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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1707話 別れと旅立ち

 テミスが目を覚ましてから数日。

 予後の経過の観察を兼ね、ゆったりとした生活を過ごした後。

 旅支度を整えたテミスとシズクは、エルリアとアドレスと共にニコルの屋敷の庭に立っていた。


「ホレ。頼まれていた薬だよ。落すんじゃないぞ? 割っても代わりの薬は作ってあげないからね?」

「……確かに受け取った。気を付けよう。うっかり落としてしまっては、奴も浮かばれんからな」

「テミスさんの場合、落してしまうよりも揉め事のとばっちりで割ってしまいそうですけれど」

「何か言ったか?」

「ッ……! いえッ! 何もッ!!」

「ハハハっ……! あぁ……久し振りに愉快な日々だった」


 ニコルから受け取った薬瓶を、テミスは自らの荷物へと加えると、ニコルの冗談に乗ったシズクへ湿った視線を向ける。

 そんなテミスに、シズクはピシリと背筋を正して硬直させ、視線を明後日の方向へと向けて、少しばかり大袈裟に言葉を返す。

 すると、ニコルは突然腹を抱えて笑いはじめ、ひとしきり笑い転げてから大きく息をついて言葉を漏らした。


「今夜からは、静かになるねぇ。研究がはかどりそうだ」

「ククッ……寂しいのか?」

「あぁ。寂しいさ。……なんてもし、ワタシが言ったら残ってくれるのかい?」

「っ……! それは……その……」

「ふふ。冗談だよ。そんな顔をしなさんな。なに、今生の別れという訳でもないんだ。きっとまた会えるさ」


 出し抜けに放たれたニコルの言葉にテミスが返答を詰まらせると、一転してニコルは再び笑顔を見せて告げる。

 恐らくは、どれも彼女の偽らざる本音なのだろう。

 けれど、如何なる言葉を重ねられたとて、テミスがゲルベットに残るという選択肢は無い。

 それを理解しているからこそ、ニコルはこんな冗談を投げかけてきたのだろうが。


「そうだぜ。つーか、俺はまだしばらくこの町に居るからよ。何かあったらギルド経由で連絡するから、安心して帰っていいぜ」

「私としては、是非ファントにも支店を出させていただきたく思うのですが……」

「…………」

「……その話は追々という事に致しましょう」


 ニコルの隣では、からからとルードが快活な笑い声をあげており、テミス達の傍らでは、報せを受けて見送りに来たハクトが穏やかな笑みを浮かべていた。


「別に、私は双月商会の出入りを禁じた訳ではないし、ファントの町は行商人が良く訪ねてくる。面倒事を起こすような連中でなければ、好きにすれば良い」

「おぉッ……! ありがとうございます。早速手配と人選をしなくてはッ……!!」

「やれやれ。元気な奴だな……」


 微笑みを少し悲し気なものへと変えて口ごもったハクトに、テミスは溜息まじりにそう告げてやると、ハクトは小躍りするかのようにその場で飛び跳ねながら、目を輝かせはじめる。

 こういう輩の事を、まさに現金な奴とでも言うのだろうが、ハクトに関してはもはや今更といった感じもあるし、アルブヘイムの情勢を気にかけなくてはならない以上、一度は敵対した間柄とはいえ、完全に繋がりを断ち切るべきではないのだろう。


「……町の連中は?」

「本当に私としても予想外で想定外の事なのですが、一部を除いて皆様の出立については好意的に受け入れております」

「意外だよねぇ……全く、どんな魔法を使ったんだい? ワタシにも一つ教えて欲しいものだよ」

「別に。なんて事はないさ」


 目を細めて問いかけるニコルに、テミスは不敵な笑みを浮かべて言葉を返し、空を仰ぐ。

 ゲルベットの問題を収束してから、テミスは自分達が町を去る時の為に、一つの仕込みをしていたのだ。

 とはいえ、それが成功する保証もなく、ただ宴会の折に町の者達と酒を酌み交わしている時に思い付いた程度のものなのだが。


「私はただ、語って聞かせただけさ。ファントの良さと、私がこれまで潜り抜けてきた戦いをな」

「ほぉ……? まさかそれだけで……」

「まぁ……ある意味では間違ってはいないのですが……」


 飄々と告げたテミスの隣で、この中でテミスの語った話の内容を最も詳しく知っているシズクが苦笑いを浮かべた。

 確かに、テミスの言葉には一片たりとも嘘偽りはない。

 けれど、如何にテミス自身がファントに焦がれているかを聞かされた後で、自らの欲や目的のためにテミスと相対した者達の末路を聞かされれば、無理に引き留めようなどと言う気が起こるはずも無く。

 結果として、ゲルベットの安寧の為に残っては欲しいもののそれを口に出す事は許されず、住人たちの意識がもう一度この地を訪れて貰う方向へと流れたに過ぎない。


「ははっ……! その辺りは、今夜にでもルードから聞かせて貰うかね。それじゃ、余り長話をしていても無意味だ。君たちの部屋は掃除を欠かさないようにしておくから、またいつでも訪ねてくると良い」

「あぁ。世話になった。また会おう、ニコル」

「お世話になりました!」

「気を付けて帰り給えよ」


 シズクの苦笑いを見てニコルは何かを察したのか、楽し気に含み笑いを零した後、満足気に間延びし始めた話を断ち切った。

 それに乗ずる形で、テミスとシズクはコクリと頷くと、別れの挨拶を残して身を翻した。


「町の外に馬車を用意してあります」

「御者は私達がッ!」

「ほぉ……それは助かる」


 そんなテミス達にハクトが続くと、エルリアとアドレスもニコルに深々と頭を下げた後、明るい声と共にその背を追ったのだった。


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