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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1620話 果たすべき盟約

「では、これを着て貰おうかな」


 テミス達の二日酔いが収まりはじめ、地獄のような懺悔の時に終わりが見えた頃。まるでそろそろ動く事ができるようになったタイミングを見計らったかの如くテミスの前に姿を現したニコルは、爽やかな笑顔を浮かべて一着の服をテミスへと差し出した。

 だが。問題だったのはその意匠で。

 丈の短いスカートにフリルの付いた白いエプロン。基調とされている色は黒で統一はされているものの、袖丈は半袖シャツもかくやという丈に収まっており、脚といい腕といい無駄に露出が激しいように思える。

 何より、その動きやすいであろう事以外において実用性皆無な衣装は、何処からどう見ても悪質な改造を施されたメイド服そのものであり、ご丁寧にヘッドドレスまで用意されていた。


「………………」

「んん……? まだ動けないかい? そろそろ酒も抜ける頃だと思ったけれど……。あぁそうだ、コレも忘れないようにね」

「……何だ? コレは」


 突き出された衣装に言葉を失うテミスに、ニコルは上機嫌で言葉を紡ぎ続けると、今度は艶やかに黒光りするショートブーツと剣帯をベッドの上にバサリと追加する。

 信じがたい。否。理解したくない事象を前に、テミスは頬を引きつらせながらゆっくりとニコルへ視線を向け、絞り出すような声でゆっくりと口を開いた。

 昨夜の賭けの事ならば覚えている。無論、約束を違うような真似をするつもりは無いし、料理やニコルの助手を務めるのだ百歩譲って使用人の衣装に身を包む事までは良しとしよう。

 しかし、幾らなんでもこの丈は流石に無いだろう。

 こんな格好をした上で、まるで軍靴のようなブーツに剣帯などというちぐはぐなモノを身に着けてしまえば、たちまち独創的極まるセンスを迸らせた変態の出来上がりではないか。


「なにって……テミスちゃん。キミの制服だよ? 何を隠そうコレは全て魔道具でね、不壊と清浄の刻印が刻んであるから、汚れる事も破れる事も無い。何なら、そんじょそこいらの鎧よりも固い筈さ。ま、とはいえ素材が布であることに変わりはないから、このままだと斬られる事は無くても衝撃は通っちゃうワケなんだが……。そこで! 抗衝撃の刻印の出番って訳さ。コレさえあれば、ある程度の衝撃は和らげることができるから、たいていの攻撃は無力化できる! それに加えて、テミスちゃんの不調を補うために、集魔と癒し、オマケに空調と飛翔の刻印付きだ! んん? そんなに刻印を刻んでしまっては消費魔力がとんでもない事になるだろうって? ふっふっふ~! 良い着眼点だけれど、そもそもこの服はテミスちゃんの為にワタシが誂えた物。勿論その辺りも抜かりはないよ? さっき集魔の刻印を刻んであると言ったけれど、これがワタシの開発した特別製でね。収集した魔力が更に魔力を集めてくる機能付きなのさ! これはつまり! 着用者の魔力を一切使わずに刻印の恩恵に与れる事を意味していて――」


 だが、悲しいかなテミスの問いの意図はニコルには正しく伝わらなかったらしく、ニコルは得意気な笑顔を浮かべたかと思うと、制服に込められた性能について延々と解説を語り始めた。

 その内容は、原理こそテミスにはわからないものの、筆舌に尽くしがたいほど凄まじい効力を持つ事は理解でき、もはや一種のアーティファクトや神器の類の域に至っているのは確実だった。


「ハハ……。こんなふざけたものを作り出す力量だ。一端でも知ればそりゃ何を置いてでも欲しがるはずだ……」


 テミスは乾いた笑みを浮かべてそう呟きを漏らすと、そろりと腕を伸ばして、ベッドの上に無造作に置かれたメイド服の形をした神器の裾をペラリと捲り上げる。

 けれどその裏地には、テミスの想像したような仰々しい刻印が縫い留められておらず、肌触りの良い滑らかな生地が柔らかに佇んでいた。


「――訳だけれど……。おぉ! 見てくれたね? 無論! 着心地にも拘っているとも! 刻印は全て肌に触れないように重ねた生地の内側に施してあるから安心したまえ! いやぁ……我ながら出来上がった時には、気合を入れただけあって傑作ができたと達成感に浸ってしまったほどさ!」

「……あぁ。コイツが途方もない代物だという事は理解したし、そんなものを私の為に誂えてくれたことは感謝する。だがな」

「ん? 何か問題でも? 一応、刻印で大きさはぴったり合うようにしてあるし、一応元の大きさもテミスちゃんに合わせてあるはずだけれど……」

「違う。そうじゃない。問題は何故こんな丈が短いのかという事だ。防具を兼ねているのならば、露出が多過ぎるだろう。せめて膝下くらいの長さを確保すべきではないか?」


 次々と盛られていくトンデモ機能に頭を抱えながらも、テミスはうんざりとした口調でこの神器が抱える唯一の問題点に言及していく。

 これ程の逸品だ。身に着けるのが恥ずかしいと正直に告げるのは我儘を言っているようで気が引ける。だからこそ、機能面から攻めてみることにしたのだが……。


「何を言っているんだい? キミは剣を扱うのだろう? スカートが長くては動きにくいじゃないか。それに、キミの身体能力ならば、この服の防具としての性能はオマケみたいなものだよ。それよりも、キミ本来の動きを阻害しない方が大切だ」

「グッ……!! だが……!!」

「あぁ。悪いけれど大剣はどうしても嵩張るから、携行するのは刀の方が好ましいね。申し訳ないけれど、その点だけ留意して欲しい」

「ッ……!! だったら!! 無理に丈の短いスカートに拘らずとも良いのではないだろうか!?」


 テミスの悪あがきは圧倒的なニコルの腕と知識によって封殺され、追い詰められたテミスは淡々と進んでいく話を何とか食い止めようと、必死で声を上げた。

 しかし……。


「拘るとも。凛々しい服を着たキミも美しいけれど、可愛い服を着たキミも見たいじゃないか! そこだけは装備の製作者として絶対に譲れないところだよ!! ……うん! やはり華があると心が潤うね!! ぐふっ……ぐふふふっ……!!」

「…………。ハァ……」


 ニコルはテミスの抵抗を、熱の籠った言葉で一蹴すると、不気味な笑い声を漏らし始める。

 そんなニコルに呆れたような生温い視線を向けながら、テミスは最早この制服を身に纏う未来から逃れる事はできないと悟ると、酷く物憂げに溜息を洩らしたのだった。

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