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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1723話 水際の再会

 フリーディア達との合流を果たしたテミス達は、馬車の中で受けた傷の治療を続けながらファントへと向かっていた。

 テミスの受けた傷は深手ではあったものの切り口は異様なほど綺麗で、本来ならばすぐに動かす事が出来るような傷では無かったのだが、今はエルリアの治療魔法によって止血を施しながら辛うじて移動している状態だ。

 馬車の壁に背を預けたテミスの前には、自身の騎馬を配下の者に預けたフリーディアが同乗しており、真剣な表情をテミスへ向けている。


「まさか、私が不在の折にそんな事が起きているとはな。確認だが、間違い無く死人は出ていないのだな?」

「えぇ。大怪我を負わされた人はいるけれど、誰も亡くなってはいないわ。被害者の人たちの話では、最後の一撃を構えた時に、何か呪文を唱えていたみたいだったけれど」

「呪文……か……。先ほどの奴の口ぶりからして、狙いはそれにあるのだろうな」

「えぇ。だから、兵を町中に展開して広域防御。問題が起き次第、即時集結する手はずで対策していたわ」

「……悪くはない采配だと思うぞ。事実、攻めあぐねた奴はこうして一時退いていた訳だ」

「でも、正直限界よ。一日でも早く貴女が帰ってくる事を願っていたのだけれど……」

「悪かったな。頼りのない頼みの綱で」

「いいえ。無事……ではないけれど、それでも生きて戻ってくれて嬉しいわ」

「フン……」


 ガラガラと低速でファントへ向かう馬車の中で、テミスはフリーディアと情報を共有しながら、爾後の策に頭を悩ませていた。

 だが、二人の間には置かれた状況ほど絶望的な雰囲気は流れておらず、軽口を叩き合う余裕すらあった。

 尤も。テミスとしては、疲弊によって擦り切れかけ、瓦解寸前の黒銀騎団の指揮権を投げ渡されたに等しく、取り得る手段がほとんど残されていない所為もあったのだが。


「……そんな状況ならばやむを得ん。町の者達には不便を強いることになってしまうが、一日……いや、二日ほど籠城すべきだろう」

「籠城……?」

「あぁ。門を全て閉ざし、最低限の戦力だけを維持しながら兵を休息させるんだ。幸いにも、奴は今町の外に出ている事は確認できている。如何なる対策を取るにしても、一度盤面を整えねば反攻に転ずる事も出来まい」

「……そうね。その間、流通は途絶えてしまうけれど、皆の命には代えられないわ」

「んん? 途絶えさせる必要など無いだろう。別に何もかもを封ずる必要はないんだ。監視や護衛の都合上、どうしても時間の制限こそ必要だろうが、町の者が防壁の外に出て取引をするのは構うまい」

「っ……! そうか……そうよね……。別に、物資に毒を盛られている訳ではないのだもの。人の出入りさえ手の内に置けば何とか……!」


 自分達の置かれた現状を理解したテミスが、渋い表情を浮かべて対応を口にすると、フリーディアは考え込むように微かに喉を鳴らしながら、テミスの案に同意した。

 けれど、これはあくまでも非常手段で、内に入り込まれていれば意味は無いし、住人たちの不満を鑑みれば何度も使える手ではない。

 だがそのリスクを負ってでも、一度状況をリセットしなければどうにもならない程度には、ギリギリの所まで追い込まれていたのだ。


「この状態で、よくもまぁ持たせたと言うべきか……。それに確定した訳ではないが、敵の手勢が単独である可能性が高い事がわかったのも大きいな」

「えぇ……! えぇ……!! 流石テミスだわ! ただで斬られただけな訳じゃなかったのね!」

「…………。おい。それは馬鹿にしているのか?」

「……? いいえ。……あぁ、でも……そうね。貴女が負けていなかったらそれで済んだ話だったわね?」

「チッ……!!」


 呆れたようなため息と共に、テミスが賞賛の言葉を漏らすと、途端に目を輝かせたフリーディアは、とても嬉しそうに頷きながら言葉を返した。

 しかし、お返しとばかりに褒めたらしいフリーディアの賞賛は、ただテミスの神経を逆撫でしただけで。

 問われてはじめてそれに気が付いたらしいフリーディアは、すぐにニンマリと表情を意地の悪いものへと変えると、肩を竦めてテミスへ嫌味を突き刺した。

 だが……。


「……奴に対抗する術も探さねばならん。私でこのザマだ。フリーディア。仮に交戦する事になったとしても、絶対に退け。アレは我々が単独で勝てるような相手ではないぞ」

「…………。わかったわ。必ず覚えておきます」


 いつもならば、ここでテミスが皮肉を返し、口論へと発展するのがお決まりだったのだが。

 テミスは静かに自らの胸元に走る傷口へと視線を落とすと、低く唸るような声で言葉を返しただけだった。

 そんなテミスに、フリーディアは痛まし気に眉を寄せて目を細めると、大きく頷いたのだった。

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