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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1743話 力、重ねて

 亮の放った一撃の元、大きく吹き飛ばされたテミスとフリーディアは折り重なるようにして石畳の上に倒れ伏す。

 だが、亮がそこへ追撃を加える事は無く、再び軍刀を構え直して、揺れない瞳でテミスただテミスたちを見据えていた。


「っ……ぅ……」

「テミス……」

「……何だ?」

「重いんですけれど?」

「騒ぐな緩衝材(クッション)。私は腹が痛い」

「なッ……!! 誰がクッションですか!!」


 フリーディアを背に、半ば寝転がるように倒れたテミスと、己が体でテミスを受け止めた形となったフリーディアは、その体勢のまま動くことなく口論を始める。

 それは誰がどう見ても場違い甚だしく、とても戦闘中に交わすような会話では無かった。

 しかし、そんなテミス達を前にして尚、亮は微動だにせず、ただ静かに二人へ視線を向け続けていた。


「フム……誘いには乗って来ないか。やれやれ。一矢報いてやろうと思ったのだがな。そら、さっさと起きろフリーディア」

「だったら。まずは貴女がそこを退いてくれないかしら?」

「やれやれ全く……注文の多い奴め……ゴフッ……。…………」

「……わざわざ胸に手を置かなくても良いでしょう。全くはこっちの台詞よ。いちいち子供なんだから」

「…………」


 飄々とした言葉を背後の投げかけながらも、己に身を預けたまま微動だにしないテミスに、フリーディアは湧き上がってくる怒りに声を震わせながら、低い声で言葉を返した。

 すると以外にも、僅かな憎まれ口を叩いた程度でテミスはフリーディアの言葉に従い、緩慢な動きで立ち上がる。

 だが同時に、小さく咳き込んだテミスが血を吐いた声は、続いていつも通り皮肉を返しながら立ち上がったフリーディア自身の声にかき消され、その耳に届く事は無かった。

 またテミス自身も、口元に伝った血を即座に拭い、フリーディアの憎まれ口に応ずることなく皮肉気に口角を吊り上げる。


「さて……どうしたものか……」

「そうね。正直、困ったわ。想像以上の手練れだわ」

「……だが、やるしかない。そうだろう?」

「それは……そうだけれど……」


 肩を並べて構えを取ったフリーディアと会話を交えながら、テミスは密かに未だにジクジクと痛みを発する脇腹へと掌を添えた。

 これは間違いなく……骨の一、二本は逝ったな。ついでにこの喉の奥からせり上がってくる焼けつくような鉄の香り。下手をすれば折れた肋骨が肺に刺さってる可能性もある。

 フリーディアがやられてしまえば即座に勝ちの目が無くなってはいたとはいえ、先ほどの強烈な一撃を貰ってしまったのは途方もない痛手だ。

 どう足掻いた所で痛みの所為で動きが鈍る以上、最早私の剣が亮に届く事は無いだろう。

 ならば、取り得る手段などそう多くはない訳で。


「……フリーディア。お前が前に出ろ。私は援護に徹する」

「ッ……!? 随分弱気じゃない。らしくないわよ? たった一度切り結んだだけで諦めるの?」

「私一人ならば、意地でも刺し違えてみせるがな。勝つためだ。使えるものはなんだって使うさ」

「そ……。……了解よ」


 構えていた大剣を傍らに突き立て、淡々と紡がれるテミスの言葉に、フリーディアは僅かに違和感を覚えて眉を顰めたものの、続けられたテミスの主張にそれを呑み込むと、剣を構えたまま数歩前へと歩み出る。

 瞬間。

 フリーディアの死角に入ったテミスの身体がグラリと傾ぐが、即座に閃いた右手が地面に突き立てられた大剣の柄を掴んで体制を立て直す。


「少し……無茶をする。お前も覚悟しろフリーディア」

「……そうやって確認されると怖いわね」

「確認ではない。報告だ。後から聞いていないと文句を言われても困るんでな。あぁ……相手が相手だ。違和感には数手で慣れろ」

「っ……」


 テミスは大きく息を吸い込むと、前に立つフリーディアの背に告げ、自身の血で汚れた掌を翳す。

 そして、僅かにフリーディアの肩に力が籠るのを眺めながら、テミスは意識を集中してイメージを練り上げ、記憶の中に在る呪文を紡いでいく。

 そうだ。あれは確か、剣士と共に旅をする魔術師が、自身も前に出て戦うために編み出した自己強化魔法だった。

 あれはあくまで自身へと発現させるもので、他者へかけることは出来なかったが……。


「『契約をここに。我、悪意を以て悪意を制す者。微睡み淀む精霊を宿さん』コミュ・ヴァッカ」

「……!! テミス……これ……」

「お前の肉体を強化した。今ならば奴の速度(スピード)にも、(パワー)にも遅れは取るまい。乗りこなしてみせろ」

「そういう事なら……任せなさいッ! テミス!!」


 呪文の詠唱を終えると、テミスの掌から放たれた淡い輝きがフリーディアへ放たれ、その全身へと至る。

 すると、ピクリと肩を跳ねさせたフリーディアは、自身に起こった異変に気が付いたのか、亮へ向けて剣を構えたまま僅かに声を漏らした。

 そんなフリーディアに、テミスが副作用(・・・)を省いた説明を告げると、意気揚々と構えを替えたフリーディアは、凛と胸を張って宣言したのだった。

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