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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1655話 勇名に集いて

 朝靄が煙る街道の向こう側から、低く唸るような地鳴りが響き渡る。

 ともすれば、竜の唸り声にも聞こえてきそうなその音は微かに地面を震わせており、歴戦の冒険者たちにはそれが踏み鳴らされる足音の集合体だと理解できた。

 尤も。ゲルベットを守るべく集結した冒険者たちの中で、それを正しくできたのはほんの一握りだけだったのだが……。


「全員! 聞けェッ!! 俺はルード! 今回の魔獣暴走(スタンピード)迎撃作戦の指揮を執るッ! 正直、厳しい戦いになるだろう。だが安心しろ。無理はして貰うが無茶はさせねぇ! コイツが片付きゃあ、ハクトの旦那のおごりでたらふく食って飲める大宴会だッ! 気張れよッ!!」


 そんな中。心中に押し寄せる絶望をかなぐり捨てたルードは、胸を張って冒険者たちの前に立つと、大声を張り上げて口上を述べる。

 その隣には、冒険者ギルドの制服の上から淡い色のローブを纏い、短杖を手にしたセレナが唇を真一文字に結んで控えていた。

 彼女がここに居る理由は二つ。

 一つは、双月商会の主導で遂行されるこの作戦が冒険者ギルド公認のものであることを示すため。

 もう一つは、彼女自身も優秀な魔法使いである為、町を護る戦力の一人として駆り出されてきたのだ。


「オイ……アレって……『雷光』の……」

「本物ッ……!? だよな……横にギルドの受付嬢も居るし……」


 口上を述べ終えたルードが集った冒険者たちを睥睨すると、次第に冒険者たちの間にざわめきが広がっていき、瞬く間に戸惑いと一抹の希望が混じった喧噪へと成長する。


「……。大丈夫……なんですか……?」

「さぁな……。だが、やるしかねぇ。今居る人数は?」

「前衛、後衛合わせて408人です。内A級冒険者は34名」

「思ったより集まったな。流石は『白銀(しろがね)の剣姫』様ってトコロか」

「『雷光』と『白銀(しろがね)』。二名のS級冒険者連名での非常呼集ですから。この近隣で腕に覚えのある冒険者の殆どが駆け付けたんじゃないですか?」


 ガヤガヤと沸き立つ冒険者たちを眺めながら、ルードは声を潜めて密かにセレナと言葉を交わす。

 双月商会との共闘の約束を交わした直後。テミスは渋るルードを引き連れて冒険者ギルドを訪れ、驚くセレナに黒い騎士(バキース)の件を除くほとんどの現状を打ち明けた。

 そして、その場で他の冒険者ギルドに応援要請を出し、少しでも多くの戦力が集うようにと、自分達の名を連ねたのだ。


「ですが驚きました……。まさかあの双月商会が冒険者たちに武装を供与するなんて……」

「クク……奴さん等もそれだけ切羽詰まってんだろ。そりゃそうさ……なにせこれだけの規模の魔獣暴走(スタンピード)だ。俺達が抜かれりゃ連中もまず助からねぇ」

「そう……ですね……」

「…………」


 影のある微笑みを浮かべたセレナがそう呟くと、ルードは酷く気まずそうに視線を空へと向けてボリボリと頭を掻いた。

 如何なる理由があったにせよ、ルードたちが冒険者ギルドを棄てて双月商会に乗り換えた事実は変わらない。

 加えて、冒険者ギルドの職員であるセレナは事あるごとに怖い思いをしてきたのだろう。

 当然。思う所はあるだろうし、釈然としない気持ちも理解できた。


「あ~……まぁ、何だ。俺が言うのも何だが、今は緊急時だ。俺を含めて、連中への文句は全部終わった後で存分に……って事でどうだ? 死んじまっちゃ償いもできねぇ」

「ハァ……。わかりました。正直、顔を見たくもない人たちは沢山いますけれど、我慢します。この戦いで腕の一本でも千切れればいいのに」

「ハハ……ありがとうよ。恩に着る」


 だからこそ、酷く言い辛そうにルードが声を掛けたのだが。セレナは深々と溜息を吐いた後で刺々しく言葉を返すと、ボソリと低い声で恨み言を付け加えた。

 そんなセレナの言葉に、ルードは最後の恨み言は聞かなかったことにして、礼を告げると共に苦笑いを浮かべる。


「なぁ、『雷光』サンよ。アンタが指揮を執るのはわかった。だけど、『白銀(しろがね)』はどうしたんだ? あのヒトも一緒に戦うんだよね? 姿が見えねぇが……」

「んん……? あぁ……」


 ルードがセレナと言葉を交わしていると、眼前に集った冒険者たちの中から一人の男が歩み出て、周囲に視線を走らせながら大きな声で質問を投げかける。

 その、至極当然ともいえる問いは、テミスの二つ名である『白銀(しろがね)』の名は瞬く間に冒険者たちの興味を惹き、様々な憶測が囁き合われはじめた。

 件のテミスは、共闘こそすれども戦う相手が異なるが故に、ルードの指揮下にすら居ない訳だが……。


「アイツは別動隊だ。戦いぶりが見てぇって気持ちはわからんでもないが、悪いこたぁ言わねぇからやめておけ? 仲間の攻撃に巻き込まれて死ぬなんざ御免だろ? ま……もしかしたらもう、どっかでおっぱじめてるかもなぁ」

「おぉっ……!!」

「ッ……!!」


 だが、当然の事ながらこの場で真実を語る訳にはいかず、ルードは飄々とした態度で肩を竦めてみせると、適当な理由を付けてはぐらかしてみせた。

 一応告げた事に嘘が含まれている訳では無いが、集った冒険者たちはルードの思惑通りに勘違いをしたらしく、一様に目を輝かせて朝靄の向こうへと視線を向ける。


「…………。よし! 俺達も負けてらんねぇぞ!! 総員配置に就け! 魔獣どもを迎撃するぞ!!」


 そんな冒険者たちを一瞥したルードは乾いた笑みを浮かべた後、自らの意識を切り替えるかのようにバシリと頬を叩いてから、気合の籠った声で一同に号令を発したのだった。

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