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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1715話 言の葉の結ぶ想い

「っ……っ……っ……。…………。……ふむ」


 テミスから投げ渡された薬瓶の中身を一気に飲み干したギルティアは、瓶から口を離すと静かに一つ息を吐いた。

 訪れたのは僅かな静寂。

 この時、未だ部屋の中はギルティアから放たれる膨大な魔力で満たされており、その眼前に立つテミスとリョースも力を高め続けていた。

 だが、次の瞬間。


「っ……!」

「ふゥゥ……相も変わらず酷い味だ。そうは思わんか? テミス」

「…………」


 再びギルティアが深く息を吐くと、その身から放たれ続けていた膨大な魔力の奔流がピタリと止まる。

 そして、ゆっくりと視線をテミスへと向けたギルティアは、微笑みと共に静かに口を開いた。

 しかし、テミスが言葉を返す事は無く、黙したままギルティアの力に対抗すべく放出していた力だけを納める。


「ギルティア様ッ……! 御加減はッ……!?」

「問題無い。苦労を掛けたなリョース。感謝する」

「っ……!! おぉ……おぉぉッ……!! 良かった……!! 我々がギルティア様へお仕えするのは当然の事ッ……! 感謝のお言葉、私などには勿体無きお言葉……! どうか……どうかこのテミスにこそッ……!!」

「フッ……」


 ギルティアの復調に歓喜の声を漏らすリョースは、今にも涙を零さんばかりに声を震わせると、自らの前に立つテミスを示した。

 だが、テミスはギルティアが口を開くよりも早く、クスリと涼やかな微笑みを浮かべて身を翻す。


「待てテミス。何処へ行く? まだ私はお前に感謝を伝えていないぞ」

「不要だ。私はただ、盟約に基づいて依頼を果たしたまで。依頼は完遂したのならば、私がいつまでもここに留まる理由もあるまい?」

「そう言うな。これでも、本当に感謝しているのだ。お前への礼と……報酬の話くらいはさせろ」

「テミス。ギルティア様もこう仰られているのだ。偶には素直に受け取らんか」

「…………」


 悠然と呼び止めるギルティアと、傍らからギルティアに同調して諫めるリョースの声に、テミスはカツリとひと際大きな靴音を響かせて足を止めた。

 けれど、テミスは二人の呼びかけに応じて振り返る事も、口を開く事も無く、返事の代わりと言わんばかりに荒々しく頭を掻いてみせる。


「……礼も、報酬も不要だ」

「ホゥ……?」

「っ……! な、何故だ……!! テミス」


 続いて流れた僅かな沈黙の後、テミスは小さくため息を零してから、ギルティアたちの方を振り替えらないまま、短く答えを返した。

 それに対して、ギルティアは酷く愉し気な笑みを浮かべて息を漏らしただけだったが、リョースは狼狽えながら多くを語らぬテミスの背に問いかける。


「…………」


 だが、テミスはその問いに答えず黙り込んだままで。

 否。言葉を返す事こそ無かったものの、テミスの手はまるで何かを堪えるかのように固く握り締められていた。

 今回の一件において、礼を言われる筋合いも、報酬を受け取る権利も私には無い。

 ギルティアたちに顔を背けたまま、テミスはギシリと固く歯を食いしばると、悔し気に表情を歪めた。

 ギルティアの不調はそもそも、私を蘇らせるために支払った代償だ。

 だが仮に、ギルティアがそれを頑なに認めなかったとしても、ニコルの元へ私を向かわせて、肉体から剥がれかけていた魂を治した事は、報酬と呼ぶには十分過ぎるほどだろう。

 しかし、いくら頑なに拒んだところで、この二人が引き下がるとは思えず、テミスは胸の内でむくむくと膨れ上がる羞恥の心を必死で押し殺した。

 そして……。


「私はただ、私の犯した失態の始末をつけたまでだ。お前に救われた私が……救ったお前から礼を受ける訳にはいかない。魔王ギルティア。今回の一件……心より感謝する」


 テミスは耳の先まで赤く染めた顔でギルティアたちの方を振り返ると、驚きを露にしたリョースの前で、一人愉し気な微笑みを浮かべ続けるギルティアに深々と頭を下げて礼を告げた。

 そう。間違えてはいけないのだ。

 この一連の騒動において、あくまでも私は救われた側であり、決してギルティアを救った訳ではない。

 その事実を、テミスはギルティアへ頭を下げたまま、改めて己が心で噛み締めていた。


「クク……そう寂しい事を言うな、友よ。なぁ、リョース。お前もそうは思わないか?」

「……はい。どうやら想いというものは、過分にして口にせねば伝わらないもののようで」

「っ……!?」


 しかし、不敵な笑い声と共に紡がれたギルティアの意外過ぎる言葉に、テミスは思わず息を呑んで下げていた頭を跳ね上げる。

 そこには、相も変わらず愉し気な微笑みを浮かべるギルティアがテミスを眺めており、傍らでは狼狽えていた筈のリョースまでも、穏やかでむず痒い笑みを湛えていた。


「友を救わんと力を尽くして何が悪い? 後始末だと? 馬鹿を言うな。私は私が救いたかったからこそ、お前を救ったのだ。だからお前の告げた礼、しかと受け取ろう。故にお前も、私の礼を受け取れ。良いではないか。我等は互いに、救い、救われたのだ。それが友と云うものだろう?」

「ッ……!!?」

「テミスよ。たとえ袂を分かった今でも、私はお前の事を誇るべき同胞だと思っているのだ。お前はそれを……否だと言うのか?」

「ッ……!?!?」


 そうして朗々と紡がれたギルティアの言葉と、続けて僅かに口ごもりながらも告げられたリョースの言葉に、テミスは再び顔面が急速に火照っていくのを感じた。

 堪えなければならない。そう思えば思うほど、真正面から突き込まれた二人の言葉はテミスの心を蝕み続けて。


「っ~~~~~!!! よ……よくもまぁ……臆面もなく次々とそんな恥ずかしい事を言えたものだなッ!!!」


 そんなギルティアとリョースに、テミスはぶるぶると肩を震わせた後、まるで熟れたりんごの如く頬を真っ赤に紅潮させながら、叫ぶように言葉を返したのだった。

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