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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1718話 彷徨う人影

 ヴァルミンツヘイムの町を出立して三日。

 ファントの町も程近くなり、周囲はテミス達にとって見慣れた景色が彩り始める。

 ガラガラと軽い音を立てて進む馬車は、今日も軽快に風を切っていた。


「テミスさん! この調子なら、夕方前にはファントヘ到着できそうですよ!」

「そうか。ならば、エルリアとアドレスの事を今日の内にマグヌスの奴へ伝えられそうだな。久々の新入りだ。皆歓迎してくれるだろう」

「っ……! そう言われると、逆に緊張しますね……」

「ぅぅ……でも、ご期待に沿う事が出来るように頑張ります!」


 馬車を繰るシズクが明るい声でそう告げると、テミスは満足気な微笑みを浮かべて言葉を返す。

 エルリアとアドレスにとっては、新たな生活の始まりでもあり、テミスにとっても待ちに待ったファントヘの帰還だ。

 それもあってか、馬車の中にはどこか浮かれたような、胸の躍る雰囲気に満たされていた。


「そうだ。皆、夜に予定はあるか? 無いのならば、旅の無事な終わりと二人の歓迎を兼ねて、ウチで一緒に夕食でもどうだ?」

「ッ……!! 早速噂の美味い食事にッ!!? 是非ッ……! 予定なんて入れちゃいないです!!」

「私もいきたいですッ……!! シズクさんからお話を聞いてから、もう楽しみで楽しみでッ……!!」

「あ~……えぇと……」


 だが、エルリアとアドレスの食い付きは凄まじかったものの、シズクは酷く気まずそうに明後日の咆哮へと視線を向けると、眉をひそめてポリポリと頬を掻く。

 加えて、シズクの尻尾はまるで内心の苦悩を体現しているかの如く、びちびちとのた打ち回っていて。


「フッ……どうした? 何か用事でもあったのか?」

「いえ。帰還を果たしたら、まず私は獣王の館へ戻らねばなりませんから。そうすると、必然的にヤヤ様が……」

「あぁ。構わんさ。一人二人増えた所で問題無い。こちらも詰め所によればフリーディアなりマグヌスなり増えるかもしれないからな。一緒に来ればいいさ」

「ありがとうございます! 私もお誘い、謹んでお受けいたします」

「よし。今夜は楽しくなりそうだ」


 考えてみれば、黒銀騎団に二人が加わるという事は、町に新たな住人が増えるのだ。

 ともすれば、黒銀騎団の連中だけでは無くて、バニサスをはじめとした常連や用心棒連中は間違い無く参加してくるかもしれないし、騒ぎを聞きつければ他の連中だって顔を出しに来る可能性だってある。


「これは……帰って早々、二人には迷惑をかけてしまうかもしれんなぁ……」


 そうなると、店が大賑わいになるのは間違い無い事で。

 テミスはマーサとアリーシャの顔を思い浮かべると、クスリと口角を緩めて微笑みを浮かべた。

 今夜の食事は、早めに食べ終わっておくことにしよう。特にこの二人は、はじめて給仕に勤しむ私の姿を見れば驚くだろうが、それも含めて一興というものだろう。

 そんな賑やかで楽しい時間になるであろう宴会に、テミスが思いを馳せていた時だった。


「わっ……!! と……とっ……!! どう! どうどうッ……!!」


 これまで軽快に駆けていた馬車が急に速度を落とし、御者台の上から焦りと驚きの混じったシズクの声が響いてくる。

 馬車での旅で、急に速度を落とす理由など一つしかない。

 テミスは即座に身構えたアドレスに目配せをすると、自らの剣を手に御者台へと這い上がっていく。


「やれやれ。ファントも目前だというのに面倒な事だな。街道警備の連中は何をやっているのだ。シズク人数は?」

「一人……だと思いますが……。盗賊というよりは、どちらかというと……」

「ム……フムン……」


 御者台へと上がったテミスは、溜息を零しながらシズクへと確認すると、馬車の前へと歩み出て立ち塞がる人影へと視線を移す。

 そこに居たのは、テミスの想像したようなガラも風体も悪い、いかにもな盗賊然とした輩ではなく、小汚い外套を身に纏った浮浪者らしき人物だった。


「その身なり……物乞いか? 悪いがくれてやれるものは無い。退け」

「っ……! 女子(おなご)……? チッ……!」


 テミスはそんな浮浪者らしき人物に疑心に満ちた視線を向けた後、凛とした口調で呼びかける。

 瞬間。

 浮浪者らしき人物はピクリと肩を跳ねさせた後、テミスに言葉を返す事無くその身を翻した。

 だがその刹那。テミスの瞳に、はためいた外套の隙間から、擦り切れた制服のような意匠の服が映る。


「あれ……? 何も言わずに……って、テミスさん!?」


 不思議そうに首を傾げたシズクは、傍らのテミスに向けて言葉を零すが、テミスは背を向けて去らんとする浮浪者らしき人物を追って、御者台から飛び降りていった。

 そして。


「待て。貴様。軍人だな? ここは魔族領だがファントも近い。所属と目的を明かして貰いたい」


 傍らの地面に大剣を突き立てたテミスは、警戒を孕んだ声で眼前の浮浪者らしき人物を呼び止めたのだった。

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