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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1643話 謀略の代償


 ルードから情報を得たテミス達は、対策や今後の作戦へと話を進める事なく話を終えると、ひとまずこの場は解散する運びとなった。

 特に驚いた様子も見せなかったニコルは、そそくさと地下室へ姿を消し、ルードは未だ体調が万全では無いとぼやきながら自らがあてがわれた部屋へと引っ込んでいった。

 そんな中。

 エルリア達を部屋に戻す役目をシズクに任せたテミスは食事の後片付けを終え、一人静まり返った食堂の只中ですらりと腰の刀を抜き放つ。


「…………」


 テミスが黙したまま持ち上げた刀身を眺めると、磨き上げられた刀身に映った紅の瞳が、静やかな瞳で自らを見返している。

 基本的に、魔獣暴走(スタンピード)が発生した際には、その町の冒険者ギルドが主導となって応じ、場合によっては近隣に駐留する部隊への応援を要請する形となる。

 仮にファントならば、自警団と冒険者ギルドが連携して動き、そこへ黒銀騎団からも数部隊応援を派遣して応戦する。

 尤も、それだけで戦力が足りない場合には、黒銀騎団本隊が前線へと出向いて防衛戦を展開する運びとなるだろうが、あくまでも第一陣の指揮を執るのは冒険者ギルドと自警団で。

 表向きに黒銀騎団は彼等に対応を任せるのだ。

 何故なら、防衛戦力であるという立場を振りかざし、討伐時の報奨金や魔物から採れる素材など、旨味も多いこの現象を独占すれば、たちまち冒険者たちの不満が爆発するのは目に見えているからだ。

 だからこそ。

 黒銀騎団は町の安全を担保する最終防衛戦力としての役割は果たすものの、組織として前線に立つことはまず無いと言っていい。

 だが……。


「今のこの町(ゲルベット)では戦力不足も甚だしい。つまらん欲を掻くからだ。馬鹿が」


 刀身に映る自身を見据えながら、テミスは忌々しそうにそう吐き捨てた。

 ファントとは異なり、通行性に重きを置いたゲルベットの外壁では、さほどの防御性能は期待できない。

 加えて、冒険者ギルドを押し退けて台頭してきた双月商会の対応も問題だ。

 もしも利得や立場などに囚われる事の無い冒険者ギルドならば、魔獣暴走(スタンピード)の情報を入手した時点で即座に他の町のギルドへと応援を要請し、十分な頭数を以て応ずる事ができたはずだ。

 だが。事ここに至ってもまだ、連中は自らの利を優先した。

 事前に掴む事ができた魔獣暴走(スタンピード)の情報を伏せただけではなく、この機に乗じて実力者を自らの傘下へ囲い込み、商会の増強を目論んだのだ。

 しかもそのやり方が最悪に等しく、事情を明かして協力を仰ぐのではなく、財力や力でねじ伏せて従えようとしたものだから、集まったのはそれに靡くような戦力として碌でもないような連中がほとんどだ。


「あぁ……。だからこそ、あの連中という訳か」


 残された時間如何によっては、もはや詰んでいるに等しい現状に歯噛みすると、テミスはふと一つの事実に気が付いて声を漏らす。

 テミス達を狙ったあの連中は、後衛の魔法使い連中共は兎も角として、前衛に立つはずの剣士連中も軽装の者達ばかりだった。

 それもそのはず。

 かき集めた冒険者たちを前面に展開し、直属の部隊であるあの連中が各戦域の状況を把握・伝達し、若しくは援護や指揮まで担う腹積もりだったのだろう。

 たとえ正規の軍隊では無い冒険者が逃げ出したとしても、対人戦闘は奴等の土俵。何処ぞの軍隊みたく、『敵前逃亡は死罪』ならぬ、『敵前逃亡は粛清』が成り立つわけだ。


「確かに……私たちやルードが雁首を揃えていたならば、他の連中が些か頼りなくとも勝ち得たやもしれんな」


 皮肉気に微笑んだテミスは、刀に映り込んだ自身を切り裂くかのように刀で眼前の中空を薙ぐと、酷く気怠げに胸の内を漏らす。

 万全の私やルードなら、たとえ単騎で前線へ放り込まれたとしてもそれなりの戦果を挙げる事ができるだろう。

 否。むしろただ魔獣が押し寄せるだけの第一陣に限れば、容易く鏖殺できる。

 しかし残念ながら、今のテミスは万全からは程遠く、一騎当千の戦力であるとは言い難い。


「クク……。まぁ、所詮は余所の町。私が心を砕く義理も、頼まれてもいない分際で自ら進んで献身する義務もない」


 町ごと馬鹿の欲望の犠牲になっては寝覚めが悪い。目に付いた町の住人くらいは助けてやるがな……。と。

 テミスは密かに胸の内でそう付け加えると、喉を鳴らして嗤いながら抜き放った刀を腰の鞘へと納める。

 直属の基幹部隊を失った今、双月商会がどのような手段で現状に応ずる気なのかは知らないが、事をどう収めるかは見ものだ。

 もしもこんな思いを抱いているとフリーディアが知れば、たちまち顔を真っ赤に上気させて怒鳴り込んで来るのだろうな。

 そんな事を頭の中で思い描きながら、テミスは長い白銀の髪を翻して食堂を後にしたのだった。

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