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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第26章

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1641話 密やかなる危機

 ――あぁ……面倒事だ。

 萎れた態度と表情をルードが見せた瞬間。テミスは自身もルードと同じような心持ちに染まっていくのを感じながら、心の中で盛大に溜息を吐いた。

 テミスとて、おおよそ筋が通っているとは言い難い双月商会にルードが従っている時点で、何かがあるかもしれないと思わないでもなかった。

 けれど。ともすれば。旅先での放蕩か、はたまた法外な金品を賭けてのギャンブルか、それとも女絡み(ハニートラップ)か。

 そんな情けない理由で、大切な何かを質に取られていたという可能性……一縷の望みがあったのだ。

 その儚いテミスの願いの根拠には、冒険者ギルドにて相まみえた時、ルードが腰に佩いていた太刀が、以前見た彼の愛刀では無かったという所が大きかったのだが……。


「っ……」

「おいおい。そんな顔をするなよ嬢ちゃん。俺だって厭なんだぜ? こんな話をするのはよぉ……。俺は俺なりに、巻き込まないように努力もしたんだ」

「……そんな酷い顔に見えるか?」

「応さ。まるで大好物の甘味を口に含んでみたら、薬草の煮汁のような味だった……みてぇな景気の悪い顔してらぁ」

「ぶっ……フッ……!!! んふふふふふふふふっ……!!! いや失礼。言い得て妙だと思ってね。ククククッ……!! つ……続けてくれたまえ?」

「…………。お前の例えはわからん」


 テミスの嫌気を察したルードがへらりと笑って軽口を叩くが、彼の言葉が響いたのはどうやらニコルだけらしく、テミスを含めた他の面々は皆呆れ顔を浮かべていた。

 それでも。多少なりとも気を紛らわせるという最低限度の効果だけは果たされており、足をばたつかせながら爆笑するニコルの笑い声が響く中、ルードは深いため息を一つ吐いてから静かに口を開く。


「こいつは極秘の情報だ。双月商会内でも知っているのは一握りの奴等だけ……。コイツがそれだけ繊細な情報だってのは覚えておいてくれ」

「ッ……!」

「知るか。嫌だ。聞きたくもない。喋ったら大声で触れ回ってやる」

「クククッ……!! それも良いかもな。少なくとも、助かる奴は確実に増える」

「…………」


 声のトーンを一段落としたルードがそう前置きをすると、シズクやエルリアたちは緊張に呑まれてゴクリと生唾を飲み下す。

 だが、テミスは鼻を鳴らして軽口を叩き、じっとりとした視線をルードへと向けた。

 けれど、ルードはテミスの無駄に等しいささやかな抵抗すらも一笑に伏し、大真面目な顔をして話を続けた。


「近々。このゲルベットの町を大規模な魔獣暴走(スタンピード)が襲う可能性が高い」

「はぁ……? なんだそれは。勿体ぶるから何かと思ったら……下らん。かき集めた冒険者共で勝手にやってろ。身構えて損した」

「…………」

「フッ……まぁ慌てんなって。いいか? コイツはただの魔獣暴走(スタンピード)じゃねぇ。そもそも、魔獣暴走(スタンピード)は突発的に起こる災害みてぇなモンだ。予測できるようなモンじゃねぇ」

「……予測できるとすれば、何処かの組織が意図的に魔獣の数を増やして、何か良からぬことを企んでいた……くらいでしょうか」


 低い声で告げられた情報に、テミスは一瞬自らが聞き違えたかと疑う程度には衝撃を受けると、舌打ちと共に視線を明後日の方向へと向けて吐き捨てる。

 面倒事に関わるなど御免だがルードには借りがある。これ程の男が警戒せざるを得ない程の巨悪が蠢いているのなら、力を貸すのもやぶさかではない。

 そう思っていたが故に、テミスとしては肩透かしもいい所だった。

 そんなテミスの内心を知ってか知らずか、ルードは喉を鳴らして不敵に笑いを零しながた言葉を続けるが、拗ねたように口を閉ざしたテミスを横目にしたシズクが代わりに言葉を返した。


「正直……そっちのが百倍マシだぜ。コイツにゃあこの場所の土地柄も深く関わってるンだが……。なぁ、姐さん。構わねぇかい? どうせアンタの方でも掴んでんだろ? 今回ばかりは――」

「――勝手にすると良いさ。キミが何を喋ろうが、ワタシの関知する所ではないよ。キミ達が掴める程度の情報など、アルブヘイムでは常識もイイ所だ」

「……あいよ。姐さんの許可も出た事だ。とっておきを教えてやるよ。なんで双月商会が魔獣暴走(スタンピード)を予測できたのか、そしてこの魔獣暴走(スタンピード)が普通じゃねぇってワケもな」

「…………」


 にべもないテミスの態度とシズクの返答に、ルードは一度言葉を止めてニコルへと視線を向け、まるで何かを確かめるかの如く問いかける。

 それに対し、ニコルもまたルードが皆まで言い切る前にピシャリと言葉をかぶせて応じてから、悠然と肩を竦めてお茶を傾けた。

 ニコルの言葉を受けたルードが、相も変わらず軽薄な笑みを浮かべて再び喋りはじめる。

 だがその言葉とは裏腹に、テミスの目にはまるでニコルがルードの伺いを退けたように見えて。

 テミスは確かに感じた違和感を胸の内に留めると、明後日の方向へと視線を向けたままルードの話に耳だけを傾けた。


「アルブヘイムは戦争中なんだよ。ずっと……ずぅっと永い間。それこそ、魔王軍が人間達と戦いを始めるずっと前から……な」

「っ……!?」


 しかし、そこから飛び出てきたのはテミスの予想だにしていなかった事実で。

 自らの不機嫌を露わにそっぽを向いていたテミスも、思わず驚きに目を剥いてルードへと視線を戻したのだった。

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