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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1676話 愚者は留まり、賢者は退く

 斬っては戻り、戻っては斬り裂き。

 そんな、テミスと巨大な黒い騎士(バキース)無意味にも思える攻防が数分続いた頃。

 未だに動きを見せない巨大な黒い騎士(バキース)の様子に冷静さを取り戻した冒険者たちが、ハクトの指揮の元ゲルベットの町の方へと退いていく。

 しかし、焦りを露わに急かすハクトとは裏腹に、一部の勘の良い者達を除いた冒険者たちの間に緊張感は無く、時に後ろを振り向いて大きな黒い騎士(バキース)を仰ぎ見たりと、撤退する足取りも酷く緩やかなものだった。

 一方で、ひたすら巨大な黒い騎士(バキース)を切り刻み続けるテミスは、砂袋を斬り付けるかのようだった手ごたえが徐々に重たさを増し、巨大な黒い騎士(バキース)が着実に『完成』へと近付いているのを感じていた。


「フム……冒険者たちの退避は七割がたが完了した……といった所か。丁度、こちらもそろそろ出来上がる頃合い……。これ以上は自己責任だな」


 一太刀ごとに音色を変える斬撃の音を響かせながら、テミスは自らの肩越しにチラリと背後を振り返って状況を確認すると、小さな声で呟きを漏らす。

 こうして危機を前にした者達を見てみると、存外に面白い発見もあるものだ。

 自らの退くタイミングを計りながら、テミスは胸中でそうひとりごちると、再び視線だけを背後へと向けて薄い笑みを浮かべる。

 未だに空気を読まずに残っているのは、装備から見るにそこそこ腕に自信のあるらしい中級から上級の冒険者が殆どだ。

 とはいえ、良い装備で身を固めている冒険者の多くは、既に十分な距離を取り、声を枯らして撤退を促している。

 それに従った低位から中位の冒険者の多くは、不安気に巨大な黒い騎士(バキース)を見上げており、周囲の警告を素直に受け入れる姿勢は見込みがあると言えるだろう。


「スゥッ……ハッ……!!! よしッ……!!!」


 そんな事を頭の片隅で考えながら、テミスは斬り上げた勢いを利用して大剣と共に跳び上がると、巨大な黒い騎士(バキース)の脛辺りに強烈な蹴りを放つと同時に大きく退いた。

 テミスの斬撃が途絶えた途端。巨大な黒い騎士(バキース)の繰り返す脈動は一気に収まりを見せ、代わりにキシキシという不快な音が鳴り始める。


「テミスさんっ!!」

「無事かッ!? 無茶しやがって……!! もうすぐ冒険者達(アイツら)の撤退も終わる! 代わるぜッ!!」


 蹴りの威力を生かして退いたテミスは、クルクルと空中で回転をした後、一気にルードたちの傍らへと着地する。

 それを出迎えた二人はそれぞれの想いを胸に口を開くと、シズクはテミスの傍らへと駆け寄り、ルードは待ちかねたと言わんばかりに低く姿勢を落として構えを取った。

 だが……。


「止せ。ルード。私は、これ以上は限界だと判断したから戻って来たのだ。最早アレはお前の腕を以て斬り続けても時間を稼ぐ事はできないだろう」

「――ッ!! なんてこった……!! 畜生ッ!! あと……少しだってのにッ!!」

「フン……だいたい状況は見ていた。逃げ遅れた奴が間抜けなんだ。致し方ないが、空気の読めない馬鹿には痛い目を見て貰う他は無い」

「お前ッ……なぁっ……!!」


 巨大な黒い騎士(バキース)から響く異音が次第に大きさを増していく中。

 クスリと微笑を浮かべながら冷ややかに言い放ったテミスに、ルードが声を荒げる。

 だが、その言葉の続きが紡がれる事は無く、ルードは表情を歪めて頭を掻きむしると、大きく息を吸い込んでから深々と溜息を吐いた。


「気持ちはわかる……わかるけどよォ……。言い方ってモンがあるだろうよ……。悪い。セレナちゃん。いったん下がってモタ付いている奴等を急かしてくれねぇか? もしも奴の攻撃が流れちまったら、できる限り守ってやって欲しい」

「っ……!! わかりました。撤退が完了し次第、すぐに戻ります」

「オゥ……頼んだぜ」

「…………。ククッ……上手く逃がしたな」

「余分だったか? ま、もしそうだとしても、その分は俺が何とか埋め合わせるから勘弁してくれや」


 そうしてルードは溜息まじりに言葉を続けると、自分達の位置よりも少し後方で短杖を構え、青ざめた顔で巨大な黒い騎士(バキース)を見上げているセレナへと声を掛けた。

 僅かな沈黙の後。ルードの言葉に応じたセレナはテミス達に向けてペコリと頭を下げると、ルードの返答を待たずに後方へと駆け出していく。

 前線から撤退したセレナを十分に見送った後、喉を鳴らして不敵に笑うテミスに、ルードはへらりと笑みを浮かべてみせた。

 ――その時。


「お二人共。来ますッ!!」


 テミスとルードが言葉を交わしている間も、一人前方を警戒し続けていたシズクが鋭く口を開くと同時に、不定形に蠢く事の無くなった巨大な黒い騎士(バキース)がゆらりとその巨腕を動かした。

 その手には、おおよそヒトの扱える大きさを遥かに超えた巨大な大剣が握られており、着地した切っ先がいとも容易く地面を捲り上げていく。

 それは即ち、巨大な黒い騎士(バキース)が攻撃の通らない不定形な群体を棄てて硬質化という証拠で。


「ハハッ……!! この瞬間を待っていたァッ!!!」


 刹那。

 テミスは高笑いと共に凄まじい速度で前へと飛び出すと、先程一太刀目を加えた時と同じく大きく跳び上がり、巨大な黒い騎士(バキース)の肩口を目がけて猛然と斬りかかったのだった。

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