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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1745話 無尽の剣戟

 フリーディアと亮の剣戟は、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 互いに己が身まで剣が届くほどの距離にまで肉薄したフリーディアの手が、常人の目では捉える事すらできない程の速度で剣を振るう。

 しかし、超速を以て放たれた幾重の剣撃も、剣同士がぶつかり合うけたたましい金属音が響くのみで。

 亮は表情一つ変える事無く、フリーディアの放った全ての斬撃を打ち払っていた。

 そして返す太刀にて放たれた斬撃は、正確にフリーディアの急所を狙っており、二度、三度と受け止めることはできたものの、じりじりと距離を離されたフリーディアは、体勢を立て直すべく大きく跳び退がる。

 だが、それを易々と許す亮ではなく。すかさずに亮は、退いたフリーディアを目がけて前へと踏み込んだ。

 その行く手を阻むように、鬼気迫るテミスの声で紡がれた呪文と共に、地面からせり出た岩の槍が亮へと突き立てられ、斬り払う格好で岩の槍を受けた亮が足を止めると、距離を取ったフリーディアと亮が再び睨み合う。

 そんな攻防が幾度か繰り返され、息を荒げ始めたフリーディアと亮を見据えながら、テミスは地面に付き立てた大剣の柄を固く握り締め、今にも傾ぎそうになる身体を支えていた。


「ッ……!!」


 強いとは理解していたが、まさかこれ程とはッ……!!

 ぎしりと歯を食いしばったテミスは、胸の奥からせり上がってきた血が、ごぼりと微かな音を立てて唇の端から零れるのにも構わず、胸の内で歯噛みをした。

 身体強化を施した今のフリーディアならば、力で亮に劣る事は無い筈だ。

 そんなフリーディアを以てして尚、攻め切れないという事は、それ程までに亮の強さが常軌を逸している証だろう。


「ハッ……ハッ……ハッ……!!」

「フゥ……フゥッ……!」


 背後でテミスが思案する傍ら。フリーディアは荒い呼吸を繰り返しながら、闘志に満ちた瞳で亮を睨み付けていた。

 何度も打ち合った事で、一つ分かった事がある。

 彼の構えには守りと攻めの二種類の流れが存在し、守勢に回って居る時の守りは途方もなく固く、いくら攻めようとも全て守り切られてしまう。

 対して攻めの構えであれば、そこから放たれる強烈な攻撃を凌ぐ事さえできれば、一撃を返す事が出来るかもしれない。

 けれど、今の彼は慎重そのもの。

 僅かな隙を見せただけでは決して自ら攻める事をせず、守りに徹している。

 尤も、こちらはテミスとの二人がかりなのだ、戦術的に正解であることは間違い無く、事実としてテミスの援護が無ければ、一度覆された勢いを断つ事すらままならない。


「ねぇ……テミス……」

「皆まで言うな。……解っている」


 このまま消耗戦を続けたとしても、先に体力が尽きるのは自分達の方だ。

 そう判断したフリーディアが、亮から視線を外す事無くテミスの名を呼ぶと、背後からすぐに苦し気な声で返事が返ってくる。

 いくら攻めて来ないとはいえ、背後を振り返って確認する訳にはいかないけれど、声から察するにテミスの方の消耗もかなり激しそうだ。

 それも無理はない。なにせ、支援魔法を使いながら、私の援護で既に何度も攻撃魔法まで打っている。本来なら、既に魔力が枯渇して倒れていても不思議ではない。


「一つ……試してみたい事があるの」

「コホッ……。無茶と無謀は違うぞ?」

「解っているわ。けれど、このままじゃ競り負けるのは確実よ。仕掛けるなら今しか無いわ」

「チッ……。で、私は何をすればいい?」


 覚悟を決めたフリーディアは、背後のテミスを振り返らぬままに静かに問いかける。

 それに返事を返した瞬間。テミスは堪え切れずに咳と共に血の塊を吐き出したものの、血に濡れた唇を拭いながら、不敵な微笑みを張り付け問いを返した。

 現状がじり貧なのは、テミスとて理解している。

 加えて、自身の負った傷も浅くはなく、戦闘が長引けば長引くほど不利が積もっていくのは明白だった。

 故に、テミスはフリーディアの提案を素直に受け入れると、舌打ちと共にその背へ向けて問いかけた。


「少しで良いわ。彼の防御を崩せないかしら? 万全の状態で私が先制できる隙が欲しいの」

「ハッ……随分と無茶な注文を……」

「流石の貴女でも厳しいかしら? なら――」

「――できないなどとは言っていないだろう。やって……やるさ」

「ふふっ……それでこそテミスだわ。任せるわよ」


 するとフリーディアから返ってきたのは、軽口こそ添えられてはいたものの、途方もない信頼の籠った注文だった。

 失敗すればこちらの敗北は確定的なものになる。

 だが、前衛を務めるフリーディアが打って出ると決めた以上、援護に徹すると決めたテミスがそれに従わない道理はない。


「……いくぞ。それなりの大技を使う。何をする気かは知らんが、撤退の援護は期待するなよ」

「了解。……合わせるわ」


 だからこそ、テミスは小さく息を吐いてフリーディアの背にそう告げると、自身の内で魔力を練り上げ始める。

 そんなテミスに、フリーディアはクスリと微笑みを浮かべ、身を低く落として構えなおしながら、短く言葉を返したのだった。

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