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155話 水と油の混ざりかた

「っ!!!」


 放たれた魔法に対して、真っ先に即応したのはフリーディアだった。

 抜き放った剣を体の正面で構え、体を真半身にして魔法弾を待ち受ける。その直撃する魔法のみを切り払わんとする構えは察するに、ある程度の被弾を覚悟した致命傷の身を避けるものだ。


 その対策は正しい。咄嗟に魔法を防ぐ術を持たない人間にとって、不意に放たれた魔法に対抗する手段は躱す事のみ。それすら厳しいのであれば、被害を最小限にするのが最善の方法だ。


「肩の力を抜け、フリーディア。お前は一人ではないだろう?」

「テミスッ!? 貴女、直撃――」


 迫り来る魔法弾に背を向け、テミスはフリーディアに向き合うと不敵な笑みを浮かべた。そして、その自殺行為にも等しい奇行にフリーディアが驚愕の声を上げた刹那。凄まじい爆音や轟音と共に辺り一帯が土煙に包まれた。


「…………えっ?」


 咄嗟にテミスの肩を掴んで屈ませ、その背に庇おうとしたフリーディアの声が土煙の中に木霊する。

 その視線の先では、テミスたちに向けて放たれた魔法弾は全て、突如現れた薄い光を放つ膜に遮られて爆散していた。それどころか、魔法弾の着弾による爆発や衝撃、更には辺りを覆う土煙までもその膜は遮断し、二人の身を守っていた。


「気持ちは感謝するが、少し痛かったぞ。フリーディア」

「えっ……? あ、うん。ごめんなさい」


 テミスが片目を瞑って笑いかけると、フリーディアは逃げる様に膜の外へと視線を走らせ、その唇を小さく尖らせる。


「でも……こんな手があるなら事前に言ってくれても……」

「私は伝えた筈だがな? 我々は急造ではあるが人魔の混成軍団だと。互いの長所を生かさずして、何が混成軍団か」

「っ!! じゃあ……これは……」


 その言葉に更に目を見開き、うっすらと涙を浮かべたフリーディアが声を上げると同時に、土煙と共に二人を守っていた膜も虚空へと消えていく。


「そんなっ!」

「馬鹿なっ! 連中は人間のはずっ……何故即応できるっ!?」

「フッ……」


 その上空から、魔法弾を放った魔族たちの狼狽える声が、風と共に二人の元まで届いてきた。


「上の雑魚共は全て、十三軍団(ウチ)の連中に任せて構わん。我らはただ、無人の野を行くが如く、食い破り、突き進むのみだ」


 テミスはそう言いながらガシャリと大剣を肩に担ぐと、数歩進んでフリーディアを振り返る。そして、空いていた左手を差し出して、不敵な笑みと共に問いかけた。


「それとも、ウチの連中に背中を預けるのは不安か?」

「……いいえ。信じるわ。貴女と、貴女の部隊の強さは、私達が誰よりも知っているっ!」


 一瞬の空白の後。表情を緩めたフリーディアが、握手を交わすようにテミスの手を取ると、その隣に並び立つ。その頭上では、手に雷の槍を携え、今にも二人に襲い掛からんとしていた魔族たちが、真横から飛来した巨大な爆炎にのみ込まれて蒸発した。


「フッ……ならば、連中に……世界に見せつけてやろうではないか。我等が理想とした世界の軍が……人と魔、異なる種族が真なる意味で手を取り合った時の可能性がどれほどのものかをな」


 テミスの言葉にフリーディアが頷くと、二人はそれ以上言葉を交わすことなく一直線に駆けだした。

 逃げる者の背を切り伏せ、何とか応戦しようと振り下ろされる刃を躱す。その隙を狙い澄ました一撃さえ、何処からともなく飛来した風の刃が粉々に消し去っていく。そして頭上に降り注ぐ破滅の雨は、その術者ごと悉くが粉砕されていった。


 まさに無双の快進撃。そんな戦闘とも言えないような交戦が何度か繰り返された後、二人は示し合わせたかのようにピタリと足を止めた。


「……来たか」


 そう呟いて、テミスは肩に担いだ大剣をゆっくりと構える。同時にその隣で、既に戦闘態勢を取っているフリーディアが、静かにテミスから距離を取っていた。


「……来たのはそっちでしょう。二度と顔を見たくないのではなかったのですか?」


 武器を構えた二人の視線の先には、ため息交じりの笑みを浮かべたライゼルが、ふよふよと空中を漂っていた。


「って言うか、あの傷で何で動けるんですか? 化け物ですか? 貴女は」

「ハッ……企業秘密だよ。と言いたい所だが、実は今にも倒れてしまいそうでね……良ければ少しここまで降りてきてはくれないか?」

「ご冗談を。そんな事を、僕が信じるとでも?」


 ライゼルとテミスが、互いに笑みを浮かべながら言葉を交わす。その表情こそにこやかなものの、二人の間に漂う緊張感が、一言発せられるたびに重く、濃くなっていく。


「ハハ……私が嘘など吐く訳がないじゃないか。ホラ、ご覧の通り鎧は孔があいたままだ」

「……貴女がそうして僕の気を引いて、背後に回ったフリーディア様が本命……ってところですか」

「……連れないねぇ」


 ライゼルの放った言葉と共に、辺りを覆う緊張感が一気に膨れ上がった。ライゼルの背後に回ったフリーディアがゴクリと喉を鳴らし、ライゼルと対峙するテミスがゆっくりと腰を落としていく。


「それがバレたら同時攻撃……運命を読むまでも無い。短絡的だ」

「我等二人の攻撃を捌き切る自身がありそうだな?」

「さぁ……? 試してみたらどうだい?」

「そうだな」


 言葉と共にテミスの頬が吊り上がり、邪悪な笑みへと形を変える。そして、ゆっくりと落としていっていた姿勢の動きが止まり、突撃の構えが完成する。その正面。ライゼルの背後でも、フリーディアが脚を縮めて跳躍の体制を取っていた。

 そして、その引き裂かれたように歪められたテミスの口が動く。


「――やはり、お前は運命など見えてはいない」

「――っ!!!!」


 直後。バチィッ! という音と共に、宙に留まるライゼルがグラリと体勢を崩したのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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