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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1705話 重なる絆

 薬の効能……否、苦しみは想像を絶するものだった。

 この世のものとは思えない味もさることながら、全身を余すことなく襲う激痛は耐えがたく、いったい何度口の中に注ぎ込まれる刺激物を吐き出したくなったかなどわからない。

 だが、地獄の底かと思うほどの苦しみの先には、更なる地獄が待ち受けていて。

 薬を飲み続けていた時に倍する、神経そのものを焼き尽くされているかのごとき苦痛は意識が途切れる事すら許さず、逃れ得ぬ苦しみの中でただのたうつ事しかできなかった。

 けれど。

 永遠にも思えた苦悶の時も、過ぎ去ってみればもはや過去のもので。

 石造りの天井を見上げながら、テミスは己が生還した喜びをしかと噛み締めていた。


「…………」

「最悪の気分……と言う割には、清々しい顔をしているね」

「ほざけ。あんな地獄は、二度と御免だ。それにしても……クソッ……! なんだこの疲労感は……汗の一つも拭えやしない」

「ククッ……あんだけ暴れりゃあ、そりゃクタクタにもなるだろうよ」


 ひょっこりとテミスの視界に現れて笑うニコルに言葉を返すと、テミスは己が体の不快感に愚痴を漏らした。

 身体が疲弊しきっている事は勿論の事、全身はこれでも言うかというほど汗だくだし、顔は感覚からして涙や涎、ひいては鼻水で酷い有様だろう。

 だというのに、身体は疲労を訴えるばかりでピクリとすら動かず、疲弊した様子で皮肉を口走るルードに掴みかかってやることすらできそうもない。


「……皆。有難う。感謝する」


 けれど。

 テミスとて、ルードやニコルが、そしてシズクにエルリアとアドレスが、自身の知らない所で奮戦していてくれたことは察していて。

 万感の意を込め、ゆっくりと感謝の言葉を紡いだ。

 ニコルが居なければ、そもそも薬すら手に入る事は無かった。

 恐らく、ルードは苦痛に悶え暴れる私を抑えてくれたのだろう。

 シズクには、万が一の事態に私を殺すなどという、嫌な役目を背負わせてしまった。

 エルリアとアドレスも、本当ならば自室に引き上げていたって構わない立場なのに、文句ひとつ言わずに付き合ってくれた。

 他でもない、私の為に。


「お陰で……あぁ……確かに感じる。取り戻す事ができた」


 ぎしり。と。

 極度の疲労で軋む身体に鞭を打ち、テミスは無理やり体を起こすと、静かに目を瞑って自らの内へと意識を向ける。

 そこでは、確かに感じられる魔力が全身を巡っており、あの女神モドキから賜わった能力も、今ならば己が意のままに扱えるだろう。


「テミスさん……。良かったです。ご無事でッ……!」

「ッ……! シズク……!! その顔は……まさかッ……!!」


 自身が万全であることを十全に噛み締めた後、テミスがゆっくりと閉じていた目を開くと、軽快な足音と共に背後から回り込んで来たらしいシズクが視界の中へと現れる。

 だが、その頬は酷く腫れあがっており、見ただけでも痛々しい紫色にうっ血していた。

 そんなシズクに息を呑んだテミスは声を震わせると、衝撃と疲労で震える手を無理矢理に持ち上げ、シズクの腫れた頬へペタリと優しく触れる。


「良いんです!! テミスさんがこうして戻って来てくれただけでッ……! 私は……私はッ……!!」

「…………」


 けれど、シズクはぽろぽろと涙を流しながら、持ち上げたテミスの手に縋り付き、歓喜に声を震わせた。

 しかしその言葉は、シズクの傷を負わせた者がテミスであると告げていて。

 テミスはシズクの為すがままに任せながら、静かに視線だけを室内を見渡しながら、密かに思考を巡らせる。

 これまでの私は、自身が如何なる存在であるかを頑なに隠し続けていた。

 自身の口から転生者であることを告げたのは僅かに数名。自身の持つ能力の事を明かした者は一人としていない。

 周りの者達も、私が何処か異質な存在であると当然ながら察しはしていただろうが、何も問う事無く共に肩を並べてくれた。


「フッ……。我が魔力よ、温かなる力となりて、彼の者の傷を癒したまえ」

「っ……!!」


 ならばその秘密は、わざわざ語り聞かせて明かすようなものではなくとも、私の所為で傷付けてしまったシズクを捨て置いてまで、頑なに貫く物ではあるまい。

 そう断じたテミスは静かに微笑みを漏らすと、口の中で詠唱を紡いでから、シズクに触れている掌へと能力(チカラ)を流し込んだ。

 すると、テミスの掌はたちまち淡い緑の光を帯び、みるみるうちに酷く腫れあがったシズクの頬を癒していく。

 尤も、テミスが有する能力(チカラ)を以てすれば、本来ならこんな即興で取ってつけた詠唱なんて必要ないのだが。

 何かを犠牲にしてまで隠し通す必要はないものの、わざわざ自分から秘密を明かしにいく必要はあるまい。

 酷く擽ったそうに目を細めるシズクを眺めながら、テミスは自らの胸の内で言い訳を零した。


「あ……あの……!! ありがとうございます!! テミスさん、治癒魔法……使えたんですねッ!! 驚きましたッ!!」

「クク……まぁな……。内緒だぞ?」


 数秒後。

 シズクの頬はすっかり腫れが引いて元の艶やかな肌を取り戻した。

 同時に、目を輝かせながら歓声を上げるシズクに、テミスは微笑みながらその頭を撫でた後。

 全身を蝕む疲労に任せて、背中から床へと倒れ込んだのだった。

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