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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1619話 悔恨の時

 干からびた砂漠の只中に悠然と鎮座する酸の池。

 目を覚ましたテミスの脳裏に真っ先に浮かんだのは、さながらそんな地獄のようなイメージだった。


「ッ……!! ぅ……ぁ……」


 渇きと苦しみ、そして意識がはっきりとしてくるにつれて増大する頭痛と倦怠感に、テミスは堪らず呻き声をあげる。

 苦しい。気持ち悪い。頭が痛い! 身体が動かないッ!

 仄かな酸っぱさを帯びた香りと共に、微小な針で身体の内側を滅多刺しにするかのような苦痛が胸の内を込み上げ、テミスは半ば本能的に喉元に全霊の力を籠めると、胸元までせり上がってきていた何かに抗った。

 しかし対策を考えようにも、思考を司る筈の頭は頭蓋の内側から釘でも打ち付けられているかの如く酷く痛み、視界も明滅しながらぐるぐると回って一向に定まらない。

 地獄の責め苦というのは、きっとこういう苦しみの事を指して云うのだろう。

 痛みには多少の心得があるテミスの精神力を以てしても耐え難い、自らの内側から襲い来る責め苦は留まる事を知らず、テミスは言葉すら発すことの出来ずにただ悶絶する事しかできなかった。


「っ……むぐ……ぐ……ぅぐ……ぇ……ぷっ……!!」


 苦しみと共に襲い来る途方もない渇きに、意識は水分を求めて絶叫するも、肉体と本能が全力でそれを拒絶する。

 そんな矛盾した声なき叫びをあげながら、テミスは永劫にも感じられる地獄の苦しみにひたすら歯を食いしばった。

 尤も、テミスには途方もなく長い時間に感じられたとて、現実ではテミスが目を覚ましてから一分すら経過してはいないのだが。


「おっ……起きたか。とりあえず水、枕元に置いておくぞ。どうせ相当キツいだろうからしばらく寝てると良い。あ、頼むから吐くなら横のバケツにしてくれよ? そこはワタシの寝床なんだからな?」


 明滅する意識の片隅で、テミスは辛うじてニコルの声を聞き取ると、自らの頭上から同時に響いたコトリという僅かな衝撃に身を震わせる。

 テミスはこの絶望、この苦しみには、一つ覚えがあった。

 これは二日酔いだ。

 我が身に降りかかる苦痛という名の懲罰を受けつつ昨晩の己の愚行を悔い、神に許しを請いながら暴風が如き絶望が過ぎ去るのを待ち続ける贖罪の時間。

 久しく体験する事が無かったが故に忘れかけていた後悔が、テミスの心を焦がす。


「……ぐすっ…………ひぐッ……ぅぅ……」

「…………」


 どこからともなく響いてくるシズクのすすり泣く声に、テミスは彼女もまた自らと同じ状況に置かれているのだと直感した。

 だが、起き上がる事はおろか、横になって留まっている事すら辛い今のテミスにしてやれることなど無く、ただひたすらに一秒でも早く自らの体調が快復することを祈る事しかできなかった。


「あ゛……ぁ……。く……そ……ぉ……。頭が……ぐわんぐわん……す……る……」


 しばらくの間呻き声をあげ続けた後。テミスは持てる精神力の全てを使って僅かに体を起こしながら、酷くしゃがれた声で言葉を漏らした。

 未だに酒は抜けきっておらず、体調も最悪と言うに相応しい。

 だが僅かに。薄紙を剥ぐかの如く少しづつ、しかし確実にテミスは胸の内をせり上がってくる灼けるような液体が、在るべき場所へと戻っていくのを感じていた。

 それに伴って、眩暈や頭痛が倍増したような気もするが、自らの魂に刻まれた経験則から一つの山場を越したことを悟ったテミスは、密かに胸を撫で下ろした。

 けれど。ここで油断をして渇きに呑まれ、用意された水へと手を伸ばす事は何よりの愚行であることをテミスは深く理解している。

 そんな事をしてしまえば、飲み下した水がその名が示す役の通り呼び水となって、在るべき場所へ戻ったモノをまとめて吐き戻す羽目になるだろう。


「ま……これでわかったろ? 今の自分の状態がさ。調子に乗って飲ませ過ぎたのは謝るけれど、くれぐれもワタシの所に居る間は無茶をしないでくれ。ギル坊に怒られるのは悲しいからね」

「ハっ……ハっ……!! あぁ……。お陰で……よぉ……く……わかった……よ……」

「くふふ。苦しませてしまったお詫びと言っちゃ何だけれど、ワタシも色々と頑張るからさ。どうか許してくれたまえ。あぁ……でも、昨日は二人ともすっごぉく可愛かったからねぇ。また近いうちに飲み明かすのも悪くはないかもしれないね」

「このッ……ウッ……!!! ッ~~~!!!! くそぉっ……!! 覚えて……いろよッ……!!」

「ウフフフフフフッ!! ま、飛び切り可愛く仕立ててあげるから、楽しみにしながら休んでいる事だねぇ……!」


 浅い呼吸と共に、絞り出すような声で言葉を紡ぐテミスに、ニコルはクスクスと楽し気に笑いを零すと、悶絶するテミスの頭をさらりと撫でた後で、テミス達の傍らから歩み去っていったのだった。

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