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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第27章

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1693話 爾後の備え

 テミスがシズクに語って聞かせたのは、言われてみれば当たり前の事だった。

 今回ゲルベットの町を襲った魔獣暴走(スタンピード)は、黒い騎士(バキース)の侵攻に端を発しているかのように見える。

 しかし、元をただせばこの黒い騎士(バキース)の侵攻も、今もなお黒い騎士(バキース)共と戦っているというアルブヘイムでの戦線崩壊が大元の原因で。

 つまるところ、アルブヘイムの戦況が悪化すればするほど、再びこの町を黒い騎士(バキース)が襲う事になる。

 テミス個人としては、正直そこまで面倒を見ていられないというのが本音ではあったが、自身の体調の回復とギルティアの依頼を果たすために、未だ幾ばくかの時間が必要ともなれば、当面の安全は確保して然るべきだろう。

 故に、テミスはルードがアルブヘイムへ戦況を確認しに赴いている間、こうして守りの手椅子になったゲルベットの有事に備えて居たという訳だ。


「ッ……!!!」

「名も知らぬ他者に自らの命運を委ねる気は無いのでな。その所為で無用な心配をかけてしまってすまなかった」


 自らの説明を聞いた途端、俯いて黙り込んでしまったシズクに、テミスは困惑の笑みを浮かべながら謝罪を重ねる。

 確かに警戒を解く訳にはいかないものの、双月商会の調査によればゲルベットの周囲では既に黒い騎士(バキース)は一体たりとも確認されておらず、むしろ魔獣暴走(スタンピード)によって魔獣が駆逐された影響で、この辺りは以前よりもずっと安全が確保されているのだ。

 だからこそ、これはほんの保険のようなもので。

 確認すべきではあるものの、大事にするほどの事ではないと判断したテミスとルードは、内々に確認をすべく行動していた。


「ぅ……ぐす……ひぐ……」

「っ……!?!? お……おい……? 黙っていたのは悪かった。けれど本当に大した事ではないんだ……」

「いっ……いえ……違うんです……謝らないで下さい……! わ、わたっ……私……自分が情けなくて……」


 説明をしてなお泣き止む事のないシズクにテミスが狼狽えると、シズクはぶんぶんと激しく首を左右に振りながら声を上げる。


「私……もう全部終わったと思って……! 浮かれてしまっていました。テミスさんは気を抜く事なく、こうして密かに尽力されていたというのに……!! そんなテミスさんに私は、鈍らないように稽古をしようだなどと……!!! なんて恥知らずなッ……!!!」

「…………」


 今にも崩れ落ちてしまいそうな程に全身を震わせながら、シズクがそう言葉を紡ぐと、テミスは困惑に満ちていた表情を穏やかな笑みに変え、眼前に差し出されているシズクの頭を優しく撫でた。


「気にするな……と言っても、お前には無理な話なのだろう」


 全く本当に……クソがつく程にまじめな奴だ。そう胸の中でため息を漏らしながら、テミスは優しい声色で言葉を続ける。

 何を言って聞かせたところで、シズクは爾後の事柄まで気が回らなかった事を、自身の至らなさとして責め続けるのだろう。

 けれど、それは本来はシズクの担うべき役ではなく、指揮官であるハクトやッルードが考えるべき事で。

 テミスとて、事情を理解した上で役目こそ担ってはいるものの、自身の安全のために手を貸しているだけに過ぎない。


「だから敢えて、慰めの言葉はかけない。だがその代わりに褒めてやる」

「え……?」

「こうして全体を俯瞰し、先の憂いを想定して動くのは一兵卒の役目ではなく指揮官の役目だ。そしてシズク。そこへ至る事ができなかったと悔やむお前には、十二分に指揮官たる素質があるという訳さ」


 テミスは口を動かしながら、その裏で必死に思考を巡らせて言葉を捻り出していた。

 慰めても効果がないのならば、褒めればいい。安直にそう考えたものの、半ば見切り発射的に話し始めたせいで、若干無理矢理な雰囲気が出てしまったような気もする。

 けれど、言葉にして言い放ってしまった以上はもう後戻りする事も出来ず、テミスはシズクの頭の上で手を動かしたまま言葉を続ける。


「ただの一兵卒ならば、戦いが終わった事を喜び、勝ち取った平穏を貪り尽くせばいい。だがそこから一歩足を踏み出したお前は今、まさに殻を破ったと言えよう。……お前はきっと、良い指揮官になる。この私が言うんだ。間違いないさ」


 気を抜けば明後日の方向へと取っ散らかってしまいそうな理論に区切りをつけると、テミスは最後に自らの本心を付け加えて早々に言葉を打ち切った。

 シズクがこの先、大勢を率いて戦ったり、町を治めるような立場に立つ事になるかはわからない。

 けれど、意地を張ることなく、間違いを間違いだと正しく認識し、猛省することの出来るシズクには、間違い無く資質があるといえるだろう。


「だからそう嘆くな。気が付いたのならば上々。丁度一人で待ち続けるのも飽きていた所さ。暇ならば、シズク。お前も付き合ってくれないか?」

「っ……! …………!!! はいッ! はいッ……!!!」


 テミスは頭を撫でていた手でシズクの頬を伝う涙を拭うと、優しい笑みを浮かべてそう締めくくる。

 そんなテミスにシズクは、コクコクと何度も頷きながら、涙に濡れた笑みを浮かべたのだった。

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