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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1670話 惨劇の卵

 僅かとはいえ休息を挟んだ後の戦いは、無理を突き通し、無茶を重ねた機動突撃戦法に比べて、拍子抜けしてしまうほどに楽に展開していた。

 それもその筈、数名毎に別れた冒険者たちが相手取る黒い騎士(バキース)たちの隙を突き、一体ずつ片付けていくだけ。

 多数を相手取ったり、一対一ならば兎も角。人数の利を用いて、黒い騎士(バキース)の守りを貫くことの出来るテミス達を自由にすれば、ただの一振りで決着が付く事など自明の理で。

 最早それは戦闘と呼ぶには相応しい光景ではなく、さながら作業と言い換えるべき機械的な動きですらあった。


「どうにも……皮肉なものだな」


 ブオンッ!! と。

 荒々しい音を奏でながら、テミスは黒い騎士(バキース)の背を裂いた大剣を肩へと担ぎ直しながら呟きを漏らすと、落ち着きを取り戻しつつある戦場を見渡した。

 この黒い騎士(バキース)がニコルの言う通り、生けとし生けるものを見境なく狩り殺す空の騎士なのだとしたら、そんな彼等が逆に処理(・・)されている現状こそ、これ以上ない皮肉と言えるだろう。

 この黒い騎士(バキース)は、この街道の先に在るアルブヘイムからまろび出てきたという。つまるところ、こいつらの首魁、もしくは操り手が彼の国に潜み、今も尚アルブヘイムの者達と戦いを繰り広げているという事になる。

 正直に言えば、テミスにとって他国の事など気に留める必要も無い事で。

 今回の一件も、ギルティアの依頼でゲルベットを訪れていなければ、例えファントの冒険者ギルドまで救援要請が届いたとしても、赴く事は無かっただろう。


「いや……そうでもないか」


 そこまで思考を進めた所で、テミスは自らが斬り倒した黒い騎士(バキース)と相対していた冒険者たちが、勝鬨をあげているのを聞き流すと、少し離れた所で同じく『処理』をしているルードへ視線を向けた。

 ルードは元より、今回の一件にテミス達を巻き込む気は無かったらしい。

 だからこそ、双月商会に潜り込み、かき集めた冒険者たちと共に戦支度を進めていたのだ。

 けれどもしも、ルードの名を添えてテミスを指名しての救援要請があったのならば、大きな借りを返す好機とばかりに、おっとり刀で駆け付けたのは間違いない。


「フゥム……」


 ともあれ。

 黒い騎士(バキース)が如何なる存在であったとしても、ファントや隣領であるラズール、そしてロンヴァルディアが襲われない限り、テミスがこの化け物と相対する事は無かったはずだ。

 そう思考を進めつつ、テミスは次の『処理』を果たすべく戦場を歩みながら、クルクルと手の内で漆黒の大剣を弄んだ。


「自立兵器と言えば聞こえは良いが……どちらかというと殺戮兵器の類だな……コレは」


 地面に転がる黒い騎士(バキース)の鎧の欠片をつま先で蹴飛ばすと、テミスは今も尚防戦を続ける冒険者たちの傍らを通り抜けながら、思考に没頭したまま剣を薙ぐ。

 実際に剣を交え、幾体もの黒い騎士(バキース)を打ち倒した今だからこそ、テミスの内にはどうしても連想してしまう嫌な予感が浮かび上がっていた。

 この黒い騎士(バキース)を、化け物ではなく兵器として捉えた時、その用途は目も当てられない程に残虐なものと化す。

 生物を区別なく襲う攻撃性に、高位冒険者でも歯が立たない程の硬い装甲。これらの性質からまず導き出されるのは、標的の町でも敵陣でも構わない。鹵獲した黒い騎士(バキース)を数体でも放り込んでやれば、そこは即座に地獄へと変貌を遂げる。


「っ……! 待てよ……?」


 思考の傍らで、テミスは視界の隅に霧散しながら崩れ落ちる黒い騎士(バキース)を捉えると、ピクリと眉を跳ねさせて言葉を零した。

 そもそもコレ(バキース)が、化け物でも兵器でもなく、魔法や術式の類であったなら。

 今回はたまたま、アルブヘイムから零れ出てきた連中を迎撃する形を取る事ができたが、自分達が標的となった時、果たして同じように攻めて来るだろうか?

 否。仮に召喚する類いの術式であったならば、こうも真正面から馬鹿正直に攻め込む必要なんて無い。

 旅人を装った術者を忍び込ませるなり方法は幾らでもあるし、遠隔でも送り込む事ができるのならば、その手間すら必要無くなるだろう。


「ッ……!」


 瞬間。

 テミスは日の暮れた暗いファントの街路に突如、まるで夜の闇から湧いて出てきたかの如く黒い騎士(バキース)が現れる光景を脳裏に思い描き、その背に戦慄を走らせた。

 そんなもの、町全体に練度の高い兵を配置し、常に臨戦態勢を維持する他に防ぎようが無いではないか。

 加えて、人気のない場所に現れるのならばまだ幸運な方で。

 仮に人で賑わう商業区画などに湧いて出れば、如何なる惨劇が起こるかなど容易に想像が付く。


「一体残らず、排除せねば……」


 脳裏を過った最悪の光景にテミスはぶるりと身震いをすると、緩みかけていた気持ちを引き締めて、戦場を駆ける足を速めたのだった。

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