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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1662話 止めどなき刃

「なっ……!?」


 黒い騎士(バキース)を貫き、地面へと突き立った剣を見て、ルードが最初に抱いた感情は、窮地を救われたことによる安堵でも、反攻に転ずる切っ掛けを得た高揚でもなく、まるで底無しの沼のような困惑だった。

 見れば、飛来した剣はそこそこの出来ではあるものの数打ちの量産品で。ルードの振るう愛刀やテミスの持つ大剣とはその質は比べるまでも無く、到底黒い騎士(バキース)に通ずる筈の無い物だ。


「援軍ッ……!? だとしても誰……ッ!?」


 動揺に心をかき乱されたまま、ルードは堪らず背後を振り返る。

 まだわずかに距離が開いてはいるものの、黒い騎士(バキース)たちの軍勢は目と鼻の先に迫っており、眼前に迫る『敵』から目を逸らすなど自殺行為に等しい。

 けれど。ルードはこの到底勝ち目の無い戦いに、駆け付けてくれた者が如何なる者なのかを確かめざるを得なかった。

 もしも予定通り、テミスが来たのならば放たれるのは月光斬か……少なくともあの漆黒の大剣を手に斬り込んで来るはずだ。

 ならば、他の冒険者か? 数打ちの品で黒い騎士(バキース)を穿つ頃ができるほどの腕を持った……?


「まさか……運良く他のSランクが居たって……の……」


 だが、思考を巡らせる間も無くルードの呟きは途切れ、新たな驚愕と困惑の波が乱れ切った心を塗り替えていく。

 ルードが後方へと向けた視線の先。

 冒険者たちが魔物と戦う中を肩で風を切るかの如く、その長い白銀の髪を悠然と血風に揺蕩わせながら歩む姿は、見紛うはずも無くテミスその人だった。

 しかし、その手には愛用しているはずの漆黒の大剣は無く、代わりに何の変哲もない剣を一振りずつ両手に携えている。


「テミス……。アイツ……何をやっているんだ……? なんで……」


 胸を塗り潰した感情の底から湧き上がる疑問に、ルードは我を忘れて言葉を零す。

 だがそれも無理はない話で。テミスが愛用しているはずの漆黒の大剣は今、彼女の前に立ち、露払いを務めているシズクの背へと収まっている。

 しかし、シズクが大剣を使う素振りは無く、更にテミスが刀を振るって道を拓くシズクに加勢する様子も見えない。

 加えて二人の後ろには、大きな荷車を牽くエルリアとアドレス、そしてハクトの姿があった。


「……よし。この辺りで良いだろう」


 そんなルードの困惑をよそに、テミスは黒い騎士(バキース)の軍勢と退いた冒険者たちが魔獣と戦っている辺りのちょうど中間で静かに号令をかけると、涼やかな笑みを浮かべながら前を見据えた。


「シズク。引き続き露払いは任せる。アドレスはシズクの援護だ。エルリア、ハクト、配置に付け」


 そして、二振りの剣を構えるでもなく、だらりと携えたテミスがそう命令すると、小さく頷いたシズクとアドレスが武器を構えて左右へと展開し、エルリアとハクトが荷車の傍らで腰を落とす。

 戦況は悪い。未だ周囲の魔物は倒し切れていないし、ルードは事前の取り決めを無視して前線に出てしまっている。

 テミスは改めて周囲をぐるりと見渡して現状を把握すると、静かに息を吐いてから大きく息を吸い込んだ。


「ルードォッ!! 邪魔だ!! 勝手に突出したのはお前だ! 加減はしないぞ! 責任を持って躱しながらさっさと退いて来いッ!!」

「ッ……!!!」

「きゃッ……!?」


 ビリビリと戦場の空気を震わせたテミスの怒号に、ルードは我に返ると同時にビクリと肩を跳ねさせる。

 しかし直後、ルードは傍らで呆然と佇むセレナを抱え、全速力でテミス達の方へと駆け出した。

 そんなルードが見据える中。あろう事かテミスは両手に携えた剣をゆらりと振りかぶると、目にも留まらぬ速さを以て黒い騎士(バキース)目がけて投擲してみせた。


「アイツッ……!!! 無茶苦茶しやがるッ…‥!!」


 歯噛みするルードの頭上を通り過ぎた剣は、一糸乱れぬ機械的な動きで進軍を続ける黒い騎士(バキース)をまた一体粉砕する。

 だが、それに驚いている暇はルードたちには無かった。

 何故なら、つい先ほど右手に携えていた剣を投擲したはずのテミスが、既に第二射の構えを取っており、程なくして左手の剣が投げ放たれた。

 その頃には、傍らに控えたハクトとエルリアが、テミスへ向けて新たな剣の柄を差し出している。


「やべぇッ……!! やべぇやべぇッ……!!!」

「ちょ……ちょっと! ルードさ――」

「――喋るな! 舌を噛むぞ!!」


 テミスの膂力を以て止めどなく放たれる、途方もない威力を帯びた剣の雨。

 それこそが、圧倒的な数の不利を覆すべくテミスが選んだ戦略だった。

 その事を理解したルードは、背筋に悪寒が走るのを感じながら、小脇に抱えたセレナへ叫び返すと、テミスが投げ放たんとする剣の軌道を読んで躱しつつ、全力で前へと駆けたのだった。

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