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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1621話  異なる理

 一方その頃。ゲルベット中心街・双月商会本店。

 高々と聳え立つ巨大な建物には、武器や防具といった品から食料品まで、古今東西の品々を取り扱う専門店が軒を連ねており、巨大な空間を用いたメインホールとなっている一階部分では、多種多様な依頼を持ち込む人々と、それを請けるべく通い詰める冒険者たちで満ち溢れていた。

 尤も。正規の冒険者ギルドではない双月商会を介しての依頼では、世界中の町に点在する冒険者ギルドが定めるランクや依頼の達成数に影響を及ぼす事は無いが、その代わりに双月商会は独自にクラスレベルなるものを定めている。

 無論。ただそれだけでは圧倒的な組織力と歴史を背景に、世界中の冒険者を取り仕切っている冒険者ギルドに対抗できるはずも無く、依頼料は冒険者ギルドよりも安く、しかしギルドよりも高く設定された報酬や完全実力主義などの方針を軸に、双月商会のギルドは今日も大層な賑わいを見せていた。


「よぉ。ハクト商会長に呼ばれてきたんだが……。取り次いでもらえるかな?」


 そんなメインホールにフラリと姿を現したルードは、ずらりと設えられたカウンターの一つへ歩み寄ると、柔和な笑みを浮かべて受付の係へと声を掛ける。


「……。大変申し訳御座いませんが、当商会長が一般の冒険者の方々にお会いする事はありません。クエストのご依頼でしたら依頼受付にて承っておりますので」

「いやいや。だからハクト商会長からこの時間に訪ねて来いって言われたんだよ。もしかして……話、通ってないかい?」

「ハァ……。よろしいですか? ハクト会長は大変ご多忙なお方です。あなたがどれ程の武勇をお持ちのどなたかは存じませんが、ただの冒険者と面会などなさるはずが御座いません。っ……! あぁ……スカウトを受けた方でしたら、こちらの窓口ではなく新規登録受付の方までお願いいたします」

「かぁ~~っ!!! 参ったね……どうも……。俺は別に嘘をついている訳でも勘違いをしている訳でも無いんだが……。なぁ……いったん確認だけでもしちゃくれねぇかい? 俺はルードってんだ」


 しかし、受付に立っていた女は冷ややかな目でルードを一瞥した後、淡々と事務的な口調で対応を続けた。

 まさに取り付く島もないといった様子の彼女からは、どことなく冒険者を蔑んでいるような雰囲気すら感じられたが、ルードが気分を害した様子は無く、大袈裟に困り果てたような身振りと共に粘り強く食い下がる。


「生憎ですが、そのような方が訪れるという連絡は受けておりませんので、確認をする必要はございません。何度も申し上げますが、商会長はこの双月商会を束ねていらっしゃるお忙しいお方です。お約束をお持ちの商人の方ならば兎も角、貴方のような腕っぷしだけの冒険者風情になどお会いになるはずが無いでしょう」


 だが、受付の女の対応は加速度的に厳しいものへと変わっていき、はじめはただ事務的で無感情だった瞳には、隠す事の無い蔑みの色が冷ややかに浮かんでいた。


「んん……冒険者風情……ね……。ま、アンタ等にとっては所詮、俺達なんざアンタらの儲けに群がって甘い汁を吸いに来る虫のようなもんだ。実際ここにいる連中は皆、報酬に釣られただけのクズ共だしその認識は間違っちゃいねぇよ。……けどな」

「ッ……!! 一応警告いたしますが、ホール内での準戦闘行為には厳罰が課されます。抜剣はもとより、声を荒げての恫喝は貴方の損失に繋がるとお考え下さい」


 そんな女の態度にも、ルードはポリポリと頭を掻いて嘯いただけだったが、鋭い眼光と共に一際低い声で言葉を付け加えた瞬間、女の手がカウンターの下へと閃いて声が緊張を帯びる。

 事実。荒くれ者も少なくはない冒険者の中には、双月商会への誘いを自らへの特別なものだと勘違いする者も多い事をルードは良く知っていた。

 元より、この場に集っている者達は、先日相まみえたテミスのように一本筋の通った者ではない。

 取引を重ねる事で安定した生活を送る商人とは異なり、依頼を喰らって生きているその日暮らしの身とはいえ、長年世話になってきた冒険者ギルドを棄てた連中だ。特に信用を是とする商人たちからしてみれば、唾棄すべき裏切り者に映るのかもしれない。

 だが……。


「嬢ちゃん。悪いこたぁ言わねぇから、そういう態度は止しておいた方が良い。アンタら商人が縁ってやつを大事にするように、俺たち冒険者は面子や誇りを重んじる。アンタの態度は無駄な諍いを生むだけだぜ?」

「脅しですか? 他の方々のように怒鳴り散らしたり、安易に武器を抜かれない所は評価致しますが……。あなた方冒険者の下らない面子とやらと、我々商人の紡ぐ縁を同列かのように語らないで下さい。第一、冒険者に商いの何がわかるというのですか……」

「やれやれ……そんなに震えながら言われちゃ、まるで俺が悪者みてぇじゃねぇの。アンタら商人にとっちゃ、俺たち冒険者もある意味取引相手だと思うんだがね……。ま、良いさ。これ以上話していても無駄みてぇだし、商会長はこっちで勝手に探すとするよ」


 低く静かな声で続けたルードの言葉も届く事は無く、女は怒りと恐怖が綯い交ぜになった表情でルードを睨み付けながら反論をした。

 そんな女に、ルードは深いため息と共に肩を竦めて言い残すと、ヒラヒラと手を振りながら軽やかに身を翻したのだった。

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