村の様子に感想を漏らすと、目を細めてゆっくりと周囲に視線を走らせる。

 適度に切り拓かれ、地面を均した森の中には、所々に宿泊場所を示す札や杭が設えられており、昼中であるにも関わらず少なくない数の宿泊客たちが思い思いの時間を過ごしていた。


「やっぱり、主張店舗の効果かしら? 常設の販売店の売り上げも好調みたいだし、これならこのまま警備や一部の運営をギルドに委託していても、十分に利益が出るわね」

「いや……それはあくまでも人員が揃うまでの繋ぎだ。警備の面はギルドに依頼する形でも構わんだろうが、受付業務や各種施設の維持管理については一本化すべきだろう」

「そうかしら? むしろランクの低い冒険者たちの良い稼ぎになると思うのだけれど?」

「ハァ……あのなぁ……。慈善事業じゃないんだぞ? お前も知っての通り、我々の資金も無限にある訳ではない」

「あら。そうでも無いわ。町の益は私たちの益でもあるのだもの。そういう意味では、慈善事業のようなものよ」

「…………」


 立ち並ぶテントの間を歩きながら、テミスは肩を並べるフリーディアと言葉を交わす。

 しかし、相変わらずその意見が合致する事は無く、呆れたようにため息を吐いたテミスは、遠くでせっせと働く簡素な装備を身に着けた低級の冒険者らしき若者をチラリと眺めると、一度閉ざした口を重々しく開いた。


「正直、冒険者にとってこの手の糊口を凌ぐためだけの依頼は毒でしかない」

「冒険者にとって……か……。言い方に思う所はあるけれど、ひとまず聞かせてくれる?」

「考えても見ろ。同じ低級の依頼でも、薬草摘みや雑魚狩りならばまだ経験になるだろう。だが翻ってこの仕事はどうだ? 各種掃除に受付業務など……雑用ばかりだ」

「……なるほど。でも、日々の暮らしに困って悪さを働くようになるよりは良いんじゃないの?」

「なればこそ。余計にギルドを介すべきではない。こんな雑用依頼でも依頼は依頼だ。一度一度の貢献度は低くとも、数を重ねればランクは上がる。だが、雑用ばかりしてランクを上げた所で、ゴブリン種やらウルフ種やらに捻り殺されるのがオチだ」

「っ……!」


 溜息を洩らしながら肩を竦めて告げるテミスに、フリーディアは漸く意図を理解したらしく、ピクリと肩を跳ねさせる。

 戦闘経験や採取の経験が浅い冒険者が増えれば、その分市場に出回る品々の質は低下し、()を得た魔獣どもが数を増やす。

 結果として周辺環境は悪化し、このような壁外の簡易宿泊所は畳まざるを得なくなり、町自体への人の出入りも減少してしまうだろう。


「…………それにしても、少しばかり妙だな」


 フリーディアが唇を噛み締めた事によって訪れた沈黙が、しばらくの間続いた後。

 多くの出張店舗に集まる人々で賑わう区画まで辿り着いたテミスは、話題を切り替えるかのように静かに口を開いた。


「今度は何? この際よ、私が気付いていない問題点があるのなら教えて頂戴」

「いや……問題という訳ではないのだが……。フゥム……」


 その言葉に、フリーディアは何処か拗ねたような口調で問いかけるが、テミスは眼前の人混みに視線を向けたまま、低く唸るように喉を鳴らす。

 この簡易宿泊施設の賑わいは、いわばオープンラッシュのような一種のお祭り騒ぎだろう。

 事実。ファントの住人の中からも、試しに一泊してみたという声は聞こえてくるし、この賑わいに物珍しさが一役を買っているのは間違い無い。

 けれど……。自身の内に広がる違和感に首を傾げたテミスは、胸の内に沸いた疑問をそのままボソリと口走る。


「ギルドに依頼を出しているとはいえ、この時間帯ならば冒険者連中は依頼に出ているはず……。ならば連中は商人……? いや……それにしては……。ッ……!」

「ッ……! まさか……」


 ピクリ。と。

 一つの答えに辿り着いたテミスの眉が小さく跳ねた時だった。

 隣でテミスの呟きを聞いていたフリーディアも同じ結論へと至ったのか、二人は鋭さを増した目つきで眼前の群衆を見つめる。

 そこに居る人々は、確かに装いこそ普通ではあるものの、何処かくたびれたような印象を受ける者達ばかりで。


「フリーディア。我々では目立ち過ぎる。仮に流民だとしても、出所まで探らねば意味が無い」

「えぇ。解っているわ。早急に調べるように手配する」


 テミス達はそのまま素早く身を翻すと、より一層声を潜めて言葉を交わしながら、群衆に背を向けて歩きはじめた。

 そんなテミス達の胸中を表すかの如く、吹き渡った一陣の風がざわざわと森の木を揺らしていたのだった。

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