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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1703話 魂の試練

 ゴチュッ……!! と。

 テミスの絶叫の傍らで響いたその音は、聞く者全てに本能的な恐怖と嫌悪感を覚えさせる程の嫌な音だった。

 放たれた一撃をまともに受けたシズクの身体は、ルードやニコルが声を上げる間も無く弧を描いて宙を舞い、並べられていた食卓の椅子をなぎ倒して止まる。

 折れ、割れ、砕けた椅子の破片の山の頂上で動きを止めたシズクは、ビクビクと数度不気味に手足を痙攣させた後、ガクリと力無く四肢を垂れさせた。

 けれど。

 それでもシズクが手に握った白銀雪月花(テミスの刀)を手放す事は無く、ゆらゆらと微かに揺れる一振りの刀が、彼女の想いを声高に物語っていた。


「ッ……!! いかんッ!! 昏倒しているッ……! そこの二人! ぼさっとしていないで早くシズクを介助するんだ!!」

「は……はいッ!!!」


 危機感を帯びたニコルの叫びに、エルリアは顔を青ざめさせて駆け出すと、その傍らを守護するかのようにアドレスが随伴する。


「頭ァ強く打たれてる! あんま激しく動かすなよ!! 治療すンなら焦んなよ! 良く診てからにしろ!! 悪ぃがこっちは……手ェ貸してやれねェッ!」


 身構えたルードはシズクに駆け寄った二人を一瞥して吠えると、獣のような声で絶叫しながら暴れ続けるテミスを再び抑えるべく飛び掛かった。

 だが、無軌道に振るわれた剛腕をすんでの所で躱すと、ルードは浅く切り裂かれた頬に薄く血を滲ませて不敵な笑みを浮かべる。


「……おいおい。一体、こいつァ……どうなってんだよ。元々テミスの嬢ちゃんはとんでもねぇパワーだが、あんなに強くは無かったぞ」

「だろうね。苦痛で肉体の箍が外れているんだ。彼女は幸運だった。一瞬で意識を刈り取られていなかったら、首の骨をやられていたかもしれないね」

「俺ァ……そんな事を聞いた覚えはないんだが……?」


 ひとまずテミスの間近から退避したルードが問いかけると、ニコルは静かな声で答えを返した。

 しかし、ルードは鋭い眼光でニコルを睨み付け、殺気に似た気迫を纏いながら低い声で問いを繰り返す。


「全く。早合点しないで欲しいね。第一関門は無事に突破だ。あとは薬の効果にテミスちゃんの精神が、耐えきれるかどうかだよ」

「ッ……!! そいつァッ……!!」

「安心したまえ。もう死ぬ事は無い。我々が肉体の損傷を防げばね。最悪の場合でも、心が壊れるだけで済むはずだよ」

「馬鹿野郎ッ!!! そんな廃人同然の状態、死んでんのと同じじゃねえか!! いや、死んじまうよりも酷だッ!!」

「……面倒見が良いのはキミの長所だけど、少々過保護すぎやしないかい? テミスちゃんは魂と肉体の再結合……つまりは神が如き御業を求めたんだ。この程度の試練は当然だと思うがね」

「クッ……!!!」


 淡々と告げるニコルに、ルードは怒りの余り怒鳴り付けるが、ルードとは異なる静かな威圧感を滲ませたニコルの反論に言葉を詰まらせた。

 確かに、テミスが求めたものは相応の代償を求められるほどのものかもしれない。

 けれどルードは、こうも目の前で苦しみ叫んでいる仲間を前にして、黙って眺めていられるような男ではなかった。


「チィッ――!!」

「――止したまえ。キミまで昏倒する気かい?」

「ッ……!! だったらッ!! 何もせずこのまま見てろって言うのかよッ!!」


 しかし、ニコルが再び飛び出さんとするルードを制止すると、ルードは酷く苦し気に顔を歪めながら気炎を上げる。


「ハァ……そうじゃないよ。少し待てと言ったんだ。見たまえ。確かに力の限り暴れ回ってはいるものの、未だにテミスちゃんの肉体に損傷は見られない」

「オイ。まさかとは思うが……まだ()があるってのか……?」

「クス……」


 そんなルードに対して、ニコルは絶叫しながらのた打ち回るテミスから視線を離さないまま、変わらぬ調子で淡々と言葉を返した。

 だが、それはテミスの更なる苦痛を確かに暗示していて。

 ルードは余りの事実に怒りすら忘れ、背筋を走る怖気に声を僅かに振るわせた。


「キミ。全身を灼熱の炎で焼かれた事はあるかい? 意識を保ったまま、身体の中をグチャグチャに掻き回された事は? 無数の針で、刺し貫かれた経験は?」

「…………。ッッ……!! まさか……ソイツは……」

「昔々、この薬を飲んだヤツに聞いた比喩さ。本人曰く、これでもかなり生温い例えらしいけれどね」

「…………。フゥー……ッ!!」


 告げられた想像すら及ばない程の苦痛に、ルードはドサリとその場に尻もちをつくと、祈るような眼差しでテミスへ視線を向ける。

 そんなもの、とてもヒトの精神力で耐えられるような代物ではない。

 けれど、テミスならば或いは……。そう祈りにも似た一抹の希望に縋りながら、ルードはただ深いため息をつく事しかできなかった。


「ともあれ、我々はしばらく様子見だ。肉体が傷付き始めたらワタシが拘束術式を掛けるから、キミは身体を抑え込んでくれたまえ。前の時は三日三晩かかった。尤も、アイツの場合は一度完全に死んでいたけれどね。さて……テミスちゃんの場合はどうなるか……」

「チッ……。嬢ちゃん……ちゃんと帰ってきて、絶対にコイツに一発くれてやれよッ……!!」


 杖を手にしたまま悠々と言葉を紡いだニコルに、ルードはぎしりと歯を食いしばりながら呻くように呟いたのだった。

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